報道資料

平成9年9月16日
電子ネットワーク協議会

インターネットにおけるレイティング・データベースの稼働開始
=受信者によるコンテンツの自主選択を可能にするサービス=

 電子ネットワーク協議会(注)(会長:関本忠弘)は、インタ−ネットを利用する際に、受信者が設定するレベルに合わせて、選択的かつ主体的に情報を受信できるようにするための「フィルタリング機能の普及」を推進している。
 これまで、当協議会の事務局を務める財団法人ニューメディア開発協会では、通商産業省からの出資を受けて情報処理振興事業協会が実施する「創造的ソフトウェア育成事業」の一環として、インターネットにおけるPICS(付録1)準拠のフィルタリングソフトの開発を実施してきたところである。

 本日から、わが国で初めての、インターネットの各ホームページをレイティング(格付け)してラベルを付加したデータベースシステム(PICS準拠ラベルビュ ーロ)の運用サービスと、利用者のパソコンに組み込むソフト(Windows95 対応 クライアントソフト)のオンライン配布を開始する。

 それらによって実現されるフィルタリング機能の実現により、発信者の情報発信の自由を尊重しつつ、利用者の「知りたい」という権利と、「見たくない」または「(子供達に)見せたくない」という利用者の意思を、それぞれ尊重することができる利用者主体の情報システムが確立されることになる。

1.これまでの経緯
 インターネットは、社会インフラとしての普及、世界規模での広がりによって、学術研究や産業活動の効率化のみならず、個人の利便性を高めることに多大な貢献をしている。しかし、情報発信が容易であり、発信情報が直ちに世界をかけめぐる特性を有しているため、誹謗中傷などの倫理的に問題な情報や、猥褻、暴力などの非合法情報もネット上を広く流通し、大きな社会問題となっている。これに対処するためには、法的規制による対応も考えられるが、政府による新たな法的規制ではなく、情報技術を活用した情報の選択的受信などに基づく利用者による自主的対応が、現実的な解決策として、国際的な潮流になっている。
 当協議会は、昨年11月に「インターネットにおけるフィルタリング機能普及の検討開始」、本年8月に「インターネットにおけるフィルタリング機能の構築開始」を報道発表し、国際的に広く使われているRSACi(付録2)などに準拠したレイティング基準によるPICS準拠のフィルタリング機能の利用を、個々の利用者からの要望に応じて行えるようにするための協力・支援を検討してきた。
 それを受けて、当協議会の事務局を務める財団法人ニューメディア開発協会では、通商産業省からの出資を受けて情報処理振興事業協会が実施する「創造的ソフトウェア育成事業」の一環として、インターネットにおけるPICS準拠のフィルタリングソフトの開発を実施してきた。

2.ラベルビューロの構築

○ラベルビューロの構成
 本日から運用サービスを開始するラベルビューロは、W3C(付録3)によって決められたPICSと呼ばれる標準仕様に基づいて動作するサーバソフトと、URL(ユニフォーム・リソース・ロケータの略で、インターネット上のページアドレスを意味する)毎に、レイティング基準に基づいてレイティングして、ラベルを付加したデータベースから構成されている。さらに、ラベルビューロの構築・管理を容易にするための、検索サイトにおける検索結果のクリッピングやロボット検索などの検索サイト連携機能や、ラベル登録・検索・更新・削除機能のGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)も備えている。

○レイティング基準
 ラベル付加の際のレイティング基準は、別表に示すように、青少年向けを想定して国際対応の観点からRSACiの項目とレイティング値をベースとし、ドラッグやギャンブルのような新しいカテゴリを追加して拡張することができるようにするために、「その他」のカテゴリを暫定的に加えている。各項目の数字はレイティング値を表している。このレイティング基準を記述したファイルは、クライアントソフトに添付して配布される。  実際のレイティング作業においては、格付けの判断が難しい場合も存在するので、より詳細な作業用マニュアルを、わが国におけるパッケージメディアの業界自主基準などを参照しながら用意した。さらに、例えばヌード写真が芸術であるか猥褻であるかなどの判断が分かれるものについては、そのような観点では判断を行わず、露出度で機械的に格付けすることにした。

○フィルタリング用データベースの概要
 データベース構築に当たっては、ホームページへのアクセスの際に利用される、検索サイトでの「キーワード」に着目し、検索結果から得られる各ページ毎に、目視によりラベル付加作業を実施した。
 具体的には、利用頻度が高いアダルト系キーワード(アダルト、セックス、ヌード、風俗、ロリータ、SMなど:これらは、通常、検索サイトの検索語上位20位以内に含まれている)と、キーワード上位には含まれないが青少年には好ましくないと考えられる暴力系キーワード(暴力、殺人、死体など)をフィルタリングの対象とした。この結果、1万以上のホームページのフィルタリング(選別)が可能となっている。
 世界中のホームページの数は、6千万〜7千万と推定されており、すべての有害情報をもれなくフィルタリングの対象とすることは、不可能であるが、当該データベースの構築により、通常の検索により、接触できる日本語の有害情報の大部分をフィルタリングの対象とすることができるものと考えられる。

○データベースの更新
 ホームページは、日々、世界中で、構築・更新されるものであるから、当協議会のデータベースについても、一定期間毎に更新することとしている。更新に当たっては、利用者からの連絡や教育関係者などとの意見交換を踏まえつつ進めていくこととしている。
 なお、パソコン管理者・利用者の側でも好ましくないと思われるホームページを見つけた場合には、直ちに自らのパソコンのデータベースにその情報を入力し、フィルタリングの対象とすることが可能である。

3.クライアントソフトの特長

○ブラウザに依存しない
 本日から配布するWindows95 対応正式版クライアントソフトは、パソコンにおける利用者による設定レベルに基づいて、レイティングされたページをPICS仕様でフィルタリングする機能を有し、OS機能に近い部分を置き換えるので、Netscape Navigator でも Internet Explorer でも利用することができるようになっている。

○利用者に合わせて、様々なレイティングの活用が可能
 @学校の先生や両親などのパソコン管理者がレイティングしたもの、A第三者がレイティングしたもの(当協議会によるものなど)、B発信者が自らレイティングしたもの(例えば、米国のプレイボーイ誌などが実施しているもの)の3つが利用可能である。
 複数のレイティングが実施されている場合には、上記@、A、Bの順で優先してフィルタリングを行う。

○ホワイトリストの活用も可能
 パソコンの管理者による設定レベルに基づいて、レイティングされたページを選択する機能に加えて、ホワイトリストに登録されていれば必ず表示させる機能も利用できるようになっている。

○ファイル転送、ネットニュースにも対応
 ホームページ閲覧のみならず、ファイル転送、ネットニュースにも対応している。

○無償で配布
 クライアントソフトは、今回のプロジェクトがインターネットにおける問題を解決するための実験的な位置づけであることと、問題解決を迫られている教育関係者などへの理解促進の観点から、無償で配布するものである。パソコンへの組み込みや利用の際の技術的トラブルについては、メールによるサポートは可能な限り行い、さらにバージョンアップも計画している。
 Macintosh対応クライアントソフトは10月に配布予定であり、情報発信者のための自主レイティングを容易にするオーサリングツールも、Windows95 対応版およびMacintosh 対応版の配布を予定している。

4.対外協力

○100校プロジェクトへの協力
 通商産業省による新100校プロジェクト(全国の小・中・高校100校余りにインターネットへの接続環境を提供し、教育利用の実証を行う事業)への協力を通じて、小・中・高校のような教育現場での利用を促進すると共に、今回のプロジェクトによる問題解決についての評価を行う。

○今後の民間事業者などの事業の基礎として活用可能
 レイティング作業は、一つの価値観に基づく基準の下で、人間の主観に頼ざるをえない。したがって、異なる価値観、異なる主観に基づく複数のラベルビューロが存在することが望まれる。今後、国内において、民間事業者など他のラベルビューロ構築の動きに対して、ビューロソフトの提供など技術的な支援を行うことにより、異なる価値観に基づく複数のラベルビューロの運用サービスが実現されるように努める。

○国際的な標準化作業に協力
 本報道資料の内容は、今月末に英国で開催されるインターネットにおけるコンテンツ・レイティングの国際ワーキンググループ第1回会合において報告し、PICSやRSACiに基づく国際的なレイティング標準(付録4)作成に協力する。

○普及啓発活動を引き続き推進
 当協議会としては、フィルタリングに関する相談への対応や自主レイティング実施の呼びかけなど、今後も普及啓発及びフォローアップを推進していく。

(注)「電子ネットワーク協議会」
 パソコンネットなどの振興を目的に平成4年10月に発足した組織で、商用パソコンネットおよびインターネット事業者、コンピュータメーカ、通信ソフトハウス、アプリケーション事業者などの法人会員92社、学識経験者などの特別・個人会員15名、公共ネットワークなどに関心を有する協賛自治体51団体から構成されている。

問い合わせ・連絡先  〒108 東京都港区三田1-4-28 三田国際ビル23F
                   (財)ニューメディア開発協会内
             電子ネットワーク協議会事務局
              担当  清水、太田
              Tel    03-3457-0671
              Fax   03-3451-9604


別表

「レイティング基準」

SafetyOnlineという名称の、RSACiをベースとして拡張していくための基準であり、
「その他」に分類されたものの中から、必要に応じてカテゴリを抽出して追加していく。
 

ヌードセックス
0 なし0 なし
1 露出的な服装     1 セクシャルなキス
2 部分的なヌード2 着衣のままの性的接触
3 全裸3 性行為らしき描写 
4 性器の強調4 性行為

暴力言葉
0 なし  0 不快感を与えない言葉
1 争い1 穏やかな悪口
2 殺傷2 悪口
3 殺人3 わいせつ表現
4 残虐4 誹謗中傷

その他
0 なし  
1 要注意
2 公序良俗に反する
3 違法
4 反社会的


 


付録

1.PICSとはとは
 WWWコンソーシアム(W3Cと略す、付録3参照)は、インターネットの社会的責任を技術的に解決するために、平成7年夏から、規制なしでインターネットアクセスをコントロールするためのPICS(the Platform for Internet Content Selection の略称)の開発を進めてきた。PICSの特徴は、インターネットにおける情報発信を制限することなく、利用者が設定するレベルに合わせて、選択的に情報を受信(フィルタリング)できるようにするところにある。
 W3Cは、実現するためのフォーマットなどに関する標準仕様を規定するのみで、ソフトやレイティング基準の提供はしない。それらは、外部の活動にまかせられている。
 フィルタリングを実現するためには、そのようなソフトやレイティング基準の他に、発信者自身が情報に対してレイティングする(自主レイティング)か、流通している情報に第三者が付加的なレイティングを行う(サードパーティ・レイティング)ことによるレイティング・データベースが必要である。サードパーティ・レイティングのデータベースは、異なる価値観に基づき複数存在しても良い。
 そのような多様な入手源からのレイティングデータをフィルタリングソフトが設定に基づいて参照することによって、利用者が受信する情報、または両親や教師が監督下の子供たちに与える情報を選択することを可能にする。
 なお、ラベルビューロとは、サードパーティ・レイティングのデータ要求に対して応答する、ネットワーク上の HTTP(Hyper Text Transfer Protocol)サーバをいう。

2.RSACiについて
 RSAC(Recreational Software Advisory Council、娯楽ソフト諮問協議会)は、公共、特に両親が電子メディアについて必要な決定をする際に、オープンで客観的なコンテンツ問い合わせシステムによる支援を行う、非営利団体である。
 RSACi(RSACによるインターネット上のレイティング基準)は、スタンフォード大学で20年以上にわたり、メディアが子供に与える影響を研究してきたDonald F. Roberts 博士の研究成果に基づいている。暴力、ヌード、セックス、言葉のカテゴリがあり、インターネット上のコンテンツが、各々のカテゴリに関して0から4までのレイティング値で格付できるようになっている。
 非営利団体によるレイティング基準であるので、米国では自主レイティングの際の実質的な標準になっており、国際的なレイティング基準作成においても、この基準に基づいて検討が進められる見通しである。

3.WWWコンソーシアム(W3C)とは
 インターネットと言えば ワールドワイドウェブ(WWW)を意味するようになり、名刺に電子メールアドレスだけでなく、WWWのホームページアドレスであるURL(ユニフォーム・リソース・ロケータ)を記載する人々が増えつつある現在、インターネットと同様にWWWは米国生まれと誤解している人々も多いが、WWWは欧州生まれ、正確にはジュネーブ郊外のフランスとスイスにまたがって存在するCERN(ヨーロッパ原子核共同研究機関)で誕生したものである。  W3Cは、WWWを発展させるための共通プロトコルと標準ソフトを開発するために存在しており、CERNでWWWを生み出した Tim Berners Lee 氏が、この組織のディレクタになっている。W3Cには、世界規模で170以上の企業が参加している。これまで、米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)とフランスのINRIA(国立情報自動化研究所)がホストを務めており、平成8年9月にSFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)が新たなホストとして加わっている。

4.国際的なレイティング基準の開発
 PICS準拠のラベルビューロは、米国、カナダに一部存在するが、わが国では当協議会によるラベルビューロが初めてである。今後、世界各国で同様のラベルビューロの運用開始が期待されている。
 将来的には、PICSやRSACiをプラットフォームとして、多様な価値観を有する世界各国が相互にラベルを利用することができる、国際的なレイティング基準を開発する必要がある。それを実現するための課題として、以下の項目が挙げられている。
○フィルタリングソフトの利用者が、世界中のサイトを見ることが出来るようにするための、コンテン ツ記述の国際標準を設定するための国際的な調整。
○異なる国の利用者が、何が自分自身に適したものかを決める際に自身の価値観を適用できるような、 特定の国の文化的価値から独立したコンテンツの客観的記述。
○両親がボタンを一つ押すことにより、映画における指定のような親しみのある標準を選択することが できるような、技術的に詳しくない利用者に適したユーザ・フレンドリなインタフェース。

以上


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