広域システム事業報告

◆デジタルコンテンツ流通ミドルウェアの開発

                     推進本部 本部長代理 清水 良郁
                   推進本部 部長 広域システム担当 松原 英一

1.はじめに

 21世紀の国土づくりの基本構想として、東京を中心とする階層型構造から、地域間の『連携』と『交流』による新たな生活空間を創造する地域連携の必要性が高まっています。また、グローバルな企業間取引やデジタルコンテンツの急激な発展など、情報化社会を取り巻く環境の変化は、情報流通市場を急速に拡大しています。
 しかし、デジタルコンテンツに目を向けてみれば、一般のコンテンツクリエイターの制作する作品や、地方自治体が保有する文化財産などのデジタルコンテンツは、限られた地域間で事業を展開しており、優れたデジタルコンテンツがあったとしても生かせず、機会損失を生じさせている可能性があり、地方自治体など各地域間で相互連携してトータル的にサポートする仕組みがない状況です。
 こうした現状を踏まえ、広域に分散する各地域の情報資源の中から最適なデジタルコンテンツを利用者に提供する支援、コンテンツクリエイターのシーズと利用者のニーズの流通により地域の限られた情報資源を相互に流通できる環境「デジタルコンテンツ流通サービス」を実現することが期待されています。
 この環境を実現することで、シームレスに各地域のデジタルコンテンツが流通されるためデジタルコンテンツ産業の活性化が可能となります。また、地方自治体等がこうした環境を整備することで、新たな事業活動を行うことができ、地域産業の発展を期待すことができます。従って、デジタルコンテンツだけにとどまらず、地域あるいは、観光、生活コミュニティなど、幅広い分野での効果をもたらすと考えられ、同時に地場を中心とする数多くのシステムインテグレーター、コンテンツプランナー育成等の効果も併せて期待することができます。
 このような背景のもと、本開発では、「デジタルコンテンツ流通サービス」における基本的な機能を提供する「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」を開発しました。

2.開発事業の概要

 本開発は広域連携事業の一環です。広域連携事業では基盤となる広域連携情報流通基盤システムの上で様々な分野の産業振興アプリケーションを展開しており、昨年度、中小企業振興のためのアプリケーションの開発を行いました。本開発はデジタルコンテンツ分野の産業振興アプリケーションの位置付けとなります。図1に本開発の位置付けを示します。

                    図1 本開発の位置付け

3.広域連携情報流通基盤の活用

 「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」は広域連携情報流通基盤上のアプリケーションです。広域連携情報流通基盤は各地域に分散する経営資源の中から、その情報を求めている利用者にタイムリーに必要な情報を提供するための基盤となるシステムです。図2に連携コンセプトを示します。
 広域連携情報流通基盤では、広域に分散する情報をシームレスに連携する機能や認証・課金等の付加価値サービスへの連携を実現する機能を「共通プラットフォーム」として提供しています。この上で、様々な分野の産業振興アプリケーションを展開することにより、自治体や各企業が小さな負担で大きな効果を享受できる情報利用環境の整備を目指しています。
 この広域連携情報流通基盤を「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」に活用することにより、ある地域で独自に発信している文化資産・風景等の写真やCG等を一般の方及び他地域に発信することができるため、デジタルコンテンツの地域間の流通が実現できます。

                     図2 連携コンセプト

4.デジタルコンテンツ流通ミドルウェアの概要

 「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア(図4参照)」は「デジタルコンテンツ流通サービスシステム」における基盤システムです。図3にデジタルコンテンツ流通サービスシステムイメージを示します。
 デジタルコンテンツ流通サービスは利用者、仲介者、コンテンツプロバイダ、コンテンツ提供者の4者からなります。
 利用者は、コンテンツの検索や登録を行う一般の人々などでありインターネットブラウザでデジタルコンテンツ流通サービスシステムにアクセスして利用します。
 仲介者は、利用者の要求に対応する最適なコンテンツを各地域・事業者の様々なコンテンツプロバイダより検索し提供する仲介機能や、仲介者と同じ事業者で管理しているコンテンツプロバイダへのコンテンツ登録機能などを利用者、コンテンツ提供者に対し提供します。
 コンテンツプロバイダは、コンテンツをデータベースで管理し提供します。仲介者は複数のコンテンツプロバイダを連携して情報を流通することが可能となります。
 コンテンツ提供者は、自分で撮影した写真、自分で作成したCGなどのコンテンツを提供する人で、一般の人々やデザイン会社などがこれにあたります。登録したコンテンツは、他地域へも広域に公開するか、登録した地域のみに公開するか公開範囲を選択できます。
 「デジタルコンテンツ流通サービスシステム」の中で「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」は、地域内のコンテンツプロバイダへのコンテンツ登録機能、各地域のコンテンツプロバイダに対する検索機能や提供者をICカードにより認証する機能などデジタルコンテンツ流通サービスにおける基本的な機能を各地域、事業者ごとの「個別アプリケーション」に対して提供します。
 また、「共通プラットフォーム」は広域に存在するコンテンツプロバイダとの連携機能を「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」に対し提供しています。これにより、各地域のコンテンツプロバイダよりコンテンツを検索する機能を実現しています。
 各地域、事業者は「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」と「共通プラットフォーム」の機能を活用して「個別アプリケーション」を開発します。 「個別アプリケーション」とは各地域、事業者で独自の機能や画面を提供するために構築するアプリケーションです。コンテンツ検索などの基本的な機能は「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」で提供されるため、例えば検索したコンテンツの見せ方や検索条件の入力方法などが「個別アプリケーション」の範疇に入ります。
 つまり、「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」を活用することで、他地域と連携したコンテンツ流通と、開発コスト低減を実現できます。

              図3 デジタルコンテンツ流通サービスイメージ

           図4 デジタルコンテンツ流通サービスシステムアーキテクチャ

5.デジタルコンテンツ流通ミドルウェアの機能

 「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」は主に次の6つの機能を提供します。

5.1 デジタルコンテンツ登録・削除機能

 コンテンツクリエイタが自分の作成したCGやフォトを登録したり、一度登録したコンテンツを削除する機能などを提供します。また、猥褻画像など問題あるコンテンツの発信を防ぐため、コンテンツの発信には管理者の承認を必要とする仕組みを提供します。具体的には、個別アプリケーションからデジタルコンテンツ情報に対する登録要求、削除要求、発信承認要求などを受け取り、その要求内容に従いデジタルコンテンツデータベースへの登録、削除、承認などの処理を行います。

5.2 デジタルコンテンツ情報検索機能

 インターネットなどを介して、登録されているコンテンツを利用者が検索する機能を提供します。「共通プラットフォーム」を利用しているため、検索は一地域のコンテンツプロバイダだけでなく接続している複数の他地域コンテンツプロバイダも対象とすることが出来ます。具体的には、個別アプリケーションからデジタルコンテンツ情報検索要求を受け付け、その要求内容を判断し、「共通プラットフォーム」に渡します。また「共通プラットフォーム」から受け取った結果をもとに、データベースサーバ上のデジタルコンテンツ情報を検索します。

5.3 コンテンツトレーシング機能

 コンテンツの利用情報の統計や分析機能を提供します。これにより、コンテンツが不正に利用された場合に不正利用元の検出を支援します。具体的には、地域で提供しているデジタルコンテンツへの検索操作時に、時刻、ユーザID、コンテンツIDなどの情報を記録し、指定したコンテンツのアクセス記録の抽出などの機能を提供します。

5.4 デジタルコンテンツ提供者管理機能

 コンテンツ提供者の本人確認を目的に、コンテンツ提供者のICカード情報がコンテンツ提供者データベースに登録されているかなどをチェックするための機能を提供します。具体的には、個別アプリケーションからデジタルコンテンツ提供者情報に対する登録要求、削除要求、検索要求などを受け取り、その要求内容に従いコンテンツ提供者データベースへの登録、削除、検索を行う機能を提供します。

5.5 デジタルコンテンツ提供者認証連携機能

 紛失したICカードが他人に利用される等のICカードの不正利用を防ぐための機能を提供します。具体的には、外部のICカード発行管理サーバからICカード失効情報として受け取るHOTリストを基に、コンテンツ提供者データベースにICカード失効情報を埋め込む機能を提供します。

5.6 定義ファイル支援機能

 「共通プラットフォーム」を使用しているシステムの設置・運営を行っていく上で必要となる定義ファイルの管理に関する支援機能を提供します。

6.岡山デジタルフォトミュージアムへの適用

 平成12年度2次補正事業のIT装備都市研究事業において、「デジタルコンテンツ流通ミドルウェア」を活用し岡山デジタルフォトミュージアムを構築しました。これは、岡山市の市民や制作会社が市内の文化資産や風景等の写真やCGなどの画像を自由に登録し、発信することで、市民及び他地域生活者に対して岡山の魅力をPRすることを目的としています。岡山デジタルフォトミュージアムでは、デジタルフォトコンテンツ登録や検索、フォトコンテストなどの機能を提供し、コンテンツ発信やコンテンツ閲覧などのサービスを提供しています。サービス画面例を図5に示します。

7.今後の展望

 今後は他地域へもデジタルコンテンツ流通ミドルウェアを活用したアプリケーションを展開していき、各地域で独自性のあるサービスシステムを構築するのと同時に、各地域を結んだ広域でのデジタルコンテンツの流通を実現していきます。
 また、有償コンテンツの流通や教育コンテンツの流通など産業活性化に寄与するサービスへの発展を目指していきます。

             図5 岡山デジタルフォトミュージアム画面例


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