報道資料

平成8年11月18日
電子ネットワーク協議会


インターネットにおけるフィルタリング機能普及の検討開始
=受信者の設定レベルに基づく選択的情報受信が可能に=


 電子ネットワーク協議会(会長:関本忠弘)では、インタ−ネットを利用する際に、受信者が設定するレベルに合わせて、選択的に情報を受信できるようにするための「フィルタリング機能」普及の検討を開始した。

1.「見たくない(見せたくない)」情報を排除できる方式
 インターネットでは、情報発信が容易であり、発信情報が直ちに世界をかけめぐる特性を有している。この特性は、学術研究や産業活動の効率化等に大きな寄与をしているが、誹謗中傷、人種差別などの倫理的に問題とされる情報や、猥褻、テロなどの非合法情報もネット上を広く流通し、大きな社会問題化しつつある。これに対処するためには、大きく分けて、政府等による新たな法的規制と、情報の選択的受信等による利用者を含む自主的対応の二つが考えられる。
 前者の例として、米国では発信情報を規制する通信倫理法を含む通信法が成立したが、地裁で違憲判決が出され、最高裁で審理されつつある。欧州、アジアの多くの国でも政府による新たな法的規制が進められている状況にあるが、問題解決にはなりえていない。
 一方、後者としては、WWWコンソーシアムによるPICSのように、情報発信を制限することなく、情報に対するレーティング(ラベル付け)に基づく設定によって、「見たくない(見せたくない)」情報を排除できる(フィルタリング)方式を確立する動きや、英国のサービスプロバイダ等によるセーフティネットのように、フィルタリング方式のみならず、非合法な情報発信に対するホットライン(通報受付)サービス、ユーザ及びプロバイダの責任ある対応から成る提案などの、規制なしでネットワーク利用を行えるようにするための様々な対応がなされ始めている。

 フィルタリング方式は、情報の発信を規制または制限するするものではなく、受信者がラベルを利用して、受信する情報を選択または制限できる、受信者による自主管理システムを実現する。

○受信者がフィルタリング機能を活用して情報を選択する例
 ・インターネットを子供に利用させている両親または教師が、子供にヌードを見せないように設定。
 ・インターネットの利用者で猥褻画像を見ることを望まない人が、セックスを含む画像が見えないようにあらかじめ設定。

2.当協議会におけるこれまでの経緯
 当協議会は、言論の自由を侵すことなく、パソコンネットの利用者が誹謗中傷や人種差別などを受けることのないように、規制ではなく、自主的なガイドラインの制定による問題解決を検討している。この活動成果の一つとして、本年2月には「電子ネットワーク運営における倫理綱領」および「パソコン通信サービスを利用する方へのルール&マナー集」を公表した。
 その内容は、平成6年度から7年度にかけてパソコンネット上の倫理問題に対応するために、当協議会の基本問題分科会で検討した結果をまとめたものであるが、インターネットの普及が著しく進展したことを受けて、社会的な関心を集めた。また、企業・団体等におけるインタ−ネット/パソコンネット管理者からは高い評価を得て、各ネットへの転載要請が多く寄せられてきた。

3.「フィルタリング機能」普及の検討開始
 パソコンネットは、インターネットと接続融合しつつある状況にある。インターネットは、学術研究や産業活動の効率化のみならず、個人の利便性を高めることに多大な寄与をしており、近年、教育現場でこれらを活用して高い教育効果を上げている例も見られる。
 しかし、猥褻画像等がネット上を流通し、それらへの対応が不十分な現状では、特に教育関係者や企業関係者において、それらの情報が児童・生徒や社員等に見られる場合の悪影響を懸念する人々も多い。このことが、インターネットへの接続の障害となり、ネットワークの普及を遅らすことにならないようにする必要がある。

 当協議会はそのような教育関係者や企業関係者等における問題に対処するために、同様の問題意識を有する通商産業省とも連携をとり、新たに、ユーザのパソコン等において、受信者が設定するレベルに合わせて、選択的に情報を受信(フィルタリング)できるようにするための、インターネットにおける「フィルタリング機能」普及の検討を開始した。

 具体的には、国際的に広く使われているRSACi等に準拠したレーティング基準によるPICS準拠のフィルタリング機能提供を、ネットワーク事業者の判断に基づき、個々のユーザからの要望に応じて行えるようにするために、フィルタリングソフトウェアの提供サービスやフィルタリング機能を利用できるようにする等の協力・支援を検討する。
 これにより、民間企業によるPICS準拠のフィルタリングソフトウェアの開発、教育関係者や企業関係者等によるレーティング基準の検討、外部公的機関あるいは民間企業によるレーティングデータベースの作成、当協議会の事務局を務める(財)ニューメディア開発協会により来年度から開始される予定のレーティングビューロの実験的運用の効率化・高度化(例えば、見たくない(ブラックリストの)情報の排除のみならず、見たい(ホワイトリストの)情報の選択等)につながることが期待される。

    問合せ先: 電子ネットワーク協議会  山科、清水
            電話    03−3457−0671
            FAX   03−3451−9604
            〒108東京都港区三田1−4−28三田国際ビル23階
            (財)ニューメディア開発協会内


付録

1.WWWコンソーシアム(W3C)とは
 インターネットと言えば ワールドワイドウェブ(WWW)を意味するようになり、名刺に電子メールアドレスだけでなく、WWWのホームページアドレスであるURL(ユニフォーム・リソース・ロケータ)を記載する人々が増えつつある現在、インターネットと同様にWWWは米国生まれと誤解されている方々も多いようであるが、WWWは欧州生まれ、正確にはジュネーブ郊外のフランスとスイスにまたがって存在するCERN(ヨーロッパ原子核共同研究機関)で誕生したものである。
 WWWコンソーシアム(W3Cと略す)は、WWWを発展させるための共通プロトコルと標準ソフトウェアを開発するために存在しており、CERNでWWWを生み出したTim Berners Lee氏が、この組織のディレクタになっている。W3Cには、世界規模で150以上の企業が参加している。これまで、米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)とフランスのINRIA(国立情報自動化研究所)がホストを務めており、本年9月に慶応大学湘南藤沢キャンパスが新たなホストとして加わった。

2.PICS(the Platform for Internet Content Selection)とは
 W3Cは、インターネットの社会的責任を技術的に解決するために、昨年夏から、規制なしでインターネットアクセスをコントロールするためのPICS(the Platform for Internet Content Selection の略称)の開発を進めている。特徴は、インターネットにおける情報発信を制限することなく、受信者が設定するレベルに合わせて、選択的に情報を受信(フィルタリング)できるようにするところにある。
 W3Cは、実現するためのフォーマット等に関する標準仕様を規定するのみで、ソフトウェアやレーティングシステムを提供する訳ではない。それらは、外部の活動にまかせられている。例えば、マイクロソフト社が最近リリースしたパソコン上のブラウザソフトウェアである「インターネットエクスプローラ3.0」にはPICS準拠のフィルタリング機能が組み込まれている。
 フィルタリングを行うためには、そのようなソフトウェアやレーティング基準の他に、情報発信者自身が情報に対してレーティングする(セルフ・レーティング)か、流通している情報に第三者が付加的なレーティングを行う(サードパーティ・レーティング)ことによるレーティングデータが必要である。サードパーティ・レーティングのデータは、異なる価値観に基づき複数種類存在しても良い。
 そのような多様な入手源からのレーティングデータをフィルタリングソフトウェアが設定に基づいて参照することによって、受信者が受信する情報、または両親や教師が監督下の子供たちに与える情報をコントロールすることを可能にする。
 PICSで用いられる用語の意味は、以下の通りである。
(1)レーティングとラベル付けは、同じ意味で用いられる。
(2)レーティングシステムまたはレーティングボキャブラリは、レーティングまたはラベル付けの際に用いられる基準や尺度のことである。本資料では、レーティング基準を用いている。
(3)レーティングサービスは、ラベルを提供するサービスのことをいう。
(4)レーティングビューロまたはラベルビューロは、サードパーティ・レーティングのデータ要求に対して応答する、ネットワーク上のHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)サーバをいう。

3.セーフティネット(R3 Safety-Net)とは
 英国では、情報に対するPICS準拠のレーティングサービス(Rating)、非合法な情報発信に対するホットライン(通報受付)サービス(Reporting)、ユーザによるセルフ・レーティング及び非合法情報掲載の通報を受けたらプロバイダは必要な処置をする等の責任ある対応(Responsibility)の3本柱から成るセーフティネット(R3 Safety-Net)提案が、インターネットサービスプロバイダ協会、ロンドン・インターネット・エクスチェンジ、セーフティネット財団から出されている。
 セーフティネットでは、とりあえずは英国で非合法とされるチャイルドポルノ情報を対象としているが、政府による法的規制ではなく、民間において問題解決しようとする点と、W3Cが進めているPICSだけでは実効性の観点から不足している部分を、ホットラインサービスとユーザ及びプロバイダの責任ある対応で補おうとする考え方が高く評価される。

4.RSACiについて
 RSAC(Recreational Software Advisory Council、娯楽ソフト諮問会議)は、公共、特に両親が電子メディアについて必要な決定をする際に、オープンで客観的なコンテンツ諮問システムによる支援を行う、非営利団体である。
 RSACi(RSACによるインターネット・レーティングシステム)は、スタンフォード大学で20年以上にわたり、メディアが子供に与える影響を研究してきたDonald F. Roberts 博士の研究成果に基づいている。基準としては、以下の項目があげられている。各項目の数字はレーティング値を表している。

  暴力             ヌード
   0 すべての暴力を制限    0 なし
   1 闘争           1 露出的な服装
   2 殺害           2 部分的なヌード
   3 流血を伴う殺人      3 全裸
   4 残忍で過激な暴力     4 刺激的な全裸

  セックス           言葉
   0 なし           0 不快感を与えない俗語
   1 情熱的キス        1 穏やかな悪口
   2 着衣のままの性的接触   2 悪口
   3 性的接触の不鮮明な描写  3 性的なジェスチャー
   4 性行為の鮮明な描写    4 不快感を与える露骨な表現


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