地域情報化報告


 当協会では地域情報化推進事業の一環として、「地域情報化の再活性化(*)及び先進的情報システム導入のための調査」並びに「地域情報システムの開発」を行っています。
    (*)ニューメディア・コミュニティ構想指定地域に限る。
 平成11年度事業として、下記のテーマ(表参照)による事業を行いました。今回は、それらの事業の中から先進的情報システム導入のための調査2地域及び開発1地域の概要を報告します。



「岩手県田野畑村文化・産業情報のネットワークと拠点の構築」 推進本部企画部担当部長水頭雅弘


1.田野畑村の概要
 岩手県下閉伊郡田野畑村は、人口約5000人、美しい自然と魅力ある一次産品を特徴とする三陸海岸沿岸の村です。林業と酪農を中心とする山間部、農業を中心とする中央部の大地、沿岸漁業を中心とする東部漁港など、地形は変化に富んでいます。村内には、三陸鉄道北リアス線が通っており、鉄道による主要都市までの所要時間は、宮古市まで約50分、盛岡市まで約2時間50分となっています。
 教育立村と交流を村の基本方針として早くから村づくりに取り組んできましたが、第一次産業の衰退、人口の高齢化、若年人口の都会への流出等、様々な課題に直面しています。
 田野畑村では、村の「文化化」と「情報化」への積極的な対応策を打ち出し、若年層にとっても魅力ある村を創出するために、「田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)」と名付けた先進的情報システムを導入し、情報化の拠点と情報ネットワークの構築をめざしています。

2.調査の目的と概要
 村では、平成12年度の総合開発計画改定に向けて、情報化施策についても検討を重ねてきました。また、岩手県でも「いわて情報ハイウェイ整備事業」」や県立の「図書情報総合センター整備」の計画が進み、情報化の取り組みが活発になってきたところです。このように、情報化の気運が高まる中、「田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)」の整備実現に向けて、村民のニーズを的確に把握し、そのあるべき姿を示す必要が高まってきました。
 そこで、村の社会経済特性、情報ニーズを調査し、地域の情報活動の現状をふまえ、田野畑村における文化・産業情報のネットワークと拠点のイメージを明らかにするため、本調査を実施しました。
 本調査では、資料分析ならびに16歳以上の村民500人を対象としたアンケート調査を実施し(有効回収率57.2%)、田野畑村の情報資源やポテンシャル、村民ニーズを把握しました。また、拠点となる(仮称)メディアセンターのイメージを具体化するため、上田地域簡単インターネット街頭端末システム「メディアステーションSARUTOBIクン」及び上田市マルチメディア情報センター「メディアランドUEDA」(長野県上田市)、大泉村立八ヶ岳大泉図書館(山梨県大泉村)、竜王町立図書館(山梨県竜王町)の3地域の先進事例調査を行い、さらにシステム構築の参考となる最新の関連技術動向について、資料分析を行いました。
 なお、村ではまず図書情報システムを手がかりに情報ネットワークの基盤整備を行い、それを発展させて長期的な情報化に取り組むという段階的な整備を計画しています。こうしたことから、本年度は文化情報(図書館機能)に重点を置いた調査を行いました。

3.地域の課題と情報化ニーズ
 主要都市との時間距離や、厳しい冬の気候などの「地理的条件の克服」、田野畑村の魅力づくりとPRなどを進める「若者の定住促進」と「産業の活性化」、県の情報化施策を視野に入れた「県・広域圏との連携」が地域の現状と上位・関連計画からみた地域の課題として挙げられます。
 図書施設や文化施設は村内に点在しており、図書室、移動図書館車、駅や郵便局の図書コーナーなどの一般向け施設と、小・中・高等学校の図書室を合わせると約3万3千冊の蔵書があります。また、田野畑村の特色として、米国アーラム大学や早稲田大学などの大学や、村出身者・交流関係者との人的ネットワークがあり、村との関わりが深い作家の吉村昭氏、津村節子氏の全著書があります。
 情報化に関連する活動では、高校生を中心とした情報関連活動が活発で、村内の全小・中・高等学校にパソコンが整備され、児童・生徒と村民に開放されています。このような村の文化面・情報面のポテンシャルを生かした情報ネットワークと拠点の構築が求められています。
 アンケート調査及び先進事例システムの事例調査の結果から、地域情報化に関するニーズを総括すると、都会や消費地との時間距離の短縮に情報ネットワークが必要であり、村民だれもが使いやすい住民参加型のコミュニティネットワークや、図書情報から将来的には経済・産業情報までひろがる、多様な広域での情報ネットワークが望まれています。


4.情報ネットワークの整備方針
 長期的な情報化への取り組みの中で、先ず、田野畑村の情報化や生活文化環境の向上に資する図書情報システムとして、「銀河図書情報システム」を優先的に整備することにしました。
 さらにシステムの整備を図る中で、地域情報化のニーズを満たす情報ネットワークとして、田野畑村の地域情報化の姿と、周辺市町村はもとより県域、国内外との広域ネットワークにおける文化、経済、産業情報の交流する姿を描き、「田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)」を整備することにしました。
 住民のニーズをもとに、地域情報化における情報ネットワークの整備の方向性ならびに銀河図書情報システムの整備方針は、図表2のように考えられます。

    図表2 情報ネットワークの整備の方向性ならびに銀河図書情報システムの整備方針


5.田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)の概要
 「田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)」の構想では、地域情報化の推進センターとして、「メディアセンター(仮称)」を整備することを想定しています。(図表3)このメディアセンターを中心に、公的施設等をネットワークで有機的につなぎ、情報化の拠点として活用するとともに、村内の情報資産の活用や村内外との情報交流など多面的な活用環境を提供することをめざします。図書館業務や行政サービス分野での交流、地域住民や事業者などによる地域情報の相互流通など、より広域の生活圏での情報ネットワークの整備もその構想の中に描いています。

     図表3 田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)の概要

6.銀河図書情報システムの概要
 「銀河図書情報システム」は、以下のコンセプトを目標に概要設計を行いました。
(1)コンセプト
 誰にとっても身近で利用しやすいシステム
 村民のニーズに応える魅力あるシステム、サービス
 村の情報化の現状や将来における方向性を加味した実現可能なシステム
 図書システムの基本機能を有しながら、地域のニーズに応えられる柔軟性、拡張性のあるシステム
 先進の情報ネットワークを活かした拡張性のあるシステム
 個人情報保護や、有害情報の排除を考慮し、システム運用の面においても安全に利用できるシステム
(2)システム概要
 「銀河図書情報システム」は、「図書館業務システム」、「情報図書館システム」、「コミュニティ情報サービスシステム」という3つのサブシステムから構成されます。

●「図書館業務システム」は、図書館業務の電子化、ネットワーク化を実現し、田野畑村に分散している村民図書室、駅の図書コーナー、郵便局の図書コーナー、小中学校の図書室などの図書資産の有効活用、高度利用を図るものです。
●「情報図書館システム」は、図書館業務システムと連携して、図書情報の電子化による付加サービスの提供、あるいはデジタル化された情報の収集と提供を行い、図書を情報としてとらえる新しいタイプの図書館をめざすものです。
●「コミュニティ情報サービスシステム」は、情報図書館システムを通じた情報提供、情報サービスとともに、田野畑村の行政と住民をつなぐネットワーク、村民同士、地域の団体、グループ、企業・事業所などの多様なコミュニティメンバーが相互に情報を交換・交流する場を確保し、ホームページ、掲示板、電子メールなど利用したコミュニティ活動の支援システムを整備するものです。
 銀河図書情報システムでは、さらに、インターネットを通じた外部との情報交流、情報発信の活性化を図ります。
 今後、中央公民館(仮称)を拠点に「銀河図書情報システム」を構築、運用する場合の情報サービスイメージは、図表4のように考えられます。

      図表4 「銀河図書情報システム」を運用する場合の情報サービスイメージ

(3)銀河図書情報システムのシステム構成
 現時点で考えられるシステム構成として、メディアセンターにおける主要アプリケーションシステムの構成と連携イメージは、図表5のようになります。現時点では、マルチベンダー方式によるシステム構築が望ましく、業界標準、国際標準準拠による低コスト化や将来の陳腐化のリスクの軽減、出版の電子化・マルチメディア化への対応や図書館運営のネットワーキング化への対応がシステム構築の留意点として考えられます。


           図表5 銀河図書情報システム構成の例

(4)銀河図書情報システム整備の進め方
 銀河図書情報システムの整備にあたっては、段階的に整備することが望ましく、現状では個別に立地、運用されている村民図書室、移動図書館車、小・中学校の図書室、駅の図書コーナーを図書情報ネットワークで統合することをめざします。そのため、まず、実証実験フェイズとして「実験サーバーサイト」を設置するなどして、想定される必要なサービス機能や運用条件の検証を行います。次に、運用フェイズでは、図書館機能を持つ施設整備と併せて銀河図書情報システムの本格運用システムとしての構築、整備を行うことが考えられます。

 今後は、さらに「田野畑・銀河情報ネットワーク(仮称)」の整備に向けて、実証実験システムの構築から実運用体制へ向けての条件整備、地域情報化の推進とシステムの効果的運用、中央公民館(仮称)やメディアセンターとの施設連携とシステムの継続的運用が課題となります。

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