IT装備都市研究事業報告

ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業報告

IT装備都市研究事業推進室 開発担当部長 山崎 正 運営担当部長 中林 市郎

1.はじめに

 最近、ICカードが情報サービスにおける安全で利便性の高い情報メディアとして注目を集めています。 
 ICカードは、e-Japan重点計画における電子行政サービス(公的分野)やポイントサービス、電子決済(民間分野)などの情報サービスで高いセキュリティを実現し、マルチアプリケーションを可能とする媒体として活用されようとしているからです。
 本事業は、ICカードを活用したセキュアなプラットフォームの上で、官民の情報サービスが利用され、ICカードが安全で利便性の高いメディアであることを実証しようとするものです。

2.事業の概要

 公募によって採択された21の実証コンソーシアムにより、全国21地域(54市町村)において、公的分野・民間分野で共通的に利用されるICカードシステムを活用した情報システムを構築・運用し、その効果を広範囲に検証します。これにより、システムの相互互換性や運用・管理方法といった技術的側面並びに多目的利用を前提とした費用分担等の社会的側面における方向性を見出し、今後の行政機関等による本格的な導入に資することを目的としています。
 本実証実験で使用されるICカードシステムは、公募により採択された3つの開発コンソーシアムにより研究・開発され、実証コンソーシアムにより住民の方々に配付されて平成14年1月(予定)から実証実験が行われます。
 本事業の実施体制は図1の通りです。事業の推進にあたり有識者による3つの委員会を設置し、実施事項の審議や事業の評価をしていただきます。また、各コンソーシアムとの間の情報共有・情報交換を図るために、定例連絡会議・定例委員会を設けています。共通の課題を検討する場としては各種部会を設け、関係者間の合意を得ながら進めています。
 実証実験の実施には、ICカードサービスの運営者たる地方公共団体等のフィールドのご協力が必須となります。フィールド団体との意識合わせには、フィールド団体会議を開催し、各種部会にもご参画いただいています。

図1 ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業の実施体制図

3.開発事業

 開発事業では、21の実証コンソーシアムに供給するICカードやリーダライタ等(これを共通システムと呼ぶ)の研究開発を行う(公募ではテーマ1からテーマ6)開発研究員と、将来に有効なICカード技術の研究(公募ではテーマ7)を行う開発研究員とで構成され、研究開発を進めています。
 開発事業の基本的な考え方は、
   新世代ICカード共通システムの成果および次世代ICカードシステム研究会等の成果の検証
   世界標準を踏まえた技術開発
   普及を考慮した技術開発
   総合開発コンソーシアムで共通的技術を開発
   相互運用性の実現
   技術的な透明性の確保
   セキュリティへの配慮
等の考え方に基づき進めています。

  技術開発・研究の対象は、図2の通りです。

図2 技術開発の範囲と共通システムの概要

  共通システムは、以下のシステム要件を基に研究開発に取組んでいます。

(1)行政系カードサービスの先駆けとして非接触ICカードを中核とするサービス基盤の提供。
 ISO/IEC14443準拠の非接触近接型通信インタフェースのICカードをベースとし、カード発行者、サービス提供者、カード利用者を分離可能とし、発行後のカードに対してサービスの追加削除を可能とするとともに、コストシェアのスキームとこれに関わるデータの提供等を相互運用性の高い形で実現することを目指しています。

(2)世界初の大規模なマルチアプリケーションカードの実証実験であり、安心して利用できる安定した環境の提供を重視した開発。
 十分な試験によるシステム品質の確保や、多目的
ICカードのトラブル解析に必要な機能や技術、運用の効率化等に留意した開発に努めています。

(3)異なるベンダ製品によるマルチベンダシステムの構築運用を可能とする。
 ICカード、リーダライタ、端末、サーバ類等ICカードシステムは、異なるベンダ製品間の組み合わせで構築、運用出来ることを確認することとしています。

(4)複数地域間でICカード及びICカードシステムとの相互運用性を可能とする。
 開発事業では、以下の3つの相互運用性を実現することを目指しています。
  複数の地域での利用を可能にする。(カード互換)
  複数地域のサービスを利用可能とする。(AP相互運用)
  複数地域でのAPダウンロードを可能とする(ダウンロード相互運用)

(5)マルチアプリケーションカードを官民で地域によらず効果的に活用するための社会システムモデルを作る。
 責任分担、費用分担を行う運用管理方式や簡易で公平性の高いサービス追加スキーム等の検討を進めています。

(6)共通的なコミュニティカードの基盤として実験終了後の継続的な利用を可能にする。
 ISO準拠によるグローバルな調達に対応し、官民相乗りサービスや自治体をまたがったサービスの提供等を実現し、実験終了後も継続的に地域展開を可能とする等配慮して進めることとしています。

4.実証事業

 実証実験を行う21地域では、それぞれの地域特性を生かしたICカードサービスを住民の方々の参加を得て実施します。
 この実証実験のねらいは3つあります。
  1 多数地域、大規模実験によるICカードへの理解度の向上及び普及
  2 IT社会におけるICカードの利便性、有効性の検証
  3 ICカード事業を通じた運用管理や運営方式などの運用スキームの検証

 この検証を行うため、各地域において行政サービスと民間サービスのアプリケーションを一枚のカードに搭載して住民の方に配付します。住民の方が利用できるサービスは地域により異なり、それぞれの特徴があります。
 官民の多数のサービスを実施しようとしているのは、大和市、岡山市、高知市などです。広域行政サービスに取組むのは、多摩地域5市、大阪府内3市、阪神北部3市1町、多治見市・笠原町です。
 特徴的なアプリケーションでは、介護保険が福岡県介護広域連合田川支部、北九州市、岡山市であり、国保・健保が久留米市、豊田市、高知市、多治見市、上越市、大和市、藤沢市、多摩地域で、地域医療に特化しているのは、沖縄北部12市町村です。
 そのほかでは、地域通貨(エコマネー)は大和市、阪神北部3市1町、駒ヶ根市、交通機関利用は札幌市、横須賀市、岡山市、商店街ポイントサービスは山形市、会津若松市、駒ヶ根市・飯島町、横須賀市、大和市、高知市など各地域の特性を生かした取組みが見られます。

図3 事業スケジュール

図4 実証実験実施21地域

5.共通アプリケーションの開発

 本事業における「共通アプリケーション」とは、複数の地域で利用され、かつこれまで稼動実績が少ないので、共同開発により開発の効率化が図れるアプリケーションを指します。
 この観点から、公的分野で共通的に利用されるICカードシステムとして、健康保険被保険者証並びに介護保険被保険者証に関連するアプリケーションを考え、利用範囲が全国に渡るということもあり、共通アプリケーションと位置づけ、開発・実証を行っています。

6.今後の展開

 実証実験で検証されたシステムは、各地域において14年度以降も継続的に運用され、サービス内容が一層拡大充実していくことが期待されています。
 今後のIT社会において、ICカードは重要なキーデバイスあり、当協会としては、本研究事業の成果を全国に普及していくことは勿論、地域の特性を踏まえた新たな活用方法の開拓やICカードシステムの標準化、ICカードのインフラを活用した応用システムの研究などに取組んでいくことにしています。


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