●地域情報化報告

  当協会では地域情報化推進事業の一環として、「地域情報化の再活性化及び先進的情報システム導入のための調査事業」及び「地域情報システム開発事業」を行っています。
 平成12年度に実施した事業(前号NO.4 12ページ参照)の中から、「ホスピタリティ型石垣観光情報システムの開発(沖縄県石垣市)」と「地域ものづくり産業支援情報システムの開発(静岡県浜松地域)」を報告します。


1.ホスピタリティ型石垣観光情報システムの開発(沖縄県石垣市)

1.はじめに

 石垣市は沖縄本島から南西に約400km、台湾へあと百数十kmという八重山諸島にある。古くからアジアとの交易の中継地であり、日本とアジアが混じり合った独特の風土を持っている。人口4万数千人のこの島には、年間50万人以上の観光客が訪れ、マリンスポーツだけでなく、様々なレジャーが楽しまれている。とくに豊かな珊瑚礁と、そこに群れる熱帯の魚たちは世界で一番きれいな海といわれるほどである。
 平成12年の(財)ニューメディア開発協会のニューメディア・コミュニティ構想の地域情報システム開発事業に採択されたことをから、この地域の魅力をより広く伝えることを目的に、ホスピタリティ型の石垣観光情報システムを開発し、本年4月よりサイトの運営を開始した。



図1 「石垣島09808」のトップページ(http://www.tmi.ne.jp/)

2.システムのねらい

 今回の開発にあたって、石垣の離島という特殊性やIT技術の動向をみすえ、以下のようなシステム開発方針を定めた。

(1)地元の業者や人材が中心となって運営が可能なシステムであること
 地域の情報を発信するのは、やはり地域の人々によるものでなければならない。人々の想いがこもった情報を伝えることが、地域の魅力を伝える最良の方法であろう。
 今回の開発は、地元のIT産業を活性化させるためにも、またとない機会である。ビジネスとしてのインターネットの活用が難しいことではなく、また自分たちの地域や商品を広く紹介することが、どれだけ意味のあることか、気軽に参加し感じ取ってもらえること、そのような環境であることを念頭において、地元の自分たちで運営が可能なシステムを構築した。

(2)ハードウェアやサービス利用の運営管理の負荷が少ないこと
 情報発信から物産品の販売までをおこなうということは、相応のシステムの安定性、信頼性が要求される。たとえばウェブサイトは24時間動作していなければならないが、島内の電源事情では、一般事業者が24時間サーバを運用し続けることは難しい。また、離島ならではの通信事情の問題もあり、インターネット回線の常時接続についての島内の技術力も不足している。
 そこで、今回のシステムでは、クリエイティブで自由度を保った部分、機能を限定した専用のソフトウェアによる部分、大量のアクセスに耐えられる安定性が必要な部分など、必要な用件に応じてシステムを分類し、パッケージソフトによる部分、自前のシステムによる部分と、アウトソーシングできる部分、などを組み合わせたシステムを設計した。これによって、離島の環境であっても低コストで高品質なサービスを実現することを可能とした。

(3)将来の機能拡張に柔軟に対応可能なシステムであること
 情報技術が日々進歩している現代において、システム開発においては、将来の機能拡張を踏まえた設計が望まれる。しかし、あまり機能拡張ばかりを意識すると、開発コストがかさむケースが多いようである。今回のシステムでは、なるべく汎用性のある仕組みをもちいることで、ハードウェアやOSのバージョンアップにも容易に対応できるものとした。
 ただし、ECモールの販売・受注管理システムについては、複数台の端末によるシステムを断念し、一台のPCのみによる販売・受注管理とした。複数台の端末にすることで、より多くの注文を処理することが可能となるが、特に受注データの取り扱いについては慎重が必要なところであり、作業フローを単純化するためにも一台のPCでのシステムとすることで、開発コストを予算の範囲内に収めることができた。
 実際には、一日の注文数が数百件である限りは一台のPCで処理が可能であり、逆にそれ以上の注文が発生するような、いわば嬉しい事態になった際には、システム全体の再構築をおこなうべきであろう。

3.動画や音声を用いたホスピタリティの演出

 インターネットを利用しているときに、どのような音がしているだろうか。しんとした事務所や図書館ということもあるだろうが、心地よい音楽が流れている自室からアクセスしている人も多いのではないだろうか。
 音楽や映像は、情報発信を考える上でとても効果的なものである。特に石垣のコンテンツは石垣の音楽とともにみていただきたい。そういう想いのもと、本システムの特徴の一つとなっているのが、石垣の魅力を伝えるための動画や音声を用いた情報発信である。
 石垣に訪れたことのある人なら、この地の民謡の音を耳にするだけで、その情景を思い出すだろう。なんということもない石垣の一枚の写真でも、民謡が流れてくると、そのときに出会った人や潮の匂いを思い出してくれることもあるだろう。日常生活に疲れたときに、石垣の景色や民謡を聞いてもらうことで、それが少しでも心を癒すことになれば、とてもうれしいことである。
 本システムでは、ストリーミング技術を用いることで、石垣で録音された民謡だけでなく、海開きや豊年祭といった地元のイベントについても、提供している。
 本システムの一部であるコンテンツ編集用パソコンは、ホームページの作成だけでなく、ビデオカメラで収録した映像の編集、加工もおこなうことができるものである。イベントの収録、編集から発信のためのデータ変換まで、すべての作業は地元の有志がおこなっている。パソコンでのビデオ編集作業は、最近になってようやくポピュラーになってきたようであるが、操作自体は直感的でわかりやすく、なによりも自分の撮ったビデオにタイトルや音楽がついて全く違ったものに仕上がることは大きなよろこびである。実際、地元の人々が来社して興味本位でさわっていくことも多く、動画編集への関心の高さが伺える。
 ビデオカメラは一般の家庭に広く普及しており、誰もがためらうことなく扱うことができるものであろう。この手軽さを地域の情報発信に結びつける一つの手法として、パソソコンを用いたビデオ編集は効果的だと思われる。

図2 八重山の音と映像ライブラリのページ (http://www.tmi.ne.jp/av/)

図3  「石垣島09808」内の石垣e市場の例 (http://www.tmi.ne.jp/shop/list.html)


4.石垣の特産品を集めたローカルなECモールの構築

 珊瑚礁や熱帯魚とならぶ石垣の特色は、南国ならではの物産品であろう。パインやマンゴー、ドラゴンフルーツといった南国の果物や、九州沖縄サミットで一躍有名になった石垣牛をはじめ、黒真珠や織物など石垣ならではの特産品は数多い。そのどれもが内地では高価で取り引きされているが、石垣からそのまま送ることができれば、比較的安価に提供することができるだけでなく、生産者にとっても利益が増えることになる。石垣を含む離島は、郵便料金についての優遇措置があり、これを存分に活用しない手はない。残るのは、如何にして物産品を紹介し販売するかである。そこで、ローカルなECモールのためのシステムを構築した。
 今回のプロジェクトでは、石垣の独自性を残しつつも、消費者の多様なニーズに応えられるものとすることを念頭に置いた。そのため、既製のECモールを間借りするのではなく、当社の運営するECモールにおいて、石垣市内のさまざまな商店の商品を取り扱う形式をとることにしている。
 当社が商品をwebサーバ上にて紹介し、注文を受け付ける。そのデータを、発送伝票にプリントアウトすることと、商店の代わりに代金を受け取るまでが当社の業務となる。各商店は商品を売れる形に整えることと、伝票に従って郵送するのみである。
 各商店にとっては、商品の品揃えや受注の管理を、身近な当社が全ておこなうという安心感があり、また技術やコストの面でも各商店にとってのECサイトへの参入の障壁が低くなることがねらいである。石垣の市外局番である09808をブランド名として「石垣島09808(http://www.tmi.ne.jp/)」に構築し、本年4月より開設している。

 インターネットでの商品の販売は、単にホームページを作るだけではない。商品管理から受注、発送データ、集金関係のデータ、在庫データや顧客データなど、その裏にある部分も重要である。システムの機能は大きく以下に分けられる。

(1)商品管理機能
 商品の写真と金額、内容量や説明文などをデータベース管理し、ECモールの商品ページを自動生成する機能である。データの間違いが致命的となるため、ECモールの商品ページのみは一般的なホームページ作成ソフトによらないものとしている。

(2)受注管理機能
 ECモールの商品ページで入力された注文データと顧客データは、指定したアドレスに電子メールで届けられる。この電子メールを受け取り、注文、顧客それぞれのデータベースに登録する機能である。インターネットは顔が見えない取引のため、入力の間違いやいたずらも多いと聞く。そのため、データの取り込みは完全に自動化するのではなく、スタッフが確認できるよう、確認ボタンを設けてワンクッションを置いている。

(3)顧客管理機能
 リピーターを大切にするためにも、顧客管理は重要な機能である。どの画面からでもボタン一つで顧客データベースにアクセスできるほか、顧客への電子メールの送付も容易なシステムとしている。
 また、インターネットでの販売とはいえ、電話での注文も想定されることから、顧客名の検索や並び替えについても、片手に受話器を持った状態でマウス操作のみで可能なインターフェースとするなど、使い勝手の面でも工夫した。

(4)伝票印刷機能
 郵便局や各種宅配便の発送伝票に必要事項をプリントアウトする機能である。顧客が入力した氏名や住所を、デジタルデータのまま発送伝票に出力するということは、手間と入力ミスが大幅に省けることとなる。

 このECモールにおいて、現在は生鮮食料品や物産品をはじめ、地元でも入手の困難な物品の販売もおこなっている。今後、現地発のエコツアーや離島巡りの旅、ダイビングやホテルの予約など、観光関連の商品や、民謡や三線などの体験教室の参加申し込みなども取り扱うことを考えている。



図4 受発注顧客管理システムの画面イメージ

5.独自のサイトを構築する上での課題と解決方法

 離島であるが故の困難は多い。全国に張り巡らされている光ファイバー網は石垣にはまだ届いていない。島内にWebサーバを置いても、島外からはとてもレスポンスの悪いサイトになってしまう。また、インターネットのプロバイダや技術者の数も少ない。専門の技術スタッフを常駐させることは現実的ではない。
 これらの課題を解決するために、メインのwebサーバにはレンタルサーバを用い、また受発注管理システムは習熟が容易なものとした。これによって、サーバの技術的な要素についてはアウトソーシングした形となり、我々はコンテンツの製作やECモールの運営に集中することが可能となったのである。
 手作り感の強いサイトではあるが、皆に親しまれるものとして、今後も魅力あふれるコンテンツを次々と提供していく予定である。ぜひ一度当サイトにご訪問いただき、石垣の魅力を感じ取っていただきたい。


連絡先
当協会 推進本部 部長 地域情報化担当 鈴木 邦彦
E-Mail:kunihiko@nmda.or.jp

株式会社タウンマネージメント石垣 専務取締役 石田 正夫
〒907-0022 沖縄県石垣市字大川208番地 石垣市公設市場内
TEL:09808-4-3477 FAX:09808-4-3478
E-Mail:ishida@tmi.ne.jp
URL:http://www.tmi.ne.jp


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