関連技術の研究報告

  無線型位置・状態認識システム(株)日立製作所

1.無線型位置・状態認識システムの概要
(1)無線の利用について
 携帯電話やPHSの普及により、建物の内外にかかわらずいつでも端末携帯者と通信ができるようになってきた。また、位置情報の提供サービスを行うシステムもあり、高齢者や障害者の位置探索など福祉分野への利用が広がってきている。このようなサービスは、新規にシステムを整備する必要はないが、中山間地域においてはPHSや携帯電話の通信サービスエリアの制限により利用できない場合があり、都市部に限定したシステムといえる。しかし、このような中山間地域では高齢化が進んでおり、安否確認を求められることが多い。
 そこで、中山間地域での移動体通信として無線を利用した安否確認のシステムを検討した。無線は下記のような特長があり中山間地域での利用に適している。
 通信の基地局や中継装置などの設備を独自で整備する必要があるが、地域に合わせて必要な範囲でシステム化できる。基本設備の構築後は、利用者が通信費の個人負担なしでシステムを運用できる。
 地域で運用を行えるため、無線端末数やサービス適用範囲などのシステム変更の検討が地域内でできる。
 そこで、従来の携帯電話のサービスでは利用できない地域への対応を考慮し、無線を用いた位置・状態認識システムの開発を進めてきた。

(2)システムの構成

 システムの構成を図1に示す。構成は、チセンターパソコンおよび無線基地局、ェ中継装置、」移動体認識端末(無線端末)の3つに分かれる。センター局では、移動体認識端末を携帯した人の位置や動作状態がパソコン上で確認できる。端末携帯者が携帯した端末からの情報は中継装置を経由してセンター局に送信される。センターパソコンには端末携帯者の位置と動作状態が表示される。

 無線端末を利用する場合、小型化、バッテリー使用時間の長時間化などの制約から端末の無線出力は必然的に小さくしなければならない。そのため、広域でこのシステムを運用するために複数の中継装置を設置することになり、小淵沢町の実証実験でも複数台設置した。

(3)GPSと無線の特性を利用した位置認識
 位置を認識する方法として、GPS(GlobalPositioningSystem)の利用が普及している。GPS衛星の電波を受信することにより、高い精度で現在地を特定できる。
 本システムでは移動体認識端末にGPSのアンテナと受信機能を追加することで端末携帯者の位置を特定することができるようにした。しかし、屋内や山林の中などGPS衛星を捕捉できない場合には位置を認識することができない。そこで、無線の特長を活かして、複数の中継装置での無線信号受信状況から位置を推測する機能を追加した。
 GPSおよび無線の特性により認識できた位置情報は、センターパソコンの地図上に表示することができ、図2にGPSによる位置表示と無線による位置表示の例を示す。
 図中の印は、無線の特性を利用した位置領域内の重心を示している。また、図中のは、GPSにより求めた位置情報を示している。この図では、位置がほとんど同じ所を指していることが確認できる。

(4)体動センサーによる動作状態認識
 人の動作状態は、体動センサーを利用することで認識することができ、移動体認識端末から位置情報とともに動作情報をセンター局に送信する。この動作情報は、センターパソコン上でアニメーションとして表示する。認識できる動作状態は、止まっている、歩いている、走っている、倒れているの4動作である。図2に歩いている状態の画面例を示す。
 端末携帯者の状態により、緊急度や救助者・関連連絡先への通報など対応が大きく異なるため、“どんな状態でいるのか”が認識できることは、その後の端末携帯者の保護や救援において非常に有用となる。

2.小淵沢町での実証実験
(1)実証実験の内容
 実証実験では、日立製作所がシステムの提供を行い、小淵沢町は中継装置の設置場所提供、役場内にセンタ
ー局の設置場所提供および実証実験への参加などのご協力を頂いた。
 実験は痴呆症などによる徘徊者発生を想定し、小淵沢町内を移動している被験者の捜索を行った。被験者として役場職員の方に「端末」を装着し中継装置を設置した実験地域を自由に歩き回って頂き、また、捜索する探索者を設定してセンターからの位置情報をもとに捜索した。繰り返し実験を行ったが、GPS、無線の特性による位置認識のいずれでも、探索者の移動時間も含めて30分程度で被験者を発見することができた。また、GPS信号の補足できない木の下、建物の中などでも、無線の特性による方法で位置を認識することができ、システムの有効性が確認できた。

(2)今後の活用方法
 活用方法としては、無線のカバーエリア内に居住する独居老人、障害者などの安否確認や徘徊者の探索など幅広い活用が期待できる。
 今後の課題としては、「移動体認識端末」の小型化があげられる。このようなハード面の検討や設備など、引き続き運用者の立場になり製品の検討および開発を進めていきたい。

著者:安藤雅氏(あんどうまさし)
 株式会社日立製作所公共システム事業部事業長付担当部長
 昭和44年4月(株)日立製作所コンピュータ事業部入社
 平成1年2月情報システム営業本部営業企画部長
 平成2年2月情報システム第二営業本部海外システム開発営業部長
 平成5年2月公共営業本部医療営業部長
 平成8年8月現職

著者:平田正世氏(ひらたまさよ)
 株式会社日立製作所公共システム事業部販売企画推進部サービス事業企画グループ
 平成4年4月(株)日立製作所入社

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