3.公共交通機関における非接触ICカードの可能性とその拡がり

ソニー株式会社


1.はじめに

 現在では様々なカードが発行され、日常生活で身近に利用されています。これらのカードの多くは磁気カードですが、今後、磁気カードはICカードに置き換えられると考えられています。これは「記憶容量が大きい」「セキュリティが高い」「高い処理能力を備えている」等のICカードの利点によるものです。
 非接触ICカードは従来の磁気カードや接触ICカードとは異なり、カードをリーダ/ライタに挿入することなく、かざすだけでカードの中の情報を送受信できるICカードです。ソニーが開発した技術方式「FeliCa」と名付けられており、電子乗車券や電子マネーなど多様な分野で幅広く利用されています。

2. 交通用途での利用

(1)海外での採用事例
 ソニーは、1988年に非接触ICカードの開発をスタートさせました。その後1993年に、香港で非接触ICカードを用いた交通用自動料金徴収システムの導入計画が発表され、当社が開発中であったカードの仕様コンセプトが最も高い評価を受け受注に成功しました。1995年11月より実用実験を開始し、1997年9月には「オクトパスカード」として一斉に稼動し始め、業界の大きな注目を浴びるようになりました。現在では1100万枚以上を出荷しており、完全に香港市民の必需品として定着しています。また、交通用途以外の領域でのサービス拡大も積極的に推進されています。例えば、コンビニエンスストア、自動販売機、パーキングメータなどでの利用が始まっており、今後も用途はさらに広がっていく予定です。また、腕時計に非接触ICカードと同じ機能モジュールを持たせた「オクトパスウォッチ」も販売されており、形状を選ばないという非接触ならではの展開も進んでいます。
 シンガポール交通局(Land Transport Authority)は、国内のバスや、地下鉄の料金徴収システムを現行の磁気カードから非接触カードへ切り替えることを計画しています。ソニーは、1999年にシンガポール陸上交通局からカード約500万枚、リーダ/ライタ約2万台を受注しています。2002年初めから本格運用が開始され、公共交通用途の他に公衆電話やホテルの部屋鍵、IDカード等に利用されることが予定されています。
 その他にも、中国のシンセンなど世界規模で「FeliCa」技術の採用が進んでいます。

(2)日本国内での採用事例
 日本ではJR東日本が次世代出改札システムとして、非接触式のICカードに着目し導入の検討を行っていましたが、2000年6月に国際競争入札の結果、ソニーのICカードシステムが採用されました。2001年4月から埼京線でモニター試験が開始され、2001年11月18日よりICカード「Suica」として首都圏の400駅以上へ導入され、本格運用が開始されます。

 「Suica」定期券は、

・定期券にイオカード機能が付加されるので、改札機で自動的に高速で乗越し精算が可能となり、定期券区間外の利用時でも切符を買ったり精算する必要がなくなる。
・カードごとにIDで管理されるため、万が一紛失した場合でも紛失したSuica定期券を無効化し、同一内容の新規カードの再発行を可能とする。

など、今までにはなかった新しいサービスが開始される予定です。
 他の交通事業者でも非接触ICカードの導入を予定しているところもあり、日本国内においても今後急速に様々な公共交通機関での非接触ICカードの利用が進んでいくと予想されます。

3. 公共交通用途以外への展開

(1)テーマパークなどのクローズドエリアでの利用
 「FeliCa」技術方式は、交通分野の他に特定のエリア内においてカードを所持する個人に対し、簡単な操作でサービスを提供する場合に威力を発揮します。
 例えば、箱根・小涌園にある温泉テーマパーク「ユネッサン」においては、リストバンド型の非接触ICカードモジュールを腕につけておくことで、テーマパーク滞在中には都度お金を支払うことなく非接触ICカードモジュールを端末にかざすだけの操作で飲食物を購入したり、施設に入場したりすることが可能となり、利用者の利便性が向上しています。
 また、東京・台場にあるメディアージュやメガウェブにおいても、飲食、物販、乗り物チケットの購入や入場確認を非接触ICカードにより行う事が可能となっています。ゲートシティ大崎やオーバルコート大崎といったオフィスビルでは、入退出鍵や社員証などとしても利用されています。
 このようにテーマパークや複合ビルなど様々な場所で、ユーザの操作性・利便性を向上させるために非接触ICカードが利用されてきています。

(2)電子マネーとしての利用
 「FeliCa」技術方式はまた、ビットワレット株式会社により運用されているプリペイド型電子マネーサービス“Edy”のような電子マネー分野でも広く利用されています。
 非接触ICカードを利用した電子マネーは、
既存の磁気カードタイプのプリペイドカードと比較して偽造されにくい
入金を行うことを可能とすることで、一枚のカードを永続的に利用可能
などの特徴をもち、コンビニエンスストアやレストランなどの実店舗(リアルワールド)と、インターネット上の仮想店舗(サイバーワールド)の両方で同じように利用できる利便性を実現しています。

図1 カード方式「FeliCa」

図2 JR東日本でのカード利用

図3 プリペイド型電子マネーサービス“Edy”

4. 「FeliCa」の技術的特長

 「FeliCa」技術方式は、非接触ICカードとして交通用途で要求される高速処理と高い信頼性を共存させることを可能とし、さらに金融用途での使用にも耐えうるセキュリティの高さも持ち合わせた技術です。

 1 ファイル管理
 「FeliCa」技術方式では多階層ファイル構造を持つことができ、各々のファイルに対してアクセス制御情報とアクセス鍵を設定することが可能です。

 2 マルチアプリケーション
 一回のトランザクション中での複数サービスに対する同時処理が可能です。また、ファイルごとのアクセス鍵を変えることにより、他アプリケーションからの干渉を防止しています。

 3 高速トランザクション
 複数ファイルアクセス時に複数の鍵から1つの「合成鍵」を生成し、合成鍵を用いた相互認証で一括して該当ファイルのアクセスを許可することで、複数アプリケーションを同時にアクセスする際のトランザクション時間を、セキュリティレベルを落とすことなく大幅に削減しています。

 4 トランザクション異常時のリカバリ
 「FeliCa」技術方式では、トランザクションが正しく完了する前にICカードがリーダ/ライタから離れ電力が途切れた場合でも、アクセスする全てのファイルの整合性確保を保証しています。従って、上位機器によってリカバリ処理を行う必要がなく、サーバ側もシンプルなシステム構成が可能となります。

 5 トランザクション時セキュリティ
 Triple DES暗号アルゴリズムを利用した相互認証を行い、認証後もトランザクション毎に生成する暗号化鍵でデータを暗号化して送受信を行うことで、高いデータ秘匿性を確保しています。

5. 今後の取り組み

 「簡単な操作で利用可能」かつ「高いセキュリティを確保可能」な非接触ICカードは、公共交通機関はもとより様々な分野でよりよいユーザインターフェースを提供する手段として今後ますます利用されていくと考えています。ソニーは、この非接触ICカード「FeliCa」技術を様々な機器に搭載していくことで「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」を構築していきます。

執筆者:松尾 隆史
(まつお たかし)
ソニー株式会社
ブロードバンドネットワークセンター
i-カードシステムソリューション事業部
TEL:03-5448-2540 FAX:03-5448-3907
E-mail:Takashi.Matsuo@jp.sony.com


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