■国際標準規格
参照すべき国際標準規格は以下に示す通りである。
表5.1 参照すべき国際標準規格構成
国際標準規格 | 規格概要 |
ISO/IEC 10536-1 | 物理特性 |
ISO/IEC 10536-2 | カッブリングフィールド |
ISO/IEC 10536-3 | 電子信号とモード切り替え |
ISO/IEC 10536-4 | オペレーション手順 |
ISO/IEC 7816-4 | インターインダストリコマンドとセキュリティ機構 |
■物理的構造
密着型ICカードシステムにおける物理的構造を図5.1 の通り設定する。
備 考 | |
| コプロ | : チップとしては開発しているが、アプリケーション上は規定しない |
| 割込機能 | : オプション |
図5.1 物理的構造
汎用リード・ライト・ユニットと密着型ICカード間において、密着型ICカードに電力を伝送する機能について技術項目の概要を示す。
表5.2 中分類「非接触電力伝送機能」を構成する小分類
中分類 | 小分類 | 小分類概要 |
非接触電力伝送機能 | 電力キャリア生成機能 | 密着型ICカードに電力を送出するための交番磁界を発生する機能である。 |
電力キャリア送出機能 | 交番磁界をRFインターフェースチップに接続されたアンテナ回路との電磁結合によって電力を伝送するための機能である。 |
電力キャリアON/OFF機能 | 電力キャリア生成機能で発生する交番磁界信号の出力を制御する機能である。 |
電圧安定化機能 | 送信電力信号の電圧を一定に保つために出力電圧を制御する機能である。 |
送信電力制御機能 | 電力キャリア送出機能で出力される電力信号をISO/IEC 10536-3に規定されている電力レベルに安定化して送出する機能である。 |
5.1.1 電力キャリア生成機能
密着型ICカードに電力を送出するための交流磁場を発生する機能を実現する。
電力キャリア送出機能で定めるカップリングエリアに集中した交流磁場を励起させ、密着型ICカードに電力を供給する電力キャリアを生成する。
(1) 基本仕様
発生する交流磁場の周波数は少なくとも初期応答の間は4.9152MHzとし、周波数偏差は±0.1%以内とする。交流磁場の波形は正弦波とし、高調波歪は総計10%未満とする。
それぞれの交流磁場は密着型ICカードに少なくとも150mWの電力を供給する能力があるものとする。
電力の測定方法はISO/IEC 10536-3 Annex A「電力伝送の試験方法」のA.3.1「単一コイル電力伝送」に基ずくものとする。
(2) 拡張仕様
なし
(3) 参考
初期応答以降も、基本仕様に準ずる。
5.1.2 電力キャリア送出機能
電力キャリア生成回路によって発生した交流磁場を密着型ICカード内のRFインタフェースチップに接続されたアンテナ回路と電磁結合によって電力を伝送するための機能を実現する。また、密着型ICカードと汎用リード・ライト・ユニット間の信号伝送のためのアンテナ機能も併せて実現する。
(1) 基本仕様
電力及び信号の伝送は電磁結合方式とし、結合領域は図5.2 に示す寸法とする。
図5.2 結合領域の寸法
結合領域の数と位置はISO/IEC 10536-2規定している図5.3 の、H1及びH3の2領域を使用する。
図5.3 結合領域の数と位置
カップリングエリアH1、H3に発生する交流磁場F1、F3は両方存在し、少なくとも初期応答の間の位相差は90度とし、位相偏差は正規の位置から±10%以内とする。
(2) 拡張仕様
汎用リード・ライト・ユニットと密着型ICカードの結合部中心の位置ずれは±0.6mm以下、結合部の隙間は0.5mm〜1mmに保持されること。
カードの保持方向は、カードの切り欠きによって決定される方向にて保持されること。
汎用リード・ライト・ユニットは、ATR信号を受信するか、電源供給ラインの負荷増加を検出するか、機械的手段か、その他の手段にて密着型ICカードの存在を検出可能であること。また、検出状態を汎用リード・ライト・ユニットのインタフェース回路部へ出力可能であること。
(3) 参考
初期応答以降も、基本仕様に準ずる。
汎用リード・ライト・ユニットと通信時、密着型ICカードが簡単に移動しないよう保持されること。
汎用リード・ライト・ユニットは機械的手段にて、密着型ICカードの存在を検出可能し、検出結果を制御信号にてインタフェース回路部へ出力する。
5.1.3 電力キャリアON/OFF機能
電力キャリア生成機能で発生する交流磁場信号の出力を制御する機能であり、密着型ICカード内のRFインタフェース回路及びマイコン回路に対するリセット機能を実施させるための、リセット復帰時間を確保したり、不要な電力消費、磁界発生を避ける機能を実現する。
(1) 基本仕様
密着型ICカードのリセットを行うため汎用リード・ライト・ユニットは、図5.5 で規定されるタイミングで電源フィールドをOFF/ONすることが可能であること。
(2) 拡張仕様
キャリアのON/OFF制御は、汎用リード・ライト・ユニット側のインタフェース回路部からの信号により制御可能であること。
(3) 参考
リセット復帰時間の確保は、インタフェース回路部からの信号により制御されるものとする。
リセット復帰時間を規定するため、キャリアOFF時の交流磁場の立ち下がり時間は2.0mS以下とする。
5.1.4 電圧安定化機能
送信電力信号の電圧を一定に保つために出力電圧を制御する機能を実現する。
ISO/IEC 10536-3に規定されているテストコイルによる測定において、誘起電圧を規定された電圧に制限する。
(1) 基本仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex A「電力伝送の試験方法」のA.3.2「ラージセンスコイルの磁束」と、A.3.3「スモールセンスコイルの磁束」を満足するものとする。
(2) 拡張仕様
なし
(3) 参考
なし
5.1.5 送信電力制御機能
電力キャリア送出機能で出力される電力信号は、ISO/IEC 10536-3に規定されている電力レベルを安定して送出する必要がある。
(1) 基本仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex A「電力伝送の試験方法」のA.3.1「単一コイル電力伝送」において、RL=330Ω±5%で電圧VLはDC7.0VからDC8.1Vの間となること。
RL=1MΩ±5%のとき、電圧VLはDC45V未満となること。
(2) 拡張仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex A「電力伝送の試験方法」のA.3.1「単一コイル電力伝送」に対し、別途規定される、磁界テスト回路、セットアップ条件にて試験を行い、密着型ICカードが取り出すことの電力が別途仕様を満足すること。
別途規定される磁界テスト回路、セットアップ条件、仕様については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
なし
汎用リード・ライト・ユニットと密着型ICカード間において、キャリア送出機能を経由して情報信号を処理・伝送する機能について技術開発項目の概要を示す。
表5.3 中分類「非接触信号伝送機能」を構成する小分類
中分類 | 小分類 | 小分類概要 |
非接触信号伝送機能 | 受信機能 | キャリア送出機能のアンテナコイルの両端から得られるアナログ信号を受信する機能である。 |
アナログ・ディジタル変換機能 | ディジタル回路で構成される非接触信号伝送機能を実現回路に信号を供給するための、アナログからディジタルへ信号を変換する機能である。 |
受信データ復調機能 | 非接触電力伝送機能で実現している電力伝送の駆動磁界変化を検出して、信号を再生する機能である。 |
変調データ出力機能 | 受信データ復調機能で生成されたディジタル信号を汎用リード・ライト・ユニット側のインタフェース回路部に出力する機能である。 |
変調データ入力機能 | 汎用リード・ライト・ユニットのインタフェース回路部から送出されるディジタル信号を入力し、送信データ変調機能に出力する機能である。 |
送信データ変調機能 | 汎用リード・ライト・ユニットから密着型ICカードへの位相変調により信号伝送する機能である。 |
5.2.1 受信機能
電力キャリア送出機能のアンテナコイルの両端から得られるアナログ信号を受信する機能を実現する。
汎用リード・ライト・ユニットは、密着型ICカードが信号変調機能で発生するサブキャリア信号を電力伝送の交流磁場F1、F3の変化として受信することで、データ伝送を行う。
(1) 基本仕様
汎用リード・ライト・ユニットは、カップリングエリアH1、H3の1つまたは複数のエリアを通じて、密着型ICカードからのデータを受信する。データ伝送は、交流磁場F1、F3が発生するサブキャリア信号を位相変調することにより行われる。密着型ICカードで発生するサブキャリアは、連続的に初期負荷の少なくとも10%、しかし1mW以上の負荷を切り替えることによって307.2kHz(=4.9152MHz/16)の周波数で生成され、変調の間サブキャリアの位相が180度切り替わることにより、2つの相が定義される。
(2) 拡張仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex C「電磁誘導方式データ伝送の試験方法」のC.2.2.2「CCDの受信データの試験」において、別途規定される変調回路、セットアップ条件にて試験を行い、受信信号が別途仕様を満足すること。
別途規定される変調回路、セットアップ条件、仕様については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
なし
5.2.2 アナログ・ディジタル変換機能
受信信号から入力される交流信号はアナログ信号であり、デジタル回路で構成される非接触信号伝送機能を実現する回路に信号を供給するための、アナログからディジタルへの信号変換機能を実現する。
(1) 基本仕様
国際標準規格では規定なし
(2) 拡張仕様
アンテナコイルから入力される密着型ICカードからの信号を、アナログ信号からディジタル信号に変換する。ディジタル信号の信号レベルは、汎用リード・ライト・ユニットで処理可能な信号レベルとする。
(3) 参考
なし
5.2.3 受信データ復調機能
密着型ICカードから汎用リード・ライト・ユニットへの信号伝送は、非接触電力伝送機能で実現している電力伝送の駆動磁界に対して、密着型ICカード側で負荷を変化させることにより発生する変動磁界で振幅変調することにより行う。汎用リード・ライト・ユニットではこの磁界変化を検出して、信号を再生する機能を実現する。
入力信号は、密着型ICカードの送信データ変調機能によりサブキャリアで位相変調されているため信号の復調を行う。
(1) 基本仕様
復調時の論理レベルは、位相変調された入力信号に対し、表5.5 のT3の状態を論理レベル'1'とし、T3の経過後は磁界が位相を変化させることで逆の論理レベルを定義する。
(2) 拡張仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex C「電磁誘導方式データ伝送の試験方法」のC.2.2.2「CCDの受信データの試験」において、別途規定される変調回路、セットアップ条件にて試験を行い、受信データが復調されること。
別途規定される変調回路、セットアップ条件については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
復調信号の符号化方式はNRZ(Non-Return to Zero)方式とする。
5.2.4 復調データ出力機能
受信データ復調機能で生成されたディジタル信号を汎用リード・ライト・ユニット側のインタフェース回路部に出力する機能を実現する。
(1) 基本仕様
国際標準規格では規定なし
(2) 拡張仕様
インタフェース回路部の出力信号仕様は、別途規定される。
別途規定される出力信号仕様については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
出力信号レベルは、RS-232Cとし通信速度は、9600bps以上に対応可能とする。
通信制御はCTS/RTS制御を行う。
5.2.5 変調データ入力機能
汎用リード・ライト・ユニットのインタフェース回路部から送信されるディジタル信号を入力し、送信データ変調機能に出力する機能を実現する。
(1) 基本仕様
国際標準規格では規定なし
(2) 拡張仕様
インタフェース回路部の入力信号仕様は、別途規定される。
別途規定される入力信号仕様については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
入力信号レベルは、RS-232Cとし通信速度は、9600bps以上に対応可能とする。
通信制御はCTS/RTS制御を行う。
5.2.6 送信データ変調機能
汎用リード・ライト・ユニットから密着型ICカードへの信号伝送は位相変調を用いて実現する。
(1) 基本仕様
汎用リード・ライト・ユニットは交流磁場F1,F3を位相変調することで送信データの変調を行う。変調するときは、各磁場は同時に90°位相を変化する。この変化がAとA*の2相を効果的に定義できる。密着型ICカードの挿入方向は1方向に規定されこの時の位相関係を図5.4 に説明する。
図5.4 位相遷移
互いの位相は論理レベルの変化に対応して、表5.4 に示す状態が交互に入れ替わる。
表5.4 位相遷移
状態 A | 状態 A’ |
φF1 φF3=φF1+90゜ | φF1-90゜ φF3=φF1+180゜ |
位相遷移時間と既定のデータ移送時間との差はデータ移送時間の10%以下とし、汎用リード・ライト・ユニットから密着型ICカードへのデータ伝送には、NRZコーディングを用いる。
論理レベル1と0の識別は、図5.5 のタイミング規定のT2とT3の間の相の状態を論理0の状態とする。T3の経過後は磁場が位相を変化させることで逆の論理レベルを定義する。
ISO/IEC 10536-3 Annex C「電磁誘導方式データ伝送の試験方法」のC.2.2.1「CCDの送信データの試験」を満足すること。ただし、テストカードの方向はカードで定められる1方向について行う。
(2) 拡張仕様
ISO/IEC 10536-3 Annex C「電磁誘導方式データ伝送の試験方法」のC.2.2.1「CCDの送信データの試験」において、別途規定される復調回路、セットアップ条件にて試験を行い、送信データが復調されること。
別途規定される復調回路、セットアップ条件については、今後の開発によって決定される項目である。
(3) 参考
図5.5 タイミングの規定
表5.5 タイミング規定値
Time Interval | Name | Communication | Value |
From CICC | To CICC |
---|
T0 | reset recovery time interval | Not allowed | Not allowed | ≧8ms |
T1 | power rise time interval | Not defined | Not defined | ≦0.2ms |
T2 | preparation time interval | Not defined | Logic Level 1 | 8ms |
T3 | stable Logic time interval | Logic Level 1 | Logic Level 1 | 2ms |
T4 | response time interval for ATR | ATR | Not defined | ≦30ms |
禁無断転載
(C) NMDA. All rights reserved.