当協会では地域情報化推進事業の一環として、「地域情報化の再活性化及び先進的情報システム導入のための調査」並びに「地域情報システムの開発」を行っています。平成11年度実施事業として、下記のテーマによる調査事業を行いましたので報告します。


 「浜松地域ソフトウェア産業支援情報ネットワークシステム調査」
            
推進本部 部長 地域情報化担当 西村英保


1.浜松地域の概要
 静岡県は東海道沿線を東西に長く延びているため、東部地域、中部地域および西部地域と大きく分けて3つの独自の特徴をもつ経済圏から構成されています。西部地域の中でも人口約58万人の浜松市を中核とした経済圏は浜松地域と呼ばれ、天竜川の下流域に広がる平野部とその後背の台地部、遠州灘沿いに発達した海岸平野部、さらに北部の丘陵・山岳部から構成される広大な地域で、歴史的には我が国の東西交流の要衝となってきました。また、天竜川水運により飯田や諏訪方面などの内陸方面との物資輸送や商取引も活発に行われ、古くから東西南北の広域交流を一体となって担ってきた地域です。
 当地域は、繊維、楽器、輸送機械を3大産業として発展を遂げてきており、輸送用機械や楽器においては世界的な企業を輩出しています。また、電子電気機械、一般工作機械などのメーカや、プレス、鋳造、熱処理、表面処理、切削加工、金型製造、樹脂成形などの工程分業する部品メーカ群によって、三遠南信広域地区最大の基盤的技術産業が集積し、我が国有数の量産型ものづくり拠点を形成してきました。
 近年では市街化が進む都市部から町村部への工場移転や、既存企業と関連性が深い新規企業、ベンチャー企業などの起業立地によりものづくり産業に関連する企業間交流は広域化しながらもその結びつきはますます強まってきました。

2.調査の目的と概要
 ものづくり産業の集積度が高い当地域がその発展基盤をさらに強固なものにし、国際競争力をつけるためには、個々の企業の技術ポテンシャルを向上させ、高度な技術ノウハウを有する独創的な企業への体質転換を推進することが急がれるようになりました。
 現在、情報技術の導入は様々なものづくり工程で不可欠となっており、多くの産業分野において事業活動のための情報技術応用やその利用ノウハウの導入が大きな課題となっています。また、地域ソフトウェア産業自体も広い分野への情報技術の急速な進展に合わせて、さらなる情報技術の高度化に対応することが課題になっており、ソフトウェア企業間での協力や連携を通じた機能別役割の補完施策の推進が求められています。こうしたものづくり産業とソフトウェア産業との融合やソフトウェア企業間の連携を当地域で活発化していくためには、個々の企業ごとの情報設備や運用システムの差異を超えて機動的に様々な情報を双方向、多方向に交換できる情報ネットワークシステムが必要となってきました。
 本調査では、浜松地域ものづくり産業の将来を見据えた活性化に向けて、地域ソフトウェア産業が関与する同業種および異業種間の連携を促進するプラットフォームとして、情報ネットワークシステムを整備する方策についての検討を重点的目標としました。

3.浜松地域の課題と情報化ニーズ
 当地域を含む静岡県は、ソフトウェア産業を含む情報サービス産業の就業比率が全国平均の4%を大きく下回り2.3%となっています。また、その生産性も全国平均の56%となる985万円程度の低水準な状況にあります。「ものづくり」を中心とする当地域産業基盤を支えるソフトウェア産業や知的サービス産業の役割はますます大きくなる中で、これらの産業の企業体質を強化し支援育成していくことが重要な課題となっています。
 当地域内ソフトウェア産業の企業間交流を活発化し、企業間連携を強化することにより、浜松地域ものづくり産業の自律的な成長を促進できる交流の場としての情報ネットワークシステムは如何にあるべきか、「浜松地域ソフトウェア関連産業アンケート」調査を実施して広く企業ニーズを洗い出しました。さらに地域企業の参加による「浜松地域情報化推進ワーキンググループ」を設置して、検討会を開催し意見交換を行いました。
 アンケートの結果、このようなソフトウェア関連産業支援情報ネットワークシステムに対しては経営資源、営業開拓および業務処理の強化という面で過半数の企業が期待を寄せていることが明確化しました。経営上の期待は外部人材の活用や業務のアウトソーシングに問題を抱える中堅企業に多く、営業上の期待はソフトウェア受注生産型企業や独自ソフトウェア開発を求める大手・中堅企業に多く見られます。また、業務処理上の期待は企業規模にかかわらず、独自分野やコアコンピタンス(企業の得意とする中核的分野)が不明確な企業で高くなっています。
 アンケート結果のみならずワーキンググループ検討会の意見からも、企業間連携を促進する情報ネットワークシステムは、一般的な情報収集・発信・交換ツールとしてだけでなくソフトウェア企業間や異業種間におけるビジネス上での協業化や共同化を推進するプラットフォームとして、実際上の生きたビジネス情報を受発信できるサービスシステムとして期待されていることが浮き彫りにされました。

4.情報ネットワークの基本設計概念
 浜松地域における情報サービス産業、とりわけソフトウェア産業の一層の集積化とその生産性向上が当地域ものづくり産業を中心にした行政、市民生活の高度情報化を図るためには必要であるとの調査結果を受けて、ソフトウェア企業やベンチャー企業など小規模情報企業間での「水平的連携」と地域ものづくり企業との協業化による「垂直的融合」とを合わせもち、コンソーシアム型技術開発や共同販路開拓・共同受注などを促進できるためのソフトウェア産業支援情報ネットワークシステムを構築して、地域産業間の融合化と高度情報化により浜松地域ものづくり産業基盤を有機的に整備することを目指しました。
 この情報ネットワークを地域情報化の核とし、より統合的な地域プラットフォーム情報ネットワークにまで育成し、県境を越えた三遠南信広域地域や静岡県下全体の地域情報化や、ものづくり産業の高度化支援に役立てることをも視野に入れ設計を行いました。
 浜松地域ソフトウェア産業支援情報ネットワークシステムは、次の2つの基幹機能を備えた地域産業支援型ネットワークシステムとしました。

(1)地域産業の情報受発信の基盤システム
 「浜松地域ものづくり情報パーク(図1参照)」と呼称し、分散する情報提供機関へのワンストップサービスの実現を基本とします。企業情報提供については統一フォーマットを用意し、情報発信企業自身が情報メンテナンスを行えるようにし、公的機関情報はそれぞれのURLを提供し、一元的な公的情報窓口機能を提供します。また、この情報パークでの情報交換のための電子掲示板や電子メール配信機能を整備します。
 このシステムは利用形態に合わせて2つの主な目的をもって設計されています。

 (A)「企業情報収集の利便性向上」のための地域企業情報データベース構築
  ・発注先を探す地域内外の企業に対し的確な地域企業情報を一元的に提供
  ・営業目的での利用や悪用を防止しビジネス上での利用者メリットを確保
 (B)「公的情報活用を促す情報交換の場の提供」を通じた地域情報伝達力強化
  ・公的機関の発信する情報へのアクセスを一元化する窓口機能の提供
  ・公的機関、産業間での自由な情報交換の場の提供 

 図1 浜松地域ものづくり情報パーク

(2)地域産業のプロジェクトベースの連携・融合化の基盤システム
 「浜松地域ものづくりバーチャル企業(図2参照)」と呼称し、地域内のソフトウェア企業群による水平的な連携、並びにそれらソフトウェア企業を含むものづくり産業支援企業群と地域産業・製造関連企業群との垂直的な融合を実現するための、ものづくりを取り巻くシステム環境の構築を設計整備します。
 企業間をネットワークするシステム環境には、CAID(工業デザイン支援システム)、CAD(設計支援システム)などの設計工程支援システムに加え、CAE(解析支援システム)、RP(素形材支援システム)、CAT(実験支援ソフトウェア)などの加工工程支援システムに対応するためのソフトウェアコンポーネントの提供も期待されます。こうした「企画」から「生産」に応じた製品開発スパイラルの中で必要とされるソフトウェアツール類を整備提供して、個々の企業のソフトウェア環境を超えた異業種間・ソフトウェア企業間の融合を支える基盤システムとします。

 図2 浜松地域ものづくりバーチャル企業

 このシステムも利用形態に合わせて2つの主な目的をもって設計されています。

 (A)「ソフトウェア企業間での産業支援基盤プロジェクト集団の形成」
   地域のソフトウェア産業がそれぞれの得意分野・技術・ノウハウなどの経営資源を相互に補完しながら、案件ごとに研究開発能力や先進技術応用能力を高度に具備した仮想プロジェクト集団が形成できることを目指します。
  ・得意分野・技術・ノウハウ・ソフトウェア部品などのアプリケーションソフトウェア開発のための知的経営資源を本システム上で登録・管理・提供
  ・共同受注・共同研究開発のための参加募集・営業活動・処理体系整備など本システム上での協業的企業活動推進の場の提供

 (B)「地域企業間でのものづくりプロジェクト集団の形成」
   ソフトウェア産業支援システム基盤上に地域の産業界が、それぞれの得意分野・技術・ノウハウなどの経営資源を相互に補完し合いながら、案件ごとに受発注・企画・先進技術習得能力の高い仮想プロジェクト集団を形成します。

  ・得意分野・技術・ノウハウ・機械部品などのものづくり経営資源の本システム上での登録・管理・配信・提供
  ・共同受注・共同製品開発のための参加募集・営業活動・処理体系整備などの本システム上での新規ものづくり活動促進の場の提供

5.今後の予定
 本システム構築に関しては、今回の調査から得た成果を生かし、浜松市を拠点とする諸関係機関と十分な協議を行いながら、今後における永続的な事業化を目指して、理想的な情報ネットワークシステム構築のための調査研究を引き続き積極的に推進していきます。

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