インターネットによる汎用電子申請システムの開発
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開発本部 システム開発部 次長 足立和夫

1.はじめに

 政府における電子申請の実現への取り組みは「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月閣議決定)以降、順次具体的な作業指針が示されております。 
 しかしながら、関連省庁のみでも7千種類以上に及ぶ申請等の手続きを個々に電子化することは、時間的、予算的に相当な困難が予想されます。このような状況の下、関連省庁における電子申請を導入促進するために、共通して必要とされる汎用的な電子申請システムの開発が、電子申請の基盤確立と発展につながるものと期待されています。
 財団法人ニューメディア開発協会では、通商産業省からの出資を受けて情報処理振興事業協会が実施した平成8年度補正予算の一環として、我が国初の「XML文書対応インターネット電子申請システム」を開発しております。同事業では、インターネット経由の電子申請で共通的に必要となる基本的な機能を抽出し、通商産業省における申請業務において、同システムを利用する実証試験を実施して、その有効性を確認しています。
(めでいあ52号(1999.7)にて報告済)

 今回さらに、平成10年度補正予算の一環として、前記「XML文書対応インターネット電子申請システム」で開発した機能をベースとして、個々の電子申請において共通して必要とされるコンポーネント(申請に必要な個々の機能からなる部品に相当)の開発と、このコンポーネントから構成される汎用電子申請システムの開発を行いました。
 また、既存のフロッピーディスク(FD)による電子申請やFAX、専用回線など、多用な電子的手段による従来の申請システムを組み入れた利便性の高い汎用電子申請システムとして構築しました。汎用電子申請システムの実用性、運用性等については、通商産業省などにおける実際の審査業務システム等と連携した形で実地検証を実施しました。

 電子申請の普及・拡大のためには、関連省庁の各業務で導入される電子申請システムの相互運用性の確保が重要なポイントとなります。本システムの導入により、申請者である企業・国民などならびに受付者である中央省庁・自治体などにおいて、経済的、人的負担の軽減が実現されるものと期待されます。

2.システムの概要

 電子申請で取り扱う申請文書は、法律等で規定された様式書類や添付文書など、複数のデータから構成される電子文書です。また、インターネットによる電子申請では、申請内容の真正性の確認や証拠性の確保のために『社印』に相当する「デジタル署名」が必要となります。
 本事業では、各種申請手続きに利用できるよう、カスタマイズが容易な、汎用的な電子申請手続きに使用することができる汎用電子申請システムを開発します。
 そのために、まず「電子申請業務モデル」「電子申請文書モデル」「電子申請通信プロトコル」の実装規約を策定し、次に策定した実装規約に基づき、必要となる各機能に対応したコンポーネント(部品)を開発しました。
 電子申請文書のデータ形式としては、XML(eXtensible Markup Language)文書を採用しています。そのため、行政機関側が配布する申請用紙のひな型となる申請書テンプレートの作成機能を開発しました。
 また、申請者の申請書作成支援機能、『電子印紙』による手数料支払証明書機能、添付文書の過不足を確認する形式審査機能なども開発しました。
 さらに、形式審査を行った文書について、内容審査を行う審査システムとのデータ連携機能、申請内容にコメントを記入し申請者に通知する付箋(ふせん)通知機能、審査完了を通知する機能、申請文書の原本性保証電子保存機能なども提供します。
 XMLを採用することにより、申請者の負担軽減および申請受付業務の効率化・迅速化が可能となります。申請書内データと行政側の審査システムとのデータ連携、審査途中における申請側と行政側との様々なやりとりについても効率化を図ることが可能となります。
 この他、電子申請システムの運用を支援するコンポーネント(部品)として、暗号ライブラリやPKI(Public Key Infrastructure)を利用した暗号化・署名処理に必要な鍵や認証書の管理機能等を提供します。これにより、個別申請システム開発者やシステム運用担当者の負担を軽減することが可能となります。
 以上のコンポーネント(部品)と既存の電子申請手段をサポートするサブシステム等を組み合わせることにより、汎用的な申請手続きに対応可能な汎用電子申請システムを構築しています。これにより、申請業務の実情に応じて、機能構成を選択でき、運用性が高くカスタマイズが容易な、統一化された標準インタフェースを有する汎用システムが構築可能となっています。

3.開発システムの内容

(1)実装規約策定
 電子申請のフレームワークとなる「電子申請業務モデル」(図2参照)や「電子申請文書モデル」を定めました。また、インターネット上で申請文書を確実に送付するために、電子申請に適した「電子申請通信プロトコル」の実装規約を策定しました。
 申請業務を電子化するにあたり、共通的な機能を抽出するために、実地検証対象業務を含む5業務について調査を実施しています。
 なお、本実装規約の策定にあたっては、総務庁共通課題研究会による中間報告も考慮しています。

(2)コンポーネント開発
 今回開発したシステムは、民側で申請書の記入と発送を行なう申請者端末、官側で申請書の受付処理を行う官側サーバ及び官側での審査処理を行なう審査官端末から構成されています。(図3参照)
 本システムが提供する要素機能には、大きく分けて、以下の三つがあります。

 ●電子申請文書処理機能
 申請書式や添付書類などの構造化された複数の文書(電子申請文書)を、RDF(Resource Description Framework)に基づく管理情報と共に、XMLを用いて記述、処理するための基本的な機能、および、官側、民側で各々必要となる、申請書の管理、文書取扱者(申請者、審査官など)の管理、などの機能を提供します。 

 ●電子申請通信管理機能
 インターネットを利用した電子申請業務において、官民間のセキュアな通信を実現するため、電子申請通信プロトコルの実装規約に基づき、実用性、運用性の高い通信プロトコルを実装しています。機密性保持機能、到着時刻通知機能、分割送信/再送制御機能やセキュリティレベル設定機能などを提供します。

 ●電子申請運用支援管理機能
 高度なセキュリティ機能を容易な操作で実現し、円滑な運用、管理を支援するために、可搬性媒体による鍵と認証書保管の運用の安全性保証機能、PKIからの認証書の取得機能などを提供します。

 なお、本システムでは官側に送付された申請書を審査する審査上位システムに対し高度な接続性を保証するアプリケーションインタフェースを提供することにより、個別の申請手続きを審査するシステムとのデータ連携が可能です。
 また、本システムの外側には、民側及び官側において本人認証を行なうためのセキュアライブラリ及び認証局、官側において受付けた申請書を保管する原本性保証電子保存装置が存在することを前提としています。

(3)インターネット汎用電子申請システムの開発
 上記の(2)で開発を行なったコンポーネントを活用し、汎用的な申請手続きに対応可能なインターネット汎用電子申請システムを構築しました。(図1参照)

4.実地検証の結果

 標準的な申請手続きに対応可能な汎用電子申請システムと、これを利用した審査業務の連携による電子的な申請・届出業務の有効性や確実性を検証するため、通商産業省、労働省の申請業務に基づき、汎用電子申請システム、審査業務としての備蓄法システム、化審法システム、助成金等申請審査システムの各業務システムを開発しました。
 また、個人による申請業務の電子化の有効性や確実性を検証するため、横須賀市の協力により図書館および自治体の申請業務に基づいて、市民の個人認証を必要とする電子申請システムの開発を行いました。
 実地検証作業は、平成12年3月から7月にかけて行いました。検証作業では、実際に申請・届出業務を行っている企業や、行政機関に申請を行う個人にモニタとして参加してもらい、申請書作成から受付結果の受信に至る一連の業務の流れに基づいて作業を行ってもらいました。また、参加者にはアンケート調査を実施し、その結果を基にして、分析・評価を行いました。
 ここでは、それぞれの業務システムの代表的な検証内容と、その評価について述べ、さらに課題や、今後の展望等について考察することとします。

(1)備蓄法システム
 備蓄法システムを用いた検証では、主に汎用電子申請システムと、備蓄法システムとの連携機能の確実性、申請書送受信の確実性についての検証を行いました。
 汎用電子申請システムと備蓄法システムの連携機能については、すべての申請書データが取り込まれ、その結果、備蓄法システムにおける集計機能もすべて正しく集計されていることを確認できました。また、送受信については、申請書の送信と、受付結果の受信が確実に行えたことをアンケートの結果から確認できました。これらのことから、汎用電子申請システムと備蓄法システムの連携は確実に機能したことがわかります。

(2)化審法システム
 化審法システムでは、汎用電子申請システムを基盤としてこれと連携することで少量新規化学物質製造輸入申出業務について、その確実性、実現性を検証しました。
 汎用電子申請システムを用いた申請書の確実性の検証においては、申請書データが送信でき、到達確認番号が発番されたことを確認することにより、確実に処理されたことが確認できました。また、官側での審査処理の実現性の検証においては、申請書データの内容をもとに特定有害官能基の有無確認および制限数量以下に抑えるための確認を行い、その結果のログデータの解析から、審査処理の実現性に関して問題のないことがわかりました。

(3)助成金等申請審査システム
 助成金等申請審査システムでは、育児/介護休業者職場復帰プログラム基本計画認定申請の業務を基に、インターネットを介して電子申請業務を実施するにあたり、汎用電子申請システムを基盤として構築した同システムが有効であるかどうかについて検証しました。
 特に「インターネット通信サブシステム」というセキュアな通信機能基盤として使うということに着目して検証を行いましたが、その結果、電子申請送受信において必要とされる申請者と官公署間の相互認証、改竄防止、漏洩防止などの機能を実装することが可能となり、これらはSSLの暗号化と比較すると利点があり、その仕様に対して申請関係者からは肯定的な評価がなされました。結果として、当業務において汎用電子申請システムを基盤として構築した電子申請の仕組みは有効であったとの評価が得られました。

(4)図書蔵書等申請システム
 個人がインターネットを通じて行政機関に申請を行うというインターネット申請の有効性について、図書の予約購入申請と公文書の公開に関する申請を、実際に個人モニタに行ってもらい、アンケート調査の結果を基に検証を行いました。また、当システムにおいては、インターネット上で申請する際の申請者個人認証の有効性も同時に検証しました。その結果わかったことは、近年のインターネットの普及に伴い、利用者にセキュリティに対する感覚が備わってきたということです。利用者がインターネットにおける電子申請に多大な期待を抱いているということも判り、このことから、今後の個人認証方式を検討するに際しては、安全性と利便性の両立ということが重要であるということがわかりました。図書の予約にICカードは必須ではないという意見もありましたが、申請者の本人確認と公開すべき公文書の管理を厳密に行うことが求められる公文書公開電子申請においては、本システムは、安全性や利便性について考察する上で有効に機能したと思われます。

 最後に、行政サービスを享受するために、企業や個人が行政機関に対して申請を行うことが必要になることが多く、申請の簡素化並びに行政側の効率化を図る電子申請システムの構築は必須です。特にこれからはインターネットを利用して、安全且つ簡便に、申請・届出ができる環境が必須であると思われます。今回の実地検証では、多様な観点から電子申請業務について検証を行いました。今後は、この汎用電子申請システムが、各省庁における電子申請の基盤確立と発展に資することが出来るよう更に検討を加えながら、普及に努めていくことが重要であると思われます。

5.おわりに

 本システムは、平成12年度以降、通商産業省における電子申請業務一般における汎用システムとして採用される方向にあります。また、他省庁の業務においても、本システムの採用が検討されています。
 当協会では、開発した汎用コンポーネントを無償ライセンス契約により配布予定です。また、それらを用いた電子申請システムの構築に際して必要となる、電子申請業務モデル、実装規約、構築ガイド、マニュアルなどのドキュメントも公開予定です。

図1 インターネットによる汎用電子申請システム

図2 電子申請業務モデルにおける概略業務フロー

図3 申請書式の入力画面例

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