Hi-OVISプロジェクト総合報告(要約)


 本報告書は、(財)ニュ-メディア開発協会(旧映像情報システム開発協会)によって、1978年7月から1986年3月まで、奈良県生駒市東生駒で運用が行われた映像システムHi-OVISの運用実験のデータ及びその結果を報告している。

 以下では「Hi-OVIS総合報告書 要約編」のうち、前半の3章を紹介する。
  第1章 Hi-OVIS実験の理念
  第2章 実験の経緯
  第3章 Hi-OVISシステム

第1章 Hi-OVIS実験の理念

 Hi-OVISの前身であるVISの計画は、1971年頃に始まっている。当時は、アメリカの有線都市構想が発表されており、わが国でも、これに沿って、広帯域同軸ケ-ブルを基本とする将来モデルが検討されVISの骨格が出来上がっていた。しかし、第1に、ツリ-型同軸分配網における双方向性機能の付加、加入者に多種多様な端末機器を必要とすることなど、開発コストが当初の計画を大幅に超えてしまったこと、第2にアメリカにおける大都市向けケ-ブルテレビの沈滞期、1973年のオイルショックと重なってしまったこともあり、VISは再検討を迫られることになった。
 その基本は、次の如きものであった。
1 研究開発中であっても、将来コストパフォ-マンスに革命的変化をもたらし得る新技術を導入する。
2 人間の習慣をドラスチックに変えることなく、出来得る限り、多彩な情報表示が可能であり、かつ、コストを低く抑えることができる端末の導入。
3 センタ設備は、可能な限りコンパクトなものとし、大型コンピュ-タに代わって、ミニコンピュ-タをベ-スとする。また、スタジオ設備、動画収容装置や静止画ファイルなどは、必要最小限とし、さらに、文字入力、文字発生装置には、コストパフォ-マンスの高い新技術、新製品の導入を図る。
4 コミュニケ-ションの原点にもどり、映像・音声・デ-タが双方向でやりとりできるシステムを開発する、という基本的な考えは捨てない。
5 地域メディアに徹し、その情報ソフトウェアの可能性につき、考え得る多方面からのアプロ-チを試み、新ジャンルの確立を目指す。
6 高度工業社会のひずみを、情報メディアによって、是正しようという試みに挑戦する。情報の氾濫にどう対処し、地域福祉、教育問題、あるいは崩壊するコミュニケ-ションの再構築などに寄与できるかを検証するための社会システムの可能性を追及する。
 以上の考え方に基づき、VISの再点検の結果、
1 情報伝送路は、光ファイバ-ケ-ブルを全面的に採用し、幹線路のみならず、加入者線に至るまですべて光ファイバ通信技術を導入する。
2 システムア-キテクチャとして、スタ-型を採用し、また、広帯域交換装置、すなわちビデオスイッチャを導入する。
3 加入者端末のディスプレ-は、通常の20インチTVブラウン管とし、これに、簡易キ-ボ-ドおよびカメラ、マイクを付加し、低コストかつ使いやすく、新たな加入者の訓練はほとんど不要であり、また、将来の習慣を大きく変える必要のない、なじみやすい端末とする。
4 開発の理念として、
(1)地域コミュニティの確立
(2)情報選択の主体性の確立
(3)生涯教育への寄与
(4)地域福祉社会への貢献
がかかげられた。
 Hi-OVISの目指した方向は、当時社会情報システムとして位置づけられており、光通信技術の導入やスタ-型ア-キテクチャの採用など、全く新しい技術分野への挑戦を試みていたもので、プロジェクトは世界的注目の中で進められていった。

第2章 実験の経緯

 Hi-OVISプロジェクトは、前述したように、当時から実社会における有用性の検証を目指していた。その意味でハ-ドとソフトが一体化したシステム実験であり、一般家庭を対象とする社会実験である。ここでは、そのプロジェクトの15年の軌跡を概観する。

実験タウン東生駒
 Hi-OVIS開発の歴史は、1972年に遡る。当時は戦後の高度成長期が終焉に近づき、物質的、量的な拡大の追及から、個々の人間が人間らしく生きられる福祉重点の社会実現という認識が高まっていた。そこで、通商産業省は、情報化社会の実現を通じて時代の要請にこたえるべく「映像情報システムの開発」の計画をあげた。
 実験システム構築の対象エリアは、1972年7月に公募が行われ、1973年4月に奈良県生駒市東生駒地区が選定された。東生駒は、大阪府に隣接し生駒山の東に位置する近郊住宅地で、大阪の中心から約30分、昭和40年代に開発が進んだ新興住宅地である。
 Hi-OVISのようなエレクトロニクスメディアで新たなコミュニティの形成が可能かを検証するためには、地縁的な相互関係を持たない人々が集まる、東生駒のような新規の住宅開発地での実験が望ましかったのである。東生駒地区は、県外からの流入によって、1980~1985年平均年率13.1%(同奈良県2.7%、生駒市7.1%)という人口の伸びを示しており、ホワイトカラ-を中心とした働き盛りの人口構成比が高い地域であった。

実験エリアとモニタの人々
 運用実験の対象エリアは、近鉄奈良線の東生駒駅をはさんで南北2カ所に分かれていた南側の住宅地は東生駒1丁目を中心とした、戸建て住宅を中心とする比較的ロットサイズの大きい住宅地(以下1丁目地区)である。駅の北側は、北ガ-デンハイツと呼ばれる集合住宅地(分譲マンション)を中心に数戸の戸建て住宅を含むエリア(以下北GH)である。南北のエリアは鉄道線路によって分断されており、また戸建て住宅と集合住宅という性格の違いからもロ-カルコミュニティがそれぞれのエリア内で閉じてしまう。Hi-OVISによってこの二つのエリアがどのようにむすびつけられたか、注目されるところである。
 実験に参加している一般家庭は、駅周辺の156世帯で、内約100世帯が1丁目地区に居住、約50世帯が北GHに居住している。
 Hi-OVISのモニタの平均的世帯主像は次のとおりである。
1 40代・50代中心
2 大学・大学院卒
3 管理的職業、専門技術職に従事
4 年収1,000万円以上
 以上の点から、モニタは、社会的、経済的に時代を先取りしている人たちであると考えることができる。

システム開発の経緯
 実験エリアの選定と前後して、通商産業省の指導の下、計画を進めるべく、1972年5月、映像情報システム開発協会が設立された。この協会は、1973年6月、(社)多摩ニュ-タウン生活情報システム(郵政省所管、1972年12月設立)と統合一体化され、名称も(財)生活映像情報システム開発協会と変更のうえで、引き続き計画の遂行にあたった。
 1972年度には、映像情報システム(VIS)の基本設計(グランドデザイン)を実施し、1973年度にはサブシステム、および機器について具体的な設計を行っている。そして、1974年度に入り、ト-タルシステム、センタ設備、伝送路設備などの実施設計、また機器、ソフトウェアの使用開発の段階にいたった。  この時期は、光伝送技術が揺籃期から実用化に向かって急速に動きつつあり、協会でも光ファイバ伝送方式を映像情報システムへ適用することが検討されていた。
 そして、前章(Hi-OVIS実験の理念)で述べたような種々の事情により、それまでの同軸ケ-ブルによるネットワ-クをベ-スとした映像情報システムの見直しが行われ、光ファイバ伝送技術を用いた生活情報システム、Hi-OVISの開発が行われることとなった。そして、1976年4月、世界で初めて伝送路に全面的に光ファイバ-ケ-ブルを採用することが決定され、修正設計書が1976年9月に作成された。
 さらに、本格的システムの開発に先立ち、東京銀座の当協会ショ-ル-ムで小規模なプロトタイプシステムによる接続実験が行われた。この結果、実験システムは、伝送特性として十分な品質が得られること、画質も従来の同軸ケ-ブルを用いたCATV規格より数段上回ることが判明した。なお、実験システムは、終了段階で約2週間一般公開され、国内の官公庁、企業、報道関係者はもとより、海外の企業や大使館関係者も見学に来られ、797名の入場者を迎えた。
 1977年に入り、東生駒での実験準備も本格化し、事務所の開設、説明会の開催、ハ-ドウェアのテスト、光ファイバケ-ブルの敷設工事、スタジオ建設等、着々と計画が進められていった。  また前述の一般公開を機に、Hi-OVISに対する世界中の関心もますます高まりつつあった。

運用実験の8年間
 1978年7月18日、Hi-OVISは8年間にわたる運用実験を開始した。この実験は、1983年3月までを第1期実験、3カ月のシステムメンテナンスの期間をはさんで、1983年7月から実験終了の1986年3月までを第2期実験として捉えることができる。
 第1期はさらに1980年3月までのフェ-ズ1、1980年4月から1983年3月までのフェ-ズ2に分かれる。第1期フェ-ズ1では、運用実験のための基盤の育成を基本方針に、モニタの視聴習慣の確立、双方向機能のソフト面からの多面的利用の可能性を追及し、住民参加の道を模索、新たなコミュニティ形成の基盤作りが行われた。
 第1期フェ-ズ2では、ニュ-メディアサ-ビスの事業化の可能性の追及に基本方針がおかれた。これは家庭を対象としたニュ-メディアで考えうる諸機能の利用技術の開発、利用者のニ-ズに基づいた情報サ-ビスの検討を行おうというものである。この期間には、技能教育情報番組、保険医療情報番組から地域情報番組までさまざまなソフトが実験された。特に技能教育分野では、有料化の試みとしてHi-OVIS話し方教室、子供英会話教室などが制作、実験された。また、帝塚山大学の教室とモニタ家庭を結ぶ公開講座も行われている。 さらに、リクエストビデオサ-ビスの応用実験として劇場用映画を用いたペイテレビ実験を開始した。
 第2期実験では、それまでの実験成果を踏まえて、目前に迫ったニュ-メディア時代における新たな情報サ-ビスのあり方を追及することに重点がおかれた。光ファイバの導入による静止画サ-ビスの拡充、本格的なゲ-トウェイサ-ビスであるNS-24やホ-ムセキュリティサ-ビス、あるいはホ-ムショッピングサ-ビスなど、数多くの先行的実験が多くの企業の協力を得て実施された。
 自主放送サ-ビスにおけるソフト開発においては、広く他のメディアとの連携による実験も実施全国各地のCATV局とのネットワ-ク実験は、その一例であるといえよう。
 1984年10月、時代の先駆けとしてHi-OVISが着々と実験成果を挙げるなか、天皇陛下をお迎えできたことは、この実験のハイライトとして記憶されるものである。  Hi-OVISプロジェクトは、1986年3月31日24時をもって、すべての実験を終了した。継続を望む声の大きい中であえて生きたシステムを止めたのは、実験の成果を全体として見通し、高度情報化社会の入り口にある現在の要請に応えるとともに、新たな実験に進むために区切りをつけることが必要と考えたからにほかならない。

第3章 Hi-OVISシステム

 Hi-OVISは、現在のニュ-メディアの先行実験であると同時に、個別サ-ビスの統合化により可能となる家庭向け情報サ-ビスの一つのモデルであったといえる。以下、そのシステム構成の概要を紹介する。

システムの構成
 Hi-OVISはセンタとすべての端末との間で映像・音声の双方向通信を可能にした世界で初めての「完全双方向映像情報システム」で、その特徴は次の通りである。
1 光ファイバ通信方式を全面的かつ大規模に採用したシステムである。
2 サブセンタ方式を採用した個別交換分配網(Switched Star Network)により多様なサ-ビスの実施とシステムの拡張に容易に対応できる。
3 家庭内にもテレビ、カメラ、マイク、キ-ボ-ドを設置し、映像・音声の双方向機能をもつ。
 基本構成はセンタ、サブセンタからなる二階層構造であるが、東生駒の実験システムでは、モニタ家庭がセンタの近くに分布しているため、サブセンタはセンタ局舎内に収容した。  センタ設備は、再送信放送装置、スタジオ放送装置、ビデオリクエスト装置、文字画・静止画装置、通信制御処理装置などで構成される。そして、これらの装置により、
・空中派テレビ放送や衛星放送の同時再送信
・Hi-OVIS自主放送番組の制作や送出
・多数のビデオカセットテ-プのファイリングと端末からのリクエストに応じた送出
・文字画・静止画のファイリングと端末からのリクエストに応じた送出
・センタ設備、サブセンタ設備、回線などシステムの監視・制御、番組の予約、統計デ-タの収集、などを行う。
 サブセンタには、上り、下りビデオスイッチとコントロ-ラで構成される双方向プロセッサが設置されている。双方向プロセッサは端末のキ-ボ-ドから送られてくるリクエスト情報を受信し、ビデオスイッチを制御するとともに、そのリクエスト信号をセンタに転送する機能をもつ。
 伝送路は光ファイバケ-ブル、光送信機(E/O)、光受信機(O/E)および分岐ボックスなどで構成され、サブセンタからの映像・音声・デ-タ信号をサブセンタに送る。
 端末はテレビ受像機、キ-ボ-ド、テレビカメラ、マイクおよびタ-ミナルアダプタで構成され、センタからの映像情報を受信するとともに、モニタ家庭からの映像情報やリクエスト情報を送り出す。また、システムには地域内へ移動し、地域に密着した情報を収集しきめ細かい番組を制作する目的で開発された移動センタや、移動センタからの情報をセンタに送る移動センタ系光伝送路も含まれる。
 モニタが希望のサ-ビスを受けたい場合、まず、家庭端末のキ-ボ-ドを押すと所要の番組を選択するデ-タ信号がサブセンタに送られる。サブセンタではこの信号によりセンタのコンピュ-タと交信しつつ下りビデオスイッチの接続を行いセンタ~端末間の回線を設定する。センタでは上がってきたデ-タを解読し、情報ファイル装置や情報送出装置を制御し、所要の番組を端末に送り出す。
 また、双方向番組に参加し、モニタ家庭から映像情報を送り出すときには、端末のカメラ・マイクからの映像・音声信号が光伝送路によりサブセンタに送られ、上りビデオスイッチを経由してセンタのスタジオに送られる移動センタからの映像・音声信号も同時に移動センタ系光伝送路によりサブセンタの切り替え装置に送られ、ここを経由してスタジオに送られる。

Hi-OVISのサービス体系
 Hi-OVISサービスは大別すると、放送系サ-ビスとリクエスト系サ-ビスに分けることができる。
 放送系サ-ビスとは、複数のモニタが同時にチャンネルを共有してサ-ビスを利用することが可能なもので、空中波TVの同時再送信サ-ビスとHCT-20と称した自主放送チャンネルサ-ビス、および定時ビデオサ-ビスがこれにあたる。 放送系サ-ビスではチャンネル数はサ-ビス内容のバラエティを示すものであるが、リクエスト系サ-ビスではチャンネル数は同時に利用可能なモニタの数を示すものである。
 リクエスト系サ-ビスは、リクエストビデオと呼んだ(ビデオ)サ-ビス、静止画サ-ビス、および文字画サ-ビスの3種類である。いずれのサ-ビスも、利用者が自ら必要な情報を必要なときに、センタに蓄積された情報の中から選択することが可能である。情報の主体的選択という理念を具体的に実現し、提示するものであり、したがって、リクエスト系サ-ビスは24時間のサ-ビスを実施し、実際の利用も24時間にわたるものとなった。
 以上の基本サ-ビスに加えて、運用実験の後半にNS-24、ホ-ムショッピング、ホ-ムセキュリティサ-ビスなど、いくつかのサ-ビスが実験され、Hi-OVISにおけるサ-ビスの幅は一層総合的なものとなった。
   Hi-OVISのサ-ビスチャンネルには以上の他に、番組案内などの専用チャンネルが設けられていた。このうち固定情報の4チャンネルは、モニタのキ-ボ-ド操作に対するシステム側の対応を知らせるもので、KR(Knowledge of Results)情報の提供に向けられたものである。

端末設備とその操作方法
 端末設備は、テレビ受像機、キ-ボ-ド、カメラ、マイク、端末制御装置などで構成される。端末設備は直接モニタが手を触れて操作し、システムとの間で情報を送受する最も重要なマン・マシン・インタ-フェ-スであるが、ここではモニタが端末設備をしようし、Hi-OVISのサ-ビスを受ける場合の操作手順やカメラ、マイクを使い双方向番組へ参加する方法について述べる。
1 キ-ボ-ド
 モニタがHi-OVISのサ-ビスを受けるとき、恒にキ-ボ-ドを操作しなければならない。キ-ボ-ド操作性をよくするため、サ-ビスの選択をファンクションキ-のワンタッチか、せいぜいテン・キ-の3桁とファンクションキ-2個(REQ、SEND)の組み合わせで行えるようにするなど多くの配慮が払われた。キ-は23個のファンクションキ-と10個の置換キ-を使用しHi-OVISのサ-ビスを受ける場合、表3のように操作する。
2 カメラ・マイク
 Hi-OVISではモニタ家庭にカメラ、マイクを設置し、家庭に居ながらにしてスタジオ番組に参加できるようにした。スタジオからの呼びかけに応じ双方向番組に参加するには次のように行われる。
a モニタ家庭のカメラの電源スイッチを入れる。(カメラのスイッチはTV受像機とは別に設け、モニタの意思によってのみ、そのオン・オフ操作ができるようになっている。)
b キ-ボ-ドのQ/Aキ-を押し、双方向への参加意思をスタジオに伝える。
c スタジオのディスプレ-にはQ/Aキ-を押したモニタ番号が表示される。
d スタジオではディスプレ-上から1モニタを選択し、プレビュ-モニタで確認する。
e スタジオの司会者からモニタに呼びかけたうえ、ラインを接続し、モニタが双方向番組に参加する。
 以上、Hi-OVISの理念、経緯とそのシステムの概要をレポ-トした。

(Data Management 1988年2月号から転載)

報告書の余部があります。「Hi-OVIS総合報告書 要約編」128ページは5,000円、要約編の英文版「A summary version of the Comprehensive Report on Hi-OVIS PROJECT」119ページは5,000円、「Hi-OVIS総合報告書」695ページは50,000円です。


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