●技術開発研究報告 

 財団法人ニューメディア開発協会では、高度情報化社会の円滑な実現を図るため、時代の要請に応える先進的な情報システムの開発を行っています。最近実施した事業の中から、「モバイル通信サービス等における次世代ICカードシステムの利用可能性に関する調査」と「原本性保証に係る評価・認証制度に関する調査研究」を取り上げ、その概要を報告します。

1.モバイル通信サービス等における次世代ICカードシステムの利用可能性に関する調査

開発本部次長 新世代ICカード担当 宇津 剛

1.調査概要

 近年の日本において、大きく発展普及したものが幾つかありますが、そのなかでも特筆すべきものとして二つあげることができます。ひとつは、インターネットであり、もうひとつはモバイル通信です。モバイル通信を担うデバイスとしては、携帯電話やPDA等がありますが、本稿では携帯電話を代表として取り上げました。この携帯電話を主としたモバイル通信サービスと、次世代ICカードシステムの接点を探ろうとするのが、本調査の目的です。

 既にIMT-2000*1にはUIMカード*2が搭載されることが予定されており、また一方では無線LANやデータキャリア(無線タグ)をはじめセットトップボックスなど広範囲な利用が考えられています。

 本調査では、モバイル通信サービスにおける次世代ICカードシステムの利用可能性を広く収集するために、モバイル通信サービスおよび次世代ICカードシステムに携わる業界関係者の意見を集約し、評価を加えました。調査方法としては、業界識者に対する対面ヒアリングを実施しました。ヒアリング対象は、通信キャリアと製造メーカとしました。

2.モバイル通信と次世代ICカードの発展の方向性

(1)モバイル通信の発展

 携帯電話は日本でのみ普及しているわけではなく、もちろん海外でも多く使われています。海外を含めた全体数では7億加入を超えており、そのうち日本では7千万加入を突破(日本での人口普及率55%)となっています。(2001年10月時点)日本のみで世界の1割の携帯電話人口を占めているのは、驚異というべきでしょう。

 そもそも携帯電話は、家庭の外でも自分専用の電話を使いたいというニーズから発しています。以下にその歴史を簡単に辿ってみます。

 1 第1世代(アナログ方式  〜1992年)

 最初に実用化されたのは自動車電話であり、その後に肩にかける電話となりましたがその大きさに違和感を与えたのも事実です。その後、手に持てる形となりましたが、依然として重量感のある電話という印象を与えました。

 2 第2世代(デジタル方式 1993年〜2000年)

 小型軽量となり、表示画面が大きくなりグラフィック表示も可能となりました。eメールの送受信およびインターネット接続が可能となったのは、つい最近のことです。メールやネットを使う上で、表示画面(ディスプレイ)の充実の寄与は大きいといえます。ここにきて、携帯電話は「話す」に加えて「見る」という形態も備えることになりました。

 3 第3世代(いわゆる次世代 2001年〜 )

 世界共通規格の新しい通信手段に準拠したものです。この結果、従来より高速大容量でインターネット接続が可能となり、音声や画像を用いた新しい情報サービスの提供が可能となりました。また、国内に限定されていた使用範囲が海外にも拡大されるようになります。

 技術的には、機能・性能ともに更に向上し、デジタルカメラ装備の機種も登場するようになりました。更にICカード(SIMカード*3)を利用することにより、その能力を発展させたものが出現します。ここでいうSIMカードは、特に欧州においてGSM*4対応の携帯電話で用いられ始め、モバイルECにも利用できるとして発展してきており、日本でもこの方向への模索がなされているものです。

(2)UIMカードの搭載によるモバイル通信の発展

 国際電気通信連合(ITU)によるIMT-2000の標準化作業のなかで、UIMカードの装着が義務化されたことにより、IMT-2000端末には全てUIMカードが搭載される方向にあります。

 ここでいうUIMはUniversal SIMともよばれるようにSIMの上位バージョンです。記録情報は、図1に示すようなものとなりますが、UIMカードは着脱可能なものであり、当面は通信キャリアからのレンタルとなると思われます。

図1 UIMカードの記録情報

(3)次世代ICカードのモバイル通信利用

 次世代携帯電話であるIMT-2000にはUIMカード(あるいはUIMチップ)が搭載されますが、携帯電話ではこれを次世代ICカードとして位置づけることができます。まず搭載される一つ目のUIMカード(UIMチップ)に加えて、二つ目のチップ(セカンドチップ)あるいは二つ目のスロット(セカンドスロット)の利用が進んできます。また、それとは別の媒体として、メモリーカードの利用も考えられます。これらを図2に示します。

 1 セカンドチップ

 二つ目のUIMチップを携帯電話から着脱するという利用スタイルは、日本人の感性からして受け入れ難いと思われます。従って、セカンドチップとして内蔵する形態が想定できます。このセカンドチップのメモリの一部を共用エリアとし、ここにアプリケーションが格納される方式となります。

 2 セカンドスロット

 二つ目の記録媒体としてICカードを用いるとすると、操作上の簡易さから、非接触ICカードが主流になる可能性が大です。ただし、カードの形状からして内蔵とはいかず、第2のスロットを設けることになります。もちろん、このスロットにはICカードへのリード・ライト機能を装備します。

 3 メモリーカード

 主にアプリケーションデータの記録媒体として、メモリのみを別に装着する方式も考えられます。PCからのデータをこれらのデバイスに移し込み、携帯電話でも利用しようとするものです。最近は、音楽データをこれらのメモリに記録して、携帯電話をMP3プレーヤとして用いるような応用もなされています。

図2 次世代携帯電話に搭載される次世代ICカード(チップ)

3. モバイル通信における次世代ICカードの利用展望

(1)アプリケーション内容とその利用形態

 携帯電話の発展の経緯を利用者の行動パターンより分類すると、次のような捉えかたが可能です。

  「話す」 第1世代

  「見る」 第2世代

  「翳す(かざす)」 第3世代

 第1・2世代は文字通りに解釈するとして、第3世代はいよいよ携帯電話によるeコマースへの活用を意味しています。すなわち、決済をおこなう端末(リーダ)に携帯電話を翳すことにより取引が完了するようなパターンです。

 この第3世代(次世代)携帯電話への、次世代ICカードのアプリケーションとして想定されるものを表1に示します。
(各内容の詳細は省略)

アプリケーションの分野
内   容
決済

・クレジットカード
・デビットカード
・プリペイドカード

交通

・定期券
・特急指定席券
・切符の発券
・航空機のボーディングパス
・タクシーのチケット
・バスの回数券
・鉄道の回数券

電子チケット ・映画チケット
・コンサートチケット
・テーマパークの入場券
・各種イベント会場の入場券
・スキーのリフト券
・スポーツ観戦チケット
クーポン

・音楽クーポン等
・位置情報と連動した割引クーポン
  (現在地の周辺の各種割引クーポンを携帯電話に配信)
・各種サービス券

POS連動

・コンビニのPOS(コンビニ/自販機など)
・自動販売機
・飲食店
・100円ショップ

公共 ・電子政府(住民票、印鑑証明など各種申請手続等)
・電子投票
・権利及び身分証の写し(免許証の情報等)
・電子署名

表1 次世代ICカードのモバイル通信利用アプリケーション

(2)今後の課題と対応

 モバイル通信サービスが発展してゆくためには、以下に示すようにいくつかの課題があります。

 1 行政の課題

 携帯電話を主としたモバイル端末による種々の行政サービスを構築していくにあたっての、インフラ整備やモバイル認証局の設置、あるいはモバイル端末を用いた電子政府への利用の試みなどです。

 2 通信キャリアの課題

 セカンドチップあるいはセカンドカードが用いられるようになると、通信キャリアから見て、ユーザとの責任範囲の切り分けを明確にしておく必要があります。

 3 セキュリティの課題

 モバイル通信が広く用いられるにつれ、必然的にセキュリティの問題がクローズアップされてきます。

 ここでは、3のセキュリティ上の課題を取り上げて整理してみます。セキュリティにおける課題とそれに対応する方式は図3のようになります。

図3 セキュリティにおける課題と対応方式

 ここで対応方式の焦点となるのが、認証技術の確立です。現在、考えられている認証技術には表2に示すものがあります。

入力情報の暗号化

秘密鍵暗号方式(DES*5、FEAL*6)

利用者認証
身体的特徴による認証(指紋認証、網膜パターン認証)
所有物による認証(ICカード認証)
記憶情報による認証(暗証番号認証)
メッセージ認証 秘密鍵暗号方式(DES、FEAL)
公開鍵暗号方式(RSA*7、ESIGN*8、EPOC*9)
ディジタル署名

公開鍵暗号方式(RSA、ESIGN、EPOC)

表2 認証技術

 この認証技術の確立が、即ち使用者個人の使用権利保有の証明となります。使用者の使用権利保有の証明ができれば、たとえ携帯電話が他人の手にわたっても、登録していない者では無用の端末としかならなくなります。今後は、認証技術の開発とそれの携帯電話への標準的な適用がなされてくることでありましょう。
 今後、更に携帯電話が国民の共通のモバイル通信デバイスとして、その地位を確立していくためには、上で述べたように特に認証技術の開発と適用が焦眉の急ですが、そのためには電子認証の応用技術および電子認証に必要な個人特定技術、複製防止技術、エージェントソフトウェア技術等の研究開発がかぎとなります。

 これらの技術は、単に携帯電話だけで処理するには負荷が大きすぎるため、別にインテリジェンスを持った手段が必要となります。次世代ICカードシステムが、その役割を担うものとして期待されています。

■GLOSSARY(用語説明)

*1 IMT-2000:(International Module Telecommunication2000)国際電気通信連合が中心となって標準化した
         2000年代の高速広帯域移動通信方式

*2 UIMカード:(User Identity Module card)SIM*3カードの上位バージョンのICカード

*3 SIMカード:(Subscriber Identity Module card)携帯電話やPDAに差し込むことができるICカードの一種で、
         電話番号、ID、課金情報等が格納されている。これを確認することで通話が可能となる

*4 GSM:(Global System for Mobile Communications)汎欧州移動体通信規格

*5 DES:(Data Encryption Standard)暗号アルゴリズムの一種

*6 FEAL:(Fast data Encipherment ALgorithm)秘密鍵暗号方式の一種

*7 RSA:(RSA)公開鍵暗号のアルゴリズムで、公開鍵暗号のデファクトスタンダードといわれている

*8 ESIGN:(E-SIGN)電子印鑑署名技術の名称

*9 EPOC:(Efficient PrObabilistiC public-key encryption)インターネットによる電子商取引用暗号化技術の名称


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