横浜市「バーチャル受発注工房」システムの開発・モデル実験 推進本部振興部担当部長中谷旭

1.実験の背景と目的
 わが国の産業構造転換の特徴のひとつは、中小企業を含む企業間関係の変化が、従来の下請け分業関係を越えたものとなって、企業間格差が顕著化していることである。横浜市内企業においてもこうした傾向に対する問題意識は強く、新たな対応が求められている。
 このような構造的転換に際して、中小企業においても、新たな企業間関係の構築や広域的・国際的な対応へ取り組んでいくため、インターネットをより積極的に活用し、従来からある企業DB検索と連動しつつ、新たな提案型受注機会を生かすシステムを開発しようとする動きが高まっている。既に全国各地で、民間または行政等の主導タイプで受発注機能をインターネットで行う試みが続けられている。
 こうした状況の中で、平成10年度にニューメディア開発協会で採択した地域情報化の再活性化調査で、横浜市においては、インターフェイスが良く、広範囲な取引に対応でき、受発注相互のヒット率を高め、コスト削減を行っていくことができる情報システムとして、「バーチャル受発注工房」システムの概念設計を行った。
 このシステムは全国各地の先行事例を踏まえ、新たな考え方として<双六システム(仮称)>を組み込み、企業自らのプレゼンテーションと企業間取引上のコミュニケーションのツールとしようとするものである。このシステムの展開によって得られる参加利用企業のメリットとして想定されるものとしては、チ受発注先ルート・選択肢の拡大、"受発注内容自体の拡大・向上、技術開発・向上へのブレイクスルー、人脈の形成、「企業間ネットワークの形成・充実、等が考えられている。
 加えて、本システムの開発は先進的であるだけでなく、各地で応用(例えば広域多摩地域との連携)されてこそ、この情報システム構築の意義は大きいと考えられる。
 こうしたことから、平成10年度に調査した受発注機能に着目した地域情報化、この「バーチャル受発注工房」システムを、近い将来、広域的な受発注に関わる情報システムの「ディファクト・スタンダード」としての役割も視野に入れた、新たな情報システムとして、開発・モデル実験を行ったものである。

2.実験システムの概要
2‐1開発と整備の基本的な考え方

2‐2システムの基本構造
「バーチャル受発注工房」実験システムの基本構造
は、図1のとおりである。

3.実施・運用の体制

4.今後の課題と展望
4.1課題
 基本的な課題としては、システム上の課題とシステムの運用上の課題に大別される。前者は、チ業種業態の拡大、「トライアル」機能の付加等が考えられ、後者としては、チ知見を持ったコーディネータの確保・養成、企業モール参加企業の発掘・加入促進、」円滑な推進のための運営検討会の継続、「費用負担のあり方の整理等が考えられる。

4.2展望
(1)多彩なテーマ・モールの形成
 今後業種・業態の拡大を図り、製造に関わる様々な企業群によるモールが形成されていくことを期待するのはむろん、Phase.2のトライアイル機能としてのシュミレーションシステムの付加等を勘案すれば、例えば“工業デザイナー・モール”や“技術士・モール”など、現行設置を予定しているコーディネータを補完し、かつ発展させることのできる技術者集団のモール形成も考えられてよい。また、技術や製品開発の探求にとどまらず、マーケティングや参加企業の経営に関わる資質向上などを支援する中小企業診断士グループなどのモールも期待される。
(2)広域利用連携化の促進
 本システムを企業間、参加者間のコミュニケーション&プレゼンテーション・ツールとして位置づけるならば、横浜市域にとどまらず、広域的な利用がなされて多くの企業参加を得てこそ、システム構築の真価を発揮するものと考えられる。横浜に近いところで、地域間ネットワーク形成の深耕が進みつつある広域多摩地域はもとより、全国各地で運営あるいは萌芽しつつある受発注企業間ネットワークとの連携を積極的に行うことが期待される。
 また、今後立ち上がるであろう、各地の受発注企業間ネットワークにあっては、本システムが「ディファクト・スタンダード」モデルとして利用され、各地域や運営組織独自の機能を付加などすることによって、統一性と多様性を併せ持つシステムとして成長・増殖していくことが望まれる。
(3)産学交流の場としての活用
 横浜市においては、京浜臨海部再生の先導的な役割を担う施設群の整備を鶴見区末広町地区で進めている。なかでも産学共同研究センターやベンチャー支援を主目的とした技術開発支援センター(仮称)など、産学連携を中心とした企業支援の場の整備が進行している。一方、(財)横浜産業振興公社内にも“リエゾン・オフィサー”を置くなど、産学連携を加速させる体制も整えつつある。
 このような動きと連動して本システムを、産学交流を通じた実践的なものづくり具現化の場として活用することは意義あるものであり、産学連携を進めていくうえでの有効なツールのひとつとして機能することも期待できる。

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