3.関連技術の研究報告

    地域情報化の推進に向けたNECの取り組み
                
日本電気株式会社 四十谷 利浩

1.地域情報化の現状
 ここ1〜2年、民間に加えて国や自治体の支援によって、インターネット接続環境、CATV網、域内光ファイバ網の敷設といった高速アクセス網の整備が積極的に進められている。さらにインターネット関連技術の開発や高速回線の民間への解放といったシステムや制度面での改善が図られ、ハード・ソフト両面からインターネットを中心とした社会基盤が整いつつある。これら一連の政策によって個人がインターネットを利用できる環境は飛躍的に選択肢が広まり、利便性も向上した。また、パソコンの価格低下や携帯電話の普及によって、よりいっそうインターネットに触れる場面が増大してきている。
 しかしながら、一部地域では、いまだにCATVも整備されず、インターネットへのアクセスポイントも近傍にないという状況が残っている。また、パソコンや携帯電話といった情報機器に馴染みの薄い人や、身体的なハンディキャップからこれらの機器にふれることが難しい人への配慮も必要になってきている。
 一例をご紹介すると、平成11年度通信利用動向調査(総務省)によると、情報通信関連機器の保有率は、パソコンが37.7%、FAXが34.2%であった。一方で65歳以上の高齢者が利用している機器は、FAXが12.2%、パソコンが5.4%であり、高齢者にとってはまだまだパソコンを使うには距離感があることがうかがえる。

2.情報格差解消へ向けた取り組み
 こういった、地域的な特性や情報通信関連機器への抵抗感によって生じる、情報提供の格差を是正するために、多様なメディアによる情報発信が期待されている。これからご紹介する音声・FAX・インターネット情報提供システムは、そうした人々のご要望に応えて登場したものである。
 下図は音声・FAX・インターネット情報提供システムの画面例である。


 まず、情報の提供者は、指定された案内に従って、パソコンからデータを入力する。次にそのデータをパソコンに情報提供できる形式に自動的に変換する。これにより、WWWサーバの知識がない人でも容易にインターネットを通じて情報発信を行うことが可能となる。
 一方で、これらの入力されたデータは、同時に音声やFAXで情報提供が可能なように自動的に加工される。まず、音声については、音声合成技術によって人間の肉声に近い合成音が再現される。次にFAXについては、データの形式を変換することで、インターネットを通してパソコンの画面に映し出される映像と同じイメージをFAXでも取り出すことが可能となる。
 このシステムの特長は、以下の通りである。
(1)複数メディア変換(インターネット、FAX、音声、iモード、街頭端末)
(2)情報発信のための操作が簡単で、画面デザインに統一性がある情報提供が可能
(3)キーワード検索や階層構造表示による簡便な操作
(4)追加機器(表示盤、バリアフリー端末等)による機能拡張
(5)追加システム(コミュニティ対応:電子会議室・電子掲示板)による機能拡張
(6)運用の統計情報、コンテンツ別のセキュリティ管理といった管理・運用ツールの充実
 われわれは、本システムの活用によって、情報を提供する側、利用する側の双方の立場から、インターネットに接触できる人の裾野が広がるものと期待している。

3.バリアフリーに向けた取り組み
 以下では、情報通信関連機器と障害を持つ人々との接点についての取り組みをご紹介する。
 図2は、身体障害者向けのバリアフリー端末である。これによって一定レベルの障害をもつ人に、街頭における情報提供の機会を提供できる。下肢障害者を意識した端末の形状等ハードな面による操作性の向上に加えて、画面上のユーザインタフェースの改良により上肢障害者や視覚障害者へのソフト面での対応も行った。
 図2にはその画面例も示した。まず、上肢障害者に対しては、細かい指先の動きを取ることが難しいため、大型のアイコンの色が順に反転していき、利用者の希望するアイコンの色が反転したときに手元の大型ボタンを押下するとそのアイコンが選択されるしくみを作った。また多少障害の程度が軽い人は、直接画面にふれることで選択ができるように大型アイコンを用意した。
 また、視覚障害者に対しては、画面にふれるとその部分を読み上げてくれたり音声案内によって操作を助けるような工夫を施してある。
 さらに、個人の障害情報を記載したICカードを端末にセットすると、その人の障害に応じて端末の使い勝手を変更できる技術も確立されている。将来、全国的にICカードが使える環境が普及し、共通の様式で障害情報をICカード内に保有できれば、これらの技術を用いて障害者の行動範囲を広げることができる。
 1台の端末によって、さまざまな部位・程度の障害に対応することは非現実的である。実際には、重度の障害者には介添えが必要である。しかし外出などが可能で比較的身体の自由が利く人に対しては、本端末を用いることで屋外における社会参加の機会を増やすことができる。今回ご紹介した事例では、ある程度対象者を絞ることによって、経済的かつ実用的なシステムを構築することができた。

 図2 身体障害者向けのバリアフリー端末

4.地域情報サービスセンター構想のご提案
 最後に地域情報サービスセンターの構想についてご紹介する。
 社団法人日本能率協会の平成12年度調査によると、国の「行政情報化推進計画」に対して今後の取り組み優先順位を全国896自治体に聞いたところ、「ワンストップ・ノンストップサービス」、「電子文書管理システム」、「申請・届出手続きの電子化」が上位3つを占めた。一方で、平成11年度通信利用動向調査(前掲)によると、将来自宅で受けたい情報通信サービスとして、「画面を通じて行う医師との健康相談(診断)」が45.8%でトップ、次が「申請・届出などの行政サービスや公的施設の予約」25.9%であった。
 このようなGtoC(行政から住民へ)を実現するには、自治体や国主導のネットワーク系と民間主導のネットワーク系とを相互に接続し、情報交換を行う必要がある。基盤整備という面からは、第1種電気通信事業者であるCATV網、電力系ネットワーク、電話会社等民間ベースのものが入り混じっており、その一方で、高度なセキュリティが要求される自治体自営網や総合行政ネットワークのような国主導のネットワークも構築されようとしている。問題は、これらを有機的に結びつけるしくみがないことである。
 また、地域コミュニティを活性化して住民の相互交流を発展させることは、住民による政策評価を実現し、行政サービス機能をNPOが補完するといった効果が期待でき、住民参画による本来の地方自治の実現に向けて前進できると考えられる。しかしながらこれらの機能を統合的にまとめる機構が存在しない。
 そこで、地域情報サービスセンターを設立して、これらの課題の解決にあたるとともに、地域情報化の推進役として地域社会に根付いた活動を展開していくことを提案したい。地域情報サービスセンターの主な役割は以下のとおりである。

(1)地域の第1種電気通信事業者と自治体のネットワークとの相互接続とその運用

(2)地域コミュニティ創出にむけた情報発信と電子掲示板・会議室等の運営

(3)情報格差是正に向けた基盤整備

(4)地域情報化計画策定支援ならびにNPO活動支援
 先にご紹介した音声・FAX・インターネット情報提供システムやバリアフリー端末は、上記の目的に沿ったソリューションを提供するものである。図3は、各ソリューションの要素と関係機関で構成された地域情報サービスセンターのあらましである。われわれは、このような地域密着型で住民参画を促すようなセンター機能が、これからの地方自治の根幹(=基盤)を担うようになると考えている。
 すでに、電子的な仮想空間におけるコミュニティは形成されつつある。若年層を中心とした携帯電話によるメールのやりとりは、今後この社会が歩んでいく方向を暗示している。避けられないこの大きな潮流に飲み込まれることなく、あるべき姿を希求していく姿勢が問われている。

 図3 地域情報サービスセンターの様相

著者:四十谷 利浩氏
(あいたに としひろ)

日本電気株式会社
公共ソリューション事業部事業推進部
昭和60年日本電気株式会社入社

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