ホスピタリティ演出石垣観光情報システム 推進本部振興部長鈴木邦彦

1.はじめに
 21世紀の日本の楽園である石垣市は、知らない人がいないほど有名な亜熱帯性気候のなかにある日本最南端の自然文化都市である。ところで、観光客が最も多い季節・月をご存じだろうか。普通は若者の夏休みの7月、8月を思い浮かべるが、実は、季節の上では春だがいまだに寒い3月である。それは、主に東北や北海道から来られる比較的高齢な観光客が保養で訪れるためである。冬場に高齢な観光客を集める石垣市が検討しているプロジェクトが、以下に示す「ホスピタリティ演出石垣観光情報システム」である。

2.「ホスピタリティ演出石垣観光情報システム」のねらい
<石垣市における観光情報システムの位置づけ>
 高度情報化の推進は、観光等の産業振興、国際交流の創出、市民福祉の向上を目指す「世とぴあ・いしがき」の実現に重要と市総合計画で位置づけられている。情報システムを活用して国際交流を図り、観光産業の振興を実現することは、石垣市地域情報化の重要な方針である。

<ホスピタリティ演出観光サービスの必要性>
 石垣市(人口44千人)は、豊かな自然と航空機の大都市直行便の増大により観光客が増大し、年間60万人(1999年、住民の13倍)を突破した。この対応策として、従来は観光施設などのハード面を充実することが施策の中心であった。
 しかしながら、昨年大型ホテル(客室数1000以上)が開設され、また世界有数のバカンス企業である地中海クラブの進出等で施設面の充実は達成されつつある。
 今後は世界中から集まる観光客に対し、地域の人々が暖かくおもてなしをするホスピタリティを高めるなど観光ソフトサービスが一層重要になった。
 本事業の目的は、地域住民と観光客がふれあうホスピタリティ観光サービスを支援する情報化を進めることでリピータ観光客を拡大し、地域観光産業や情報産業等の活性化を図ることにある。

<ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの実現イメージ>
 ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの実現イメージは、以下のとおりである。

石垣ホスピタリティ高齢者観光ガイドシステム 冬場に多い高齢者の観光客等に対し、地元の元気な高齢者が暖かみがある観光ガイドサービスを実施する。このためのサービス支援システム(大手旅行代理店や観光客からの予約管理システム、地元観光協会等が修学旅行需要を獲得するための観光営業・プレゼンテーションシステムなど)を整備する。
ホスピタリティ観光サービスの情報提供サービス 地域が企画する暖かみがある観光企画(上記高齢者観光ガイドの他、環境問題を考慮した新たな観光企画(エコーツーリズム)、地域の自然と環境学習を兼ねる環境学習型修学旅行等)をインターネットや地域情報センターを活用してPRする。
マルチメディアコンテンツ制作支援システム 地域の観光情報発信のためには、地域を核としたコンテンツ制作、情報リテラシーの向上を図ることが重要になる。石垣市の豊かな自然を表現するマルチメディア制作を地域の情報産業や住民が実施できる仕組みを整備する。

3.検討の経緯
(1)ホスピタリティ演出石垣観光情報システム検討の経緯
 石垣市では、高度情報化の推進の重要性を、市総合計画で位置づけている。この推進のために、石垣市は平成8年度から「石垣市高度情報化推進連絡会議」を設置し、庁内各部署の情報交換や連携を図り地域情報化施策の推進を進めている。平成8年からは「インターネット」を導入し、行政情報の発信、世界的なイベントであるトライアスロン・ワールドカップ石垣島大会などの地域情報の発信と交流を開始し、利用が拡大されている。
 情報リテラシーを高める人材の育成については、県と連動して石垣市立図書館や市民会館等に「生涯学習情報提供システム」を導入し、生涯学習に対する相談や情報収集、及び実際の情報化学習等の生涯学習に活かされている。
 これらの高度情報化推進の中で、平成10年度からホスピタリティを高める観光情報サービスの重要性について検討を行った。特に地域の元気な高齢者を活かした暖かみのある観光サービスの実現、石垣の自然の良さと自然環境を守ることを伝える観光サービスの重要性、地域にあった情報リテラシーの向上などが重要な施策と位置づけられた。これを実現するために、「平成11年度先進的情報システム導入のための調査」事業を実施することとなった。

(2)平成11年度以降の観光情報システム関連取組の経緯と進捗予定
 本事業の推進とともに、別の施策で以下の取組を実施することが決定されている。これらの施策推進にあたっては、「ホスピタリティ演出石垣観光情報システム」の理念に基づいて事業推進を図るとともに、相互に連携をとって高度情報化を推進する。

八重山マルチメディアセンターの設置
 平成12年度に沖縄県が推進しているマルチメディアセンター(CG制作研修等の人材育成・情報リテラシーの向上)を石垣市に設置する(平成12年5月開講予定)。
 本施設により八重山地域の観光コンテンツを地域が核となって制作できる仕組みを整備し、「ホスピタリティ演出石垣観光情報システム」のコンテンツ供給を実現する計画である。

石垣市エコ・観光情報センタ(仮称)の整備
 沖縄県米軍基地所在市町村活性化事業において、平成13年度に石垣市に観光・環境保護を目的とした「石垣市エコ・観光情報センタ(仮称)」を整備することが決定した。
 本センタを「ホスピタリティ演出石垣観光情報システム」の地域情報発信拠点と位置づけ、地域に訪れた観光客を対象とした各種情報提供サービスを実施する計画である。


4.調査事業の結論
 本調査事業で明らかになった事項は、以下のとおりである。

(1)ホスピタリティ演出石垣観光情報システムに対するニーズ調査
・石垣市の観光客(平成10年度で51万8千人)は、夏期のリピータ率は42%と高いが冬期は27%と相対に低いことがわかった。このため、冬場に多い高齢者の観光客に対し暖かみがある観光サービスを行い観光満足度を高める必要がある。

・石垣地域の観光・商工関連事業者は、石垣の観光情報の提供は、従来は宿泊施設に頼っているのが現状で地域として観光情報提供サービスを実施すべき、従来は団体客を中心とした観光サービスだが、今後増えるフリー客・少人数観光客や修学旅行生に対する暖かみがある観光サービスが重要、との意見が多い。
・他地域の先進事例として、京都府の「SKY観光サービス(高齢者観光ガイドサービス)」をヒアリング調査し、旅行代理店との連携などの事業ポイントを把握した。また、石垣市が事業を始める場合、各種
アドバイスを頂けることになった。

(2)ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの事業化可能性調査
・地域の高齢者団体である「退職教職員の会」、「石垣老人クラブ」には、元気な高齢者が約2200名組織化されている。これらの団体は、高齢者ガイドサービスの実施に対する意向が非常に高い。また、地域のOA教室などに通い、情報化に理解がある高齢者も10名程度以上いる。

・地域の観光協会は、今後の観光集客に対し修学旅行生の拡大、少人数グループ旅行へのきめ細かいサービス、エコツーリズムなどの観光企画サービスの実施に意向がある。これらの観光企画に対する情報提供・予約サービスに対する需要は非常に高い。現在、地域の情報提供サービスは石垣市のホームページ等があり、これらの既存リソースとリンクする方向で各種情報サービス(高齢者ガイドサービス等のPRや予約、大手旅行代理店等との業務連絡等)を実施することは現実的である。

(3)情報システムの実現イメージ
 八重山観光情報提供システム
 地域ホームページ上に、動画等を活かした地域観光コンテンツを提供、地域観光協会や各旅行代理店等が修学旅行獲得のためのプレゼンテーションシステムを構築、旅行客・旅行代理店等からの予約業務管理、等を実現する。

 観光企画サービス支援システム
 地元高齢者団体事務所、観光協会などの予約管理システム、ガイド斡旋・調整システムなど業務処理システム、簡易コンテンツ制作支援システムを開発する。
 また、観光客との交流を継続するための電子メール交換、石垣観光通信(メールマガジン)等の環境を整備する。

5.課題と展望
(1)ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの事業推進体制
 ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの運営は、石垣市の支援のもと、(社)石垣市観光協会が中心となり、地元の退職教職員の会や老人クラブ等の高齢者団体、地元商工団体の協力の下に推進する予定である。今後、観光協会内に「石垣高齢者観光ガイドサービス(仮称)」などを設置するなどの事業体制を明確にする。運営方針は、以下のとおりである。

高齢者ガイドサービス等の観光企画サービス
 高齢者観光ガイド、エコツーリズム、環境体験型修学旅行などの観光企画サービスは観光協会を核に自立した事業として運営する。各種システムの運営、コンテンツ制作、システム保守等の費用も、これらの観光収入でまかなう。

ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの整備
 石垣市を中心として各種情報システムの整備、及び観光企画サービス事業運営、コンテンツ制作のリテラシー向上施策の検討を行う。

(2)ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの実現課題と要望
 ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの事業運営にあたって、具体的な検討課題は、以下のとおりである。

 ・ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの開発
  八重山観光情報提供システムの開発
  観光企画サービス支援システムの開発

 ・ホスピタリティ演出石垣観光情報システム、事業化の運営具体化

 ・各種観光企画業務の運営、業務マニュアルの作成

 ・観光コンテンツを制作できるようになるための教育・研修(八重山マルチメディアセンターと連携して実施)

 ・ホスピタリティ演出石垣観光情報システムの利用・簡易保守マニュアルの作成

 ・事業主体と石垣市の情報交換体制の整備(事業報告の明確化など)など

川平公園

黒真珠の養殖で知られている川平湾一帯は、石垣島の中でも最も美しい場所である。
その海の色は、南国の底ぬけに明るい彩色でもなく深い藍の色でもない。
静寂さそのものを色彩にかいたかのようである。

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