国分 明男 1) | 清水 昇 2) |
Akio KOKUBU | Noboru SHIMIZU |
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インターネットは、このオープンさと自由さとによって、成功したネットワークであり、ポルノから政府文書までを含む膨大な情報と全世界で数千万人にのぼる膨大な利用者とを包含し、現在も発展を続けている。
インターネットの利用が社会の色々な局面に広がるにつれ、インターネット上の情報の内容の問題が浮かびあがってきた。
例えば、インターネットを学校の授業などで使うと、海外で作られた、生きた英語を読むことができる、世界中の生の情報を得ることができるといった、非常に有効な側面がある一方、本来、18才未満の青少年には見せてはならないアダルト情報が簡単に見えてしまうといった負の側面がある。
この様な負の側面が教育現場へのインターネットの普及の阻害要因になっているのが実状である。
また、企業において、インターネットは情報収集やコミュニケーションやマーケッティングの手段として、欠<くべからざるものとなっているが、ギャンブル情報へのアクセスなど本来の企業活動と関係ない利用により、従業員の業務効率の低下を招いたり、これらの無駄な通信トラフィックにより、ネットワーク設備が有効に活用出来ない等の問題が生じて来ている。
このインターネット上の情報の内容の問題はインターネットの利用が広がるにつれ、非常に大きな社会問題として、注目を浴びるようになった。
幾つかの国で、インターネット上を流れる情報の規制が検討されるようになった。しかし、この問題は表現の自由の大切さと市民の自由な意見交換の場の大切さと公共の利益と安全の大切さとの兼ね合いの問題であり、また、インターネットは本質的に国際的な性格を有しているため、この問題の解決を難しくしている。
米国では、幾つかのベンチャ企業がインターネット利<用者に受信する情報を選択可能にするソフトウェアを提供する事でこの問題の解決を試み、数年前から SurfWatch など幾つかのフィルタリングソフトが販売され始めた。
また、フィルタリングソフトの開発に伴い、フィルタリングするときの基準となるインターネット上の情報を如何に分類すべきかという研究が行われ、RSACi【1】などの幾つかのレイティング基準が米国で開発された。
しかし、従来の市販されたフィルタリングソフトはベンダ毎に独自のレイティング情報と独自の方式とを用いており、それらの互換性は存在しなかった。
何をフィルタリングすべきかは、利用者毎に異なるのが普通である。例えば、教育で使う場合は、アダルト情報が主に問題となり企業の中で使う場合はポルノやギャンブルの情報が問題となる。この様な場合、従来の市販のフィルタリングソフトでは利用者が当該ベンダのもの以外のレイティング情報を利用しようとしても、不可能であり柔軟な運用ができなかった。(図1参照)
W3C(World Wide Web Consortium、以下“W3C”という)【2】はレイティングデータの標準化とレイティングデータのインターネット上での交換規則の標準化を行うため技術標準 PICS(Platform for Internet Content Selection)【3】を開発し、様々なレイティング基準で作成されたレイティングデータを様々なフィルタリングソフトで利用可能となるようにし、利用者が利用者のニーズに合ったレイティングデータを取捨選択可能にしようとしている。(図2参照)
従来、フィルタリングソフトやレイティング基準は主に米国において開発され、それら開発されたものも W3C の PICS に準拠したものは極めて少なかった。
我が国の状況を見ると、我が国の事情に合ったレイティング基準が存在しない、我が国から発信されている情報のレイティングがあまりなされていない、レイティングされていたとしても適正に行われていない等の問題があり、我が国の実状に合ったレイティングサービスやフィルタリングシステムが実現されることを期待されている。
この分類を行うことをレイティングと言う。
情報のレイティングを行うためには、レイティングを行う基準が必要であり、この基準をレイティング基準と言う。
既存のレイティング基準には米国で開発されたRSACiやSafeSurfなどがある。(図3参照)
本プロジェクトでは、小中高などの学校と企業とで本プロジェクトで開発したフィルタリングシステムを使用して実験を行うことを計画していた。しかし、既存のレ
イティング基準は米国で開発されたもので、必ずしも、日本の状況や実験参加者のニーズに合ったものでなかった。
この為、本プロジェクトでは日本人向けの情報(主に日本語のホームページ)をレイティングする為の新たなレイティング基準を開発することにした。
我が国の教育の場及び企業の場でフィルタリングシステムを使用する場合、レイティング基準として、どの様なものが望ましいか関係者で検討を行った。
レイティングサービスは国際的な連携が必須であるとの認識に基づき、新らたなレイティング基準の検討は海外のレイティングデータと可能な限り互換性を保つことを前提として行われた。
検討の結果、国際的にデファクト標準として認められつつあるRSACiをベースとし、RSACiの4っのレイティング項目(”ヌード”、”セックス”、”暴力”、及び”言葉”)に新たなレイティング項目を付加する事で、次の2つの新しいレイティング基準を開発した。
レイティングサービス名 ; SafetyOnline
レイティングサービス名 ; SafetyOnline-B
教育向けレイティング基準の場合、レイティング項目”その他”を追加し、レイティングレベルはRSACiと同じく0,1,2,3及び4の5段階とした。
企業向けレイティング基準の場合、レイティング項目として”ギャンブル”を追加し、レイティングレベルはRSACi程の細分化は必要がないとの判断から0と1との2レベルとした。
従って、本プロジェクトのシステムでインプリメントしたPICS仕様の部分、及び、パラメータの値の取り得る範囲などを規定するPICS実装規約書を開発した。
PICS実装規約書は次の4っの実装規約書から構成されている。
このため、レイティングの結果であるラベル情報を蓄積したデータベース(以下、ラベルビューロという)を第三者が開発したクライアントで利用可能にしたり、本技術開発で開発するフィルタリング機能で第三者が開発したラベルビューロを利用したり、レイティング技術を応用した新しいソフトウェアの開発をし易くすることが必要である。したがって、ラベルビューロ上のラベル情報の形式と、クライアントからラベルビューロへの要求方式と、ラベルビューロからクライアントへの応答方式とは、W3C開発の次の技術仕様によって定義されるPICS Version 1.1【3】に準拠する。
本報告書におけるW3C開発の技術仕様PICS Version 1.1とは、上記技術仕様を意味する。
また、PICS準拠とは、上記技術仕様に準拠していることを意味する。
本プロジェクトにより確立される上記技術は新しい検索サービス、知的財産保護システム、コンピュータウイルスからの保護システム及び電子商取引などに応用できる。
具体的には、ブラウザを介してラベル情報の登録や問い合わせに応じるラベルビューロ機能と、ラベルビューロから送られるラベル情報をもとに受信したホームページの表示の可否を判断するフィルタリング機能と、Webサイト作成者によるレイティングを可能とするオーサリング機能とを、有するフィルタリングシステムを開発した。(図5参照)
ラベルビューロ機能はUNIXマシン上で動作し、レイティングの結果であるラベル情報を蓄積し、管理する機能とラベルビューロ管理者がブラウザを介して効率的にレイティング作業を行ったり、ラベルビューロの管理を行ったりするための機能と本開発のフィルタリング機能を含むPICS準拠のソフトウェアからのラベル問い合わせ要求を受け付け、その要求に対応した処理を行った後、その処理の結果を応答として返す機能と一般のインターネットユーザがラベルビューロ管理者に指定したホームページのレイティングを行うよう依頼することを可能にする機能とから構成される。 インターネット上の情報は膨大であり、虱潰しにレイティング作業を行うのは非常に効率が悪い、このめ、ラベルビューロ機能は幾つかの我が国の代表的な検索サイトと連携し、レイティングの対象となる可能性を有すホームページをキーワードで絞り込む機能を実現する事で効率化を図った。
そのレイティングを行った結果であるラベル情報をデータベース化して管理するとともに、ラベルビューロ管理者向けにそのデータベースの管理機能をWebを用いて、分かり易いユーザインターフェースで実現する。
ラベルビューロ機能では、レイティング結果であるラベル情報をPICS準拠の形式にすることによりラベル情報のインタオペラビリティを実現した。
また、ラベルビューロ機能はHTTPサーバとしての機能を有し、インターネット上の任意のソフトウェアからPICS準拠のラベル問い合わせコマンドを受け付ける事が出来、問い合わせコマンドを受け取った場合、当該問い合わせコマンドに対応した処理を行った後、当該問い合わせコマンドを発行したソフトウェアにPICS準拠の応答コマンドを返す。
この様に、ラベル問い合わせに関する通信プロトコルをPICS準拠にすることによりラベルビューロ機能とフィルタリング機能との間の通信のインタオペラビリティを実現した。
フィルタリング機能は、インターネット利用者のPC上で動作する。
フィルタリング機能として、Windows95用とMacintosh 用との2種類のソフトウェアを開発した。
フィルタリング機能は、サーバとしてPICS準拠のどのラベルビューロ機能を使うかを指定する機能と、ブラウザからのホームページ表示要求が生じた時に、本開
発のラベルビューロ機能を含むPICS準拠のサーバにラベル問い合わせ要求を行い、その結果得られたラベル情報に基づいて、当該ホームページの表示の可否を判断する機能と先生や両親を含むアクセス管理者が簡単にブラウザの利用を管理することを可能にする機能と、から構成される。(図6参照)
フィルタリング機能は、インターネットのネットワークアーキテクチャをOSI(Open Systems Interconnection)の7階層モデルで表現した場合、7階層モデルの第4層のトランスポート層に組み込まれる。
インターネット利用者がブラウザを介してインターネットにアクセスする時、アクセス場所を示すURLが上記の第4層のトランスポート層を通過する。
フィルタリング機能はこのURLをトラップし、当該URLのラベル情報とアクセス管理者の設定した閾値とを比較する事でアクセスを許すか否か決定する。
従って、第7層のアプリケーション層に位置しているブラウザの種類に影響されることなくフィルタリングを行うことが可能である。
フィルタリングに用いられるラベル情報には、ラベルビューロから取り出されるものと、ホームページ中から取り出されるもの(セルフレイティングの場合)とが、ある。
ラベル情報をラベルビューロから取り出す場合、フィルタリング機能はアクセス管理者により予め設定されたラベルビューロに対し、PICS準拠の通信プロトコルを使って、ラベル問い合わせを行い、当該URLに対応したラベル情報を入手する。
従って、フィルタリング機能としてはPICS準拠のラベルビューロであれば如何なるラベルビューロでも利用可能である。
ラベル情報をホームページ中から取り出す場合、ラベル情報はホームページのヘッダ中にPICS準拠の形式で存在することを前提にしている。
オーサリング機能はWebサイト作成者のための機能である。
オーサリング機能として、Windows95用とMacintosh 用との2種類のソフトウェアを開発した。
オーサリング機能はWebサイト作成者によるホームページの自主的なレイティング(以下、セルフレイティングという)を行いやすくするための機能であり、指定されたホームページにPICS準拠の形式のラベル情報を挿入する機能と、当該ホームページがレイティングされたことを示すため、GIF形式の画像データを挿入する機能とから構成される。
レイティングの結果であるラベル情報は異なるレイティング基準に基づいて作成される可能性がある。
ラベルビューロ機能、フィルタリング機能及びオーサリング機能のユーザインターフェースや処理ロジックがある特定のレイティング基準にくくりつけなっていると、レイティング基準毎に各機能のソフトウェアが必要になってしまう。
この不都合さを解消するため、PICSではレイティング基準を定義するデータファイル(以下、RATファイルという)を規定している。
本技術開発の各機能は、このRATファイルの定義に従ってユーザインタフェースと処理ロジックとを動的に変えることにより、レイティング基準からの従属性を排除している。
実験は次の2つに分けて実施した。
以下、各実験の概要に付いて述べる。
本実験は、新100校プロジェクトの関連校以外にフィルタリングに興味を持ち、本実験への参加要請のあった数校にも参加して頂いて平成9年10月から平成10年1月まで実施した。
本実験に先立ち、標準開発フェーズで開発した教育向けレイティング基準に基づいて約1万件のホームページをレイティングし、その結果をラベルビューロに蓄積し レイティングサービスSafetyOnlineとした。
教育向けのレイティング作業は実験期間中も随時行い最終的にレイティングされたホームページの総数は約1万3千件になっている。
本実験では、先生をアクセス管理者とし、生徒をフィルタリング機能利用者と設定した。
技術開発フェーズで開発したフィルタリング機能を実験参加校の生徒が利用するインターネットアクセス用のPCにインストールし、SafetyOnlineなどのレイティングサービスを使うフィルタリング機能を働かせながら、授業や課外活動などにそのPCを生徒に使ってもらい、その利用ログやアンケートにより実験データを採取し、次の項目について、分析と評価とを行った。
本実験に先立ち、標準開発フェーズで開発した企業向けレイティング基準を使って、教育向けとほぼ同数のホームページのレイティングを行い、その結果をラベルビ ューロに蓄積し、レイティングサービスSafetyOnline-Bとした。
本実験は技術開発フェーズで開発したフィルタリング機能を実験参加者が実務で使用しているPCにインストールし、SafetyOnline-Bなどのレイティングサービスを使うフィルタリング機能を働かせながら、そのPCを使って業務を行ってもらい、その利用ログやアンケートなどで実験データを収集した。
収集した実験データを分析し、次の項目について、評価を行った。
何れの実験においても、フィルタリング機能によるアクセスブロックが発生した。しかし、そのブロックの回数はアクセスしたURLの数に比べると非常に少ないものであった。
そのアクセスブロックの発生状況を分析すると、フイルタリング機能のテストのために発生したものだけでなく、利用者が有害情報にアクセスしようとして発生したものも存在した。
この結果から、フィルタリング機能は有効であると見なすことができ、またアンケートの結果でもフィルタリング機能の有効性が裏付けられた。
教育向け及び企業向け、何れのラベルデータベースに対する利用者からのクレームは非常に少なく、また、アンケート等においても、本プロジェクトのラベルデータ は日本人向けのインターネット情報に関し、レイティングの網羅度が他のものに比較して高いという評価を得ている。
フィルタリング機能の種類には個々のPCにインストールして使うスタンドアローン型とプロキシサーバなどにインストールして、複数のPCのフィルタリングを一括して行うサーバ型の2種類がある。
本プロジェクトのフィルタリング機能がスタンドアローン型であったため、教室に数十台あるPCに一つ一つインストールするのが煩わしいという意見が非常に多く、サーバ型の要望が非常に強かった。しかし、フィルタリング機能自体の操作性は良いとの評価結果であった。
本実験期間中、ラベルビューロ機能を(財)ニューメディア開発協会のみが運用しており、ラベルビューロ機能の操作性の評価を行える人は(財)ニューメディア開発協会の数人に限定された。
この為、客観的評価は行い難かったが、操作経験者による評価はユーザインターフェース及び性能において、何れも問題ないとされた。
しかし、本プロジェクトで構築したラベルビューロのコンピュータシステムは実験を行うことを目的として設計されたものであり、数十万人単位でのフィルタリングシステム利用者を想定したものではない。
数十万人単位のフィルタリングシステム利用者に本格的にサービスを行うためには、ラベルビューロのコンピュータシステムの負荷分散化や無停止化などの抜本的な見直しが必要である。
このレイティング作業に多大な工数と時間とを費やし、またレイティング後、変更されたホームページや消滅したホームページのフォローが工数不足から十分に行え なかった。
今後は、テキストデータのみならず画像データのホームページの自動レイティングシステムの研究と、レイティングした結果であるラベル情報の自動更新システムの開発が必要である。
このため、単一のラベルビューロで全世界のインターネットの情報をレイティングすることは不可能である。
このため、今後、ラベルビューロシステムにおいてもドメインネームシステムと同様な分散システム方式を検討する必要がある。
【4】http://www.w3.org/TR/REC-PICS-services
【5】http://www.w3.org/TR/REC-PICS-labels
【7】http://www.nmda.or.jp/
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