2.地域情報化報告
 平成12年6月27日〜28日札幌市において開催された「情報化フェスタ2000」のプログラムの中から、基調講演とパネルディスカッションを取り上げ、その一部をご紹介します。

  「情報化フェスタ2000(全国地域情報化推進会議)」
   http://www.nmda.or.jp/rio-net/library/houkoku/fukyu/H12festa/index.html



1.基調講演(部分)
  講 師 セゾン総合研究所 理事長 坂本春生氏
  テーマ 「21世紀のネットワ−ク社会における地域づくり」

◆「個」が主役の時代に
 私は、20世紀と21世紀の日本は何が違うかといいますと、20世紀は枠組みが主役であった時代、21世紀は個が主役になる時代と考えております。現在はその産みの苦しみといいますか、大転換してる時期だと思います。
 日本は戦後、大変なスピードで高度成長をしてまいりました。それはなぜできたのかというと、日本の中にある賢いひとつのやり方があったと思います。個は枠組みの中でその役割を果たすことにより、それなりに上昇することが出来ました。枠組みが果たすエネルギー、それが日本の高度成長だったと思います。


 ところが、今その枠組みがだんだん壊れております。個が大変豊かになり、枠組みを破るエネルギーを蓄積し始めたためです。規制緩和もその一つです。個人が過去の枠を破り自己責任を負って、自由にさせて欲しいと主張しています。例えば、女性は弱いものだということで保護していた労働基準法でさえ、女性の深夜労働を認めています。
 これからの日本は、おそらく枠組みがずーっと後ろに薄くなっていき、枠組みは、個が活躍する舞台でしかなく、個がその上で自由に活躍することになる、こういうのが枠組みが主役から個が主役への時代の大きな社会変革です。
 そしてネット化・情報化が、この個が主役という時代を加速しています。そこでは、多様化とか、ボーダレスとか、時間・空間の制約からの自由とか、競争社会とか、フラット化とか、いろいろなキーワードが出てきます。これらは個が主役へ移って行く社会の大変重要なキーワードですし、それを情報化・ネット化が支援・加速しているという点を最初にお話しさせていただきます。

◆地域の自立の意味
 地域の自立の意味することは、1つ目は地域の主体性の確立ということです。それは経済的に独立するということではなく、責任をもって自分の目や耳や手や足、そして心で情報をとらえ、自分で考え、判断して、迷って、選択して、決めて、それを主張するというのが主体性の確立です。選択する意志と能力のないところに、正しい選択はできません。で、今やそれができる時代となりました。どんな僻地であっても情報は取れますし、その情報の判断能力、知的水準があれば、的確な判断ができるわけです。
 2つ目は、差別化による競争力ということです。地域は量・規模の大小で優れているとかいないとかいう時代ではないと思います。地域の特色を出し、差別化して競争していかなければいけないと思うのです。
 3つ目は、時代先取りによる社会への貢献ということです。地域に差別化するような強力な何かがない、資源がない、ではどうするかというと、時間軸で違いを出したらどうかと考えます。時代を先取りをして、常に何かについて時代の新しいことをやっていくことで、自分の地域をパイオニアとして情報発信源にできないかと思います。
 それから4つ目は、個が主役のボーダレスなネットワーク社会になると、全てのことを行政区域で考えるというのは、本当に不自由です。これはある種の規制のようなものになってきます。したがって、行政地区を一緒にするとか、広域運営するとか、ある政策意図を一つの道とか州で一緒にして、地域をネット化することが必要となります。地域が相互に情報化・ネット化されてくると国は一目置かざるを得ませんので、堂々と、ある地域と国とがディスカッション、ディベートして、そして必要なら予算をつけるというようになってくると思います。そうなってこなければ自立にならないと思います。
 最後の5つ目は、世界とのネットワークということです。強いものに対抗するには、自分も強いパワーをもつ、それには視野を広くするということが重要なのです。どんどん世界とネット化していく、自分は東京だけ、中央だけを見ているのではない、世界とつながってるんだという意識でしょうか。これは大変大きな対抗力になると思います。


◆情報化・ネット化の地域作り
 第1点は、人材集め、人材の活用ということです。地域にとっては、お金も必要、工場誘致も必要ですけれど、もっと必要なのは良い人材、いい住民なのです。特に優秀な人材をいかに集めるかということが大切です。日本の大学は、たとえ東大といえども世界の中では高い評価を得ていません。それはなぜかというと、スタッフや教授を世界中から募集していないからなのです。諸外国では世界中から募集して、優秀な人材を集めてます。ですから、情報化・ネット化を使って、もっと即戦力になる人を、地域は集めなければいけません。ただ人集めするときに、地域が閉鎖的だと人は来ません。特に外国人は来ませんし、都会人も来ません。そういう意味で、地域をオープンな雰囲気にしなければいけません。
 第2点は、情報リテラシー、情報教育です。この分野は、東京ですら遅れています。情報の洪水に埋もれないで、必要な情報を選択して生かしていくという情報リテラシー教育です。それからコミュニケーション・リテラシー教育があります。世界とのコミュニケーションには英語が必要不可欠です。英語ができないということは、圧倒的に情報化・ネット社会では不利です。ですから、自分たちの地域は県民市民、全員が簡単な通信会話の英語ぐらいはできるようにするという執念で、教育することが求められます。今から初めても成功するのは10年後ですからね。それからディベート能力、そういうものをきっちり教育するということです。田舎と都会の交流を図り、都会と田舎の授業を交換し、都会を知りながら田舎の良いところを成長させていく。都会の人には、自然の良さを知りながら都会で生きて行くという、視野の広い教育をしていく必要があると思います。
 第3点は、快適な生活環境の整備ということです。地域の方が大都会よりも、自然が豊富という点でいえば快適に決まっています。便利さという点ではちょっと不自由ですけど、情報化・ネット化でかなり解決できます。後は心の快適さが大切で、これはなかなかネット化では対応出来ません。ベンチャーとかSOHO(スモールオフィス、ホームオフィス)と呼ばれるものは、森の中、川辺にオフィスがあってもかまわないわけです。成果はどんどんオンラインで、インターネットで都会にも世界にも発信出来ますから、生活環境というものをどんどん良くして、「ほらご覧なさい、こっちに住んだほうがものすごく知的生産効率が上がるでしょう」と。そして「家族も、幸せな感性豊かな生活ができるでしょう」と。地域は比較的第1次産業のウエイトが高いと思いますが、例えば農業も情報化を推進しないとこれからの農業経営は難しいと思います。株式会社の良さを取入れて、第1次産業の情報化を推進していくことです。次は、地域物産・特産の販売ネットワーク化です。新鮮なものを幅広く廉価で販売するためにも、情報化・ネットワーク化が必要です。それから、観光産業のビジネス化も大切です。観光情報をきちんと整備することは、地域にとって大変重要なことです。その次は、感性ビジネスです。地域の伝統を生かしたイベントとか音楽とか演劇とか、そういったビジネスは、地方では比較的やりやすいイベントです。高い土地や高い建物も必要ありません。面白いと思う人がたとえ10万人日本中に散らばっていても、なにかあれば数万人が地域に集まってくるのです。大事なのは、公共事業依存策の転換ということです。いつまでも、道路とか橋とかだけではなく、情報システムにもっとお金をかけるようにしていくべきではないかと思います。地域ができるひとつとして、ぜひアジアの留学生を沢山呼んでほしいと思います。地方大学こそがアジアの留学生の懐かしくて有意義な母校になれると思います。
 お話のようなことを1つ1つ実行出来れば、ネット化・情報化の地域づくりというのは、まだいっぱいできる芽が残っているのではないかと思われます。
(文責:情報化フェスタ事務局)


2.パネルディスカッション(部分)

 テーマ:「21世紀地域新時代〜情報化による地域の自立を探る〜」
 コーディネータ:山梨大学工学部長工学博士    伊藤 洋 氏
 パネリスト(発言順)
  会津大学学長工学博士             野口正一 氏
  インターネットショッピング 「逸品.com」 社長 森本繁生 氏
  札幌市経済局長                小川敏雄 氏
  セゾン総合研究所理事長            坂本春生 氏

伊藤 今日は「21世紀地域新時代」と題し、情報化による地域の自立を探るという目的でパネリストの皆さんにお話を伺います。


 ところで、新しい技術が出現しますと、最初にこれに飛びつくのはイノベーターです。スタンフォード大学のロジャース教授によると、大体3%ぐらいのイノベーターがいるといいます。彼らがやっていることを良いと言って、それに支援して彼らにエネルギーをつぎ込むのが、およそ13%のオピニオンリーダーです。やがてアーリーマジョリティーと呼ばれる時代の流行に敏感な約30%の人たちが後からついてくるのだそうです。こうなると世の中の半数の人が新しい技術を享受してマジョリティ化することとなります。すると、私も参加しなきゃというので、30%ぐらいの遅れて参加するレイトマジョリティーという人々が参入してくるというのですね。つねに時代に乗り遅れる人が20%程度いるということなのだそうです。
 今インターネット利用者は、日本ではほぼ2,000万人と言われてますので、人口の16%程度です。つまりイノベーターとオピニオンリーダーが出揃って、IT技術の発展のための準備がようやくできたということが今日の状況だろうと思います。

野口 最初に理解していただきたいことは、基本的にネットワークおよびITの世界の基盤技術はアングロアメリカンの技術であり、それを引っ張ったのは、DOD(アメリカ国防省)ということです。これがすべての原点だということを理解しないと21世紀の本格的な技術開発はできない。例えばこれからの社会はEコマースの世界が中心になるでしょう。それを作っている考え方の基本を決めるのは、残念ながら日本ではなく、アングロアメリカンのカルチャーです。その意味で、国際人としてビジネスを中央でも地方からでも発信しようと思ったら英語というのは不可欠です。

 さて、インターネットの歴史を見たときに3つの局面があります。最初のインターネットの世界は研究者の世界で、閉じていたんですね。それが一般大衆化したのがこの1990年代の中頃であります。これですごいビジネスが生まれ始めました。21世紀はどうかというと、これは実はiモードに代表される移動体によるインターネットの活用です。
 次のインターネットをベースとしたビジネスの重要なターゲットは、ファイナンスとロジスティックです。これにインターネットをどうやって活用できるかということですね。



森本 「逸品.com」という電子商店街を運営しています合資会社逸品の森本です。3年前にサラリーマンを辞めまして、その後、特に物販、オンラインショッッピングの分野でインターネットビジネスに取り組んできました。メインの仕事は「逸品.com」の運営です。現在、「逸品.com」は23店舗しかありません。1997年当初は9店舗から始めました。30名以上のお客様の推薦があり、23店舗の方全員の同意を得なければ出店できないというシステムを採っています。

 私の仕事はこれらの加盟店さんの発展が、まず1つあります。テナント料というのは月1万円ぐらいしかいただいておりません。ではどこで儲けてるかというと、このような方々からいただいた、日本一のインターネットで売るノウハウをまとめて、出版事業だとかセミナー事業、あるいは有料の電子メールマガジンで配信して、収入を得ています。
 一見異業種の商店が集まっている土壌ですが、ネットワークですから横のつながりが強く、23店舗さんが全員顔見知りで、どのように発展していくかを日夜議論しています。オンラインショップ大学とか、オンラインショップ協同組合というところにこういった集まりを持っていきたいと思っているのが、私の仕事です。



小川 札幌市では2000年の今年をスタートに長期計画を出発させたところで、「市民とのパートナーシップ」が事業執行の大きな柱になっています。ここへきて情報技術がネットワークを中心として飛躍的に市民生活の中へ入ってきてますが、それによって地域のいろんな団体との接触が持ちやすくなるということがこれからのパートナーシップに欠かせません。それから地域の企業活動ですが、今までは企業団体を通じて産業振興というものを計っていましたが、情報化によって、それぞれの企業のご要望に応じた形が可能になってきました。北海道の役割について言えば、今後ネットワークを中心とした情報技術の活用というものを地域作りの中にどう生かしていくかというのが大きな問題だと考えています。
 北海道の中での札幌の役割については、産業振興であれ、NPO活動であれ、北海道の中心としての札幌のフィールドをうまく使い、一種の広告塔の役割を担えればと思っています。

 それからインターネット関係では、「ウェブシティー札幌」が、役所関係の行事説明、観光情報、電子商取引の実験台になっている窓口的役割を果たしているところです。札幌市内の埋もれていた活動をどんどんネットで出していく中で、やはり地域の潜在力というものをもっとより広い方々に認識をしていただきたいと思ってますし、これがおそらく産業振興につながると思っております。



坂本 インターネットというのはアングロサクソンが基盤にあると。確かに今英語は国際語になっていますが、文化とかおそらくロジカルということも含まれていると思うんです。日本がロジカルじゃないのか、インターネットにそもそもそぐわないのかというのには疑問がありました。
 それから森本さんのお話で、確かにインターネットのショップ、大変面白いですね。ただ、インターネットショッピングが盛んになれば、店舗を持った店はだめになるかと言うとむしろ、ますます差別化してものすごく面白い店が残るようになっていくだろうというふうに思います。
 それから、小川局長が札幌の話をされて、北海道では札幌集中というのがある面で批判的に言われていますが、私は大いに結構だと思っております。東京集中を止めるためには、まず北海道は札幌集中に移って、それからまた次に少し移ってというふうにしないと、みんなが対抗力がなくなり、東京に向いてしまうようになると思っています。

伊藤 このIT技術は、つまり分散ということなんですね。集中から分散へというこれは大きな時代の変化だと思います。21世紀はおそらく分散をキーワードにする時代に入ってくる。そういう中で、どう個が確立されていくかが問題になるわけです。
 これから本論に入りますが、「地域の活性化」と言ったときに、ネットワークをどういうふうに張り巡らしていくのか、そのときに地域に中心になる人材をどう確保できるかがテーマになろうかと思うんですね。このパートではそれぞれのパネリストの先生方から、それぞれの専門領域で、地域でどういうふうに人材をまとめていくかをお話いただきます。

野口 産学官連携には、幻想があります。どこでも、大体うまく行ってない。
 そういうことを考えてみますと、2つの新しい発想が必要になる。1つは、民からの発想をどうやって取り込んでいくかということです。第2は、従来型の産学官連携のスキームを全く変えなきゃだめなんです。大学の先生はマーケットニーズに合わせることができない。確かに技術としてはいいが、マーケットニーズに合わない。そういう意味で、産学官の新しい連携のスキームを作り変えない限り、絶対地域の情報化とか新しい産業は興らないんですね。問題は何かというと、基本的に今われわれが一番ほしいのは技術じゃなくて、マーケット戦略が組める、ビジネスモデルが作れる人間なんです。それから、民の力を使う一番いい方法はNPOです。NPOは1人のリーダーがいますと、その先にいろんな協力者がぶら下がり、具体的に数千、数万の部隊ができます。そういうものが産業に転化したらすごい話になるんですね。
 もう1つは新しい産学官の体制の作り方の問題で、21世紀型ベンチャーの育成に対してどういうふうに地方が取り組んだらいいかという話です。会津の話を少ししましょう。会津はお酒と漆器という大きい産業が2つあるんですが、どちらもこのところ産業として減少してきて、100億円以下の産業規模になっています。そこで大学が頑張って、100億円産業をターゲットに2005年から9年の間に新しい21世紀型のソフトウェア産業の会社を20作ろうじゃないかということを言い出したわけです。結果的に、6つの会社が最近できたんです。あと14作らなきゃだめだ。問題は社長です。その社長というのは技術はあるレベルでわかる必要はあるけども問題は2つ、ファイナンシングとマーケッティングの能力をもつことなんです。この能力のある人が社長にならなかったら、地域のベンチャーは絶対に成功しない。そして会津の場合、NPOの活動が最初にあったんです。青年会議所のグループが大学と一緒になって、中学生・高校生対象のコンピューターサイエンスサマーキャンプを3年間やってきました。東北通産局が理解してくれ、これを情報処理振興事業協会のプロジェクトにつながりました。それで、トライネットというベンチャーライクの企業ができました。つまり基盤技術の開発は、あるレベルで、国のプロジェクトでカバーできた。地方の10万20万の都市で、新しい仕事をするときに開発資金をどうするか、これはまさに大学と地域が頑張って、国のプロジェクトを持ってくるというのも1つの方法だと思いますね。これがその例なんです。

森本 私は一消費者としてインターネットで買うことが好きな人間でした。そこには、感動があったと思います。インターネットに最も足りない部分が感動と信頼と思います。私の夢に描く世界はその中に血を通わすといいますか、商売のきちんとした基本を守るショップをインターネットの世界に作っていきたいということです。その中で大切なことは、プラスの口コミの活用を目指すことです。逆に、マイナスの口コミが伝わってしまうことは大きなリスクとなります。インターネットの特性を十分理解して、きちんと対処できた企業(ショップ)というのは、人気を博していくと考えてます。繁盛するウェブページ作りは、専門店化というところに集約されていくと思います。参加している各ショップは、それぞれが多くの商品を取り扱っていますが、インターネットだからこそ得意商品を凝縮して専門店に仕上られたわけです。こういうお店作りができますと、必然的にコアユーザー、ファン層ができてきます。ファンは商品について口コミをしていただけますし、商店主に会いたいと実際に足を運んでくれます。われわれそういったお客さんを大事にしていきたいと思います。

小川 札幌市に限定をしますと、10年位前にオロパス(SAPPOROを逆さ読み)と言う名のホームページを開いたのが最初です。当時は北海道の行政という意味ではなく、北海道内の地域情報を発信しようということで始めました。確か道内で500人くらいの方が合作をして開いたホームページが一番速いホームページです。その後継続してやっていく方たちが一種の自主団体みたいなものを組織して、自分達の興味で活動を始めたわけです。道内の有志が、わざわざ札幌に出張してきながらやってたということで、札幌市内にこだわらない発展形態がとられてきています。
 札幌市の市役所側の動きを紹介しますと、長期計画の中では、新札幌型産業の育成と集客産業の振興という2本柱を掲げています。新札幌産業というのは、札幌市という地域特性を生かそうという意味で、その1つに情報産業の振興をあげています。情報産業の振興は取り組みが早かったせいもあって一定の成果を上げてきてます。私どもの政策も、企業が活動しやすいような環境づくりということから、あまり市域に固執しない形でおこなっています。

坂本 人にその地域をいかに好きにならせるかということ、森本さんの言われたファンを作るということが地域の振興につながると思います。地域が住民をファンにして、これだけの選択の豊かさの中で、自分はここを選んで住んでいるのだということです。そういう意味で、住環境をよくすること、行政サービスをよくすること、痒いところに手がとどくようなところに行政の選択肢があると思います。企業を引っ張ってくるのではなくて、そこに住みたいという人を引っ張ってくるというところにもっと力を入れたらいいと思います。
 それから、野口先生が先ほど産学官連携はうまくいかない、それは上からの発想だからというお話をなさいました。私もそう思います。産学官連携の官がついているのは日本だけなんでしょうか。アメリカは産学協同のような気がするのですね。私は、上からの押し付けで、官が出てくることは良くないと思います。さらにいえば、産学の共同というのが学者の価値として認められないことです。私は学問の世界で、教え上手、論文上手ということのほかに、コミュニティー貢献上手ということをもうちょっと考えないといけないんじゃないかなと思うんですけど。

伊藤 坂本先生のおっしゃるとおり、日本の大学というのは、学問の輸入と翻訳をすることが使命だったんですね。それではだめよと言われ始めたのはこの10年間なんです。アメリカの大学が産業界に門戸を開いていったという歴史もそう古いものではなく、1970年代くらいからスタートしています。

野口 アメリカは官が関与してないのかという話ですが、これはあるんですよ、ものすごく。スキームは日本と違います。例えば、ゴア副大統領が提案しているネクストジェネレーションインターネットプロジェクトはまさに国がトップダウンでやっています。その中で実は多くのプロジェクトが生まれてます。残念ながら日本でもずいぶんお金使いました。日本は政治のトップに情報化に関する本質的な理解者がいないんです。それが最大の問題でしょうね。
 第2の大学はどうか。21世紀において最も改革をすべきことは、実は官の中の大学なんです。残念ながら、日本における情報系大学を作る基本的コンセプトはコンピューターサイエンスがベースで、インフォメーションテクノロジーではないんですね。もっと大きい問題は大学の中の制度的問題があります。1つは先生方が助教授になり、教授になるときの評価の問題ですが、これは論文が中心ですね。もちろん論文は大事です。しかしながら、評価の対象として、どれだけすばらしいソフトウェアのプロダクトを作ったか、あるいはインターナショナルな標準化に対して、どれだけの貢献をやったかというようなことが評価されていきますと変わっていくんですね。
 先生の兼業問題が最近変わりました。でも国は変わりましたが県等はまだ変わらないんですよ。アメリカの場合はまさに産学の連携がきわめてうまい仕組みになっているのです。具体的にある先生がある会社の社長になれる。日本ではありえないでしょ。それから、つい最近まで企業とコンサルテーションをしてそこからリワードを取るというのは、罪悪と言うような雰囲気がありました。これでは大学の先生は働かないですよね。いろんな問題がありますが、大学改革こそが実は日本の21世紀の新しい先端分野を開くために変えなきゃならない問題です。つまり、日本の大学、日本の国研もそうですが、研究の中心はサイエンスオリエンティッドの基礎研究と称する分野に特化しています。いわゆる実用化研究は企業の研究所が頑張ってやっています。そこを産学の細い線がつないでるんですね。アメリカの場合は、基礎研究から実用化研究にいたるいろんなフィールドでそれぞれの大学が寄与しています。こういうような状況を日本がこれから作っていかなかったら、とてもアメリカに勝つチャンスは少ない。いずれにしても、日本は21世紀型の大学を作っていかなければなりません。一つの問題は国際化です。ITにおける人材は日本人だけでは絶対に足らないのです。世界的なレベルで人を集め、インターナショナルな意味で国際的に機能できる大学を作らなければなりません。

伊藤 今年の4月から、人事院規則17・18・19というのが変わりまして、技術移転機関(TLO:Technology Licensing Organization)であれば、国立大学の教官も企業の役員の兼業ができます。それから、監査役でしたら条件なしにできます。さらに、大学内で自分が開発した研究成果について、企業に持っていって実用化をするという場合には、その技術担当として、役員として兼業することができるようになっています。ぜひ皆さんの地域で、地域の大学の教官を巻き込むという場合には、これを使っていただいたらよろしいかと思います。

野口 あらゆるところにビジネスチャンスがある、こんなにいい時代はないと思うのです。ただし、国際的なリーディングビジネスを作るのは重要であるが難しい。今、ビジネスを起こすときに一番簡単な方法は、日本とアメリカのITギャップを探すことです。これを見つけたらいいビジネスになります。いろんなニーズがある、ならばどういう技術をどこで持ってくればいいかというのが戦略になるのでしょう。今、東京一極集中の話がありますけど、大学に関する限り、かなり地方に分散しています。問題は卒業後の地域の受け皿がないから、ほとんどの学生が東京に行ってしまう。その受け皿をどうやってつくるかというのは地域が考えなければいけません。今の学生さんたちの中にも「寄らば大樹の陰」的な考え方は残ってますが、面白い仕事ができたら、どこでもいいよという学生もいるのですね。大学とともに先端的な面白い仕事を地域が作ってあげれば、いい学生が集まります。地域の良い人材をいかにキープするかという戦略を、地域がぜひ作っていただきたいと思います。

森本 われわれの一番心がけている言葉というものがありまして、これはダーウィンの進化論というもんですが、「強いものが生き残るとは限らない。賢いものが生き残るとは限らない。変化に対応できるものだけが生き残る。」ということを念頭においてやっています。時代の流れが非常に速いです。いかに変化していくか、その組織作りというのが重要になってくると考えています。つまり、いかに柔軟な組織を作っていくかです。情報産業、ITを活用するためにはまずここをやっておかねばなりません。そういう意味で小回りの効く中小企業のほうが、決定に時間のかかる大企業よりも、IT産業における主導権を握れると思います。ですからまず、変化に対応する組織が重要であるということ、そういった認識を経営者自ら持っていただいて、全社に浸透するという部分が非常に重要なんであろうと思います。本当に流れが速いインターネット業界ですので、最初に言ったようにノウハウの隠し事をしないというのがノウハウになっております。つまり私の経験を皆さん方に公表することによって、さらにそれよりもすばらしいノウハウが掲示板やメーリングリスト等で手に入ります。このようなしのぎ合いがあるからこそ、最先端のノウハウができていきます。何か隠し立てをした企業というのは、残念ながら今のところついてきてはいません。自分が何も与えないのに与えてくれる人はいないということです。インターネットの世界というのはまだ成熟しておりませんので、はっきり言ってまだ隠し立てするようなことは何もないと思います。

小川 札幌市の地域情報化構想を、4年位前に作りました。その中で、地域コミュニケーションの推進をキーワードに、地域の情報化を進めるということを作っていったわけです。地域サービスの向上を行政が図って行くため、ITを活用することが市民サービスの向上に役立ちます。行政としてはできるだけ新しい実験やっていこうという意識で取り組んでます。一方で、企業なり市民活動が主体となり、ひとつのものをできあがらせるフィールドが札幌の中にたくさん生まれると良いと思っています。もうひとつ、だんだん突き詰めていきますと、情報化の推進は人材そのものです。幸いにして、新しい企業が来たときに人材の層の厚さに関しては評価していただいております。ですから、そういったものをもう少し、バイリンガルな人材の育成も含めてやっていければいいなあと思ってます。
 最後に、坂本先生がおっしゃった内容ですが、札幌に住み続けたいという市民が、市民意識調査で95%くらいあります。札幌の四季であるとか自然であるとか、そこそこの便利性であるとか、市民の解放性というか、そういったベースの中で都市の魅力をもう少し将来的に維持しながら、そこによい人材を集めたいという感じでこの5年間はやっていきたいと今は思っています。先ほどのコアユーザーという話についても、札幌ファンのコアユーザーについてこれを契機にじっくり勉強させていただきまして、1人でも2人でも増やしていきたいと思っております。

伊藤 インターネットがこの国の民間に開放されましたのは、1995年ですが、以来インターネットの普及は急速に広がりました。おそらく21世紀が始まってみると爆発的に世界に展開していくんだろうと思います。近代という世界は集中を基本的な理念としてできあがっていた社会ですけれども、情報化社会というのは集中から分散へというふうに変わっていく世界だと思います。その意味でアメリカは1970年代、ベトナム戦争に負けた後、これからはまさに集中から分散へという世界を認識し、日本人もようやくその都市型の集中から分散へ移ろうとしているのではないかと思うのです。その分散していく受け止め方、これがこれからの地域間のパワーの違いを示していくのであろうと思います。その意味で、ネットワークインフラをどう構築していくかということが21世紀の地域発展の基本的条件になっていくだろうと思います。行政としてそういう環境を大急ぎで整備しておいていただければ、21世紀への展望というのは必ずしも暗いものではないと思います。今われわれ日本人にとってはこの世紀末はいささか暗い世紀末になっておりますけれど、あと半年して21世紀を迎えた頃には人々の気分も変わっていくのだろうと思います。この変わっていく気分を促進させていくのが、ITなんだと思います。そのITの先行きをガイドしているのが、今日お集まりの皆さんでしょう。皆さんのご健闘をぜひ期待してこのシンポジウムをお開きとさせていただきます。
(文責:情報化フェスタ事務局)

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