2 地域ものづくり産業支援情報システムの開発(静岡県浜松市)


1.開発の背景等

 財団法人浜松地域テクノポリス推進機構では、財団法人ニューメディア開発協会から平成11年度に受託した「地域情報化の先進的情報システム導入のための調査」の結果を踏まえて、平成12年には、同協会の「ものづくり産業情報支援システムの開発」の事業を実施しました。
 さらに、これを受けて、浜松市の協力も得て、3ヶ年計画を策定して、地域の中小企業の活性化のための情報支援システムの構築に向けた本格的な取り組みがスタートしました。

 ところで、浜松地域は、楽器、繊維および輸送用機器を中心に早くから産業が発達し、多種多様な数多くの企業が立地しています。さらに、地域産業の高度化を図ったり、新たな産業を導入したり、また、それらを支える学術研究機関や都市機能あるいは生活機能などの住空間も整備して、新しい地域文化を創造しようとしています。そして、この高次都市機能の複合集積拠点として、技術交流・研究開発拠点であるテクノポリス開発エリア、頭脳交流拠点である浜名湖エリアおよび文化交流拠点である浜松駅周辺地区が形成されています。
 この全国的にも産業集積度の高い浜松地域が、構造調整の難局を乗り越え、その経済基盤をさらに強固なものとしていくためには、旺盛な企業活動を支える産業支援機能の効率的・効果的な実践に向けて機能の一層の高度化・集積促進を図る必要があります。
 財団法人浜松地域テクノポリス推進機構は、地域のトータルコーディネート機関として、地域企業の技術高度化や新技術開発の支援を行い、地域産業の活性化・発展を図る目的で、企業、大学や公設試験研究機関をはじめとする関係行政機関との産学官交流事業を推進するとともに、各種専門分野における研究委員会の設置や、地域活性化基金を活用した起業化促進事業を積極的に推進しています。本システムの研究開発事業もその一環として、位置付けられています。

 さて、本システムは、画一的なCADシステムの導入や高額な高速デジタル回線網の整備などを必要とする従来の枠組みに捕らわれることなく、中小企業が無理なく、ものづくり情報を共有化し、活用できる新たな道を切り開こうとするものです。

 平成12年度の研究開発事業においては、第1次システムとして、「コラボレーション・ツール」が開発され、実証実験によって、その有用性が高く評価されました。
 ‘コラボレーション’とは、コンピュータ上のデジタル情報をネットワークを介して、遠く離れている者同士がタイムリーにデータを共有して、お互いの意思疎通をスムーズに図ることです。いわば、電話、FAXに続く新たなコミュニケーション手段が「コラボレーション・ツール」であると言えます。

2.産業支援情報システムの機能

 「コラボレーション・ツール」は、コンピュータネットワークを用いた視覚データ共有型のコミュニケーション・ツールであり、次の3つの機能を持っています。

(1)ビューイング機能
 ここでは、デジタル情報を画面上に表示し、画像を編集することができます。取り扱うデジタル情報は、3次元CADモデルをはじめ、2次元CAD図面、デジカメやスキャナからのイメージ画を対象としています。画面を拡大・縮小したり、移動、クリッピングあるいは明るさやコントラストの変更も自由自在です。

(2)情報連携機能
 ネットワークを通じて、情報発信者と受信者が会話的にお互いに画像情報を共有して、コミュニケーションできる2つの機能を提供します。
 1つ目のコミュニケーション機能は、‘リアルタイム・ビューイング’で、遠隔地間での画像表示の同期化を実現します。これによって、離れた場所であっても、同時に同一画像を見ることが可能となります。
 2つ目のコミュニケーション機能は、‘会話型アノテーション’です。これは、表示画面上に線、円、矢印、テキスト等を画像に重ねて書き加えられるものです。この画像に追記されたコメントは、双方向で同時に表示されますから、意思疎通を図る際には便利な機能です。

(3)データ伝達・蓄積機能
 ネットワーク上でコラボレーションを行った画像やアノテーションを、そのまま電子メールで送受信する機能です。このメールには、テキストや音声を添付することもできます。この機能によって、受発信履歴を記録するとともに、受信した画像データをファイルとして蓄積したり、コラボレーションの場に居合わせない第3者に対しても、情報を伝えることが可能となります。

図1 ビューイング機能

図2 情報連携機能/データ伝達・蓄積機能

3.システムの特長と効果

 本システムの特長には、@素早い応答性、A手軽なツール、B良好な使い勝手、CCADが無くても大丈夫、DCADはもちろん、デジカメやスキャナ等のデジタルデータに対応等があります。
 従来、企業内あるいは企業間での仕事を進めるにあたり、関係者が一堂に会して協議して製品開発が進められていたため、時間やコストが浪費され、タイムリーな意思疎通や仕様変更・修正事項の連絡・徹底が不十分で、重複・無駄・戻り作業が多く見られました。
 この状況を打破するために、本システムの「コラボレーション・ツール」を用いて、より合理的な仕事の流れを作り上げようとしています。

(1)「ものづくりコラボレーション研究会」の発足
 地域におけるものづくり産業を活性化するために、本事業等で開発したシステムの利用や普及を図ることを目的に、「ものづくりコラボレーション研究会」を発足させました。
 この研究会に入会すると、@地域ものづくり産業支援情報システムの利用 Aものづくりネットワークに関する各種情報の入手 BCAD/CAM等の設備利用 CCAD/CAM技術研修および各種研究会への優先的な参加等のサービスが受けられます。
 現在、会員数は約30社ですが、今後、80〜100社の参加を見込んでいます。

(2)「CAD/CAM技術研修」の開催
 中小企業が引き続き、競争力のあるものづくりを行うためには、ものづくりとITの融合による経営革新がますます重要になっています。財団法人浜松地域テクノポリス推進機構では、地域の多くの中小企業の方々が、ものづくりとITの融合の効果を体験し、認識してもらうために、財団技術開発研究所内にCAD/CAMシステムを整備しました。現在、毎月研修セミナーを開催していますが、好評で数多くの方々が受講されています。
 今後、地域ものづくり産業支援情報システムに関する講習も予定されており、研究会活動と併せて、システムの活用・普及に努めていく所存です。


図3 「コラボレーション・ツール」を用いたデジタルプロセシング

4.今後の展開

(1)システムの機能拡張と活用・普及
 本研究開発事業の第1次システムとして、「コラボレーション・ツール」が開発され、実証実験によって、その有用性が高く評価されましたが、今後計画されている情報システムは、次の2つのシステムです。

 1 サプライチェーン・ツール
  効率的で、効果的な企業運営の展開’を目指したインターネットを用いたアプリケーション利用サービス事業とものづくりサービスビューロ事業からなります。
 2 デジタルモックアップ・ツール
  新しい形の企業間連携による新製品開発’を実現する3次元CAD/CAMを中心とした統合的なVR(バーチャル・リアリティ)製品開発システムに必要なツールの整備やユーザ・インターフェイスの開発を行います。また、システムの普及に当たっては、「ものづくりコラボレーション研究会」を発展させるとともに、「CAD/CAM技術研修」の場も活用しながら、展開を図っていきたいと存じます。

(2)新技術展示商談会「はままつメッセ2002」でのPR
 本展示会は、財団法人浜松地域テクノポリス推進機構が主催するイベントで、企業による技術の融合、取引、提携等の促進を目的としたものであり、今回で12回を迎えます。この展示会は、これまで新事業分野の開拓に向けた技術や製品の新規取引、販路の拡張、情報交換の場として活用され、多くの成果を挙げてきました。情報関連機器や電子部品等の先端技術から環境問題に対応した製品まで幅広い製品・技術の展示が行われ、2001年度のイベントでは、81企業団体102ブースが展示され、2日間で約6,500名の来場者数がありました。
 本システムも、この展示会を通じて、地域の中小企業の方々にPRしていく予定です。


連絡先
当協会 推進本部 部長 地域情報化担当 西村英保
E-Mail:nisimura@nmda.or.jp

財団法人浜松地域テクノポリス推進機構
客員研究員 小杉隆司
〒431-3125 浜松市半田山2丁目24-2
TEL:053-434-5577 FAX:053-435-1855
E-Mail:hato@habi.ne.jp
URL:http://www.habi.ne.jp/hato/


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