●福祉情報化事業報告

◆生活を豊かにする情報技術の活用に向けて

1.生活分野における情報化促進のアプローチ

 パソコンの価格低下、通信インフラの充実、携帯電話やモバイル端末の急速な普及等々によって、従来の企業活動や公的分野における「ビジネスユース」での情報技術(IT)の活用だけでなく、個人の生活の中で情報機器を活用する「ホームユース」の市場が広がってきました。
 一方で、電子政府への取り組みが始まり、ブロードバンド対応への環境整備も進みつつあります。また、生活に密着したサービス(たとえば、介護や子育て等)の分野でも、利用者のニーズにきめこまかく配慮するためには、ITの活用が欠かせません。少子高齢社会に向けて、個人個人が主体的にITを使いこなすことが求められています。
 しかしながら、ビジネスユースでの活用と異なり、ホームユースの場合、ITの活用は、便利で効率的なだけでは、「使い方が面倒」あるいは「わからない」といったバリアを超えるだけのインセンティブにはなりません。現状では、ホームユースに適した機器・システム、加えてコンテンツが未成熟なため、特に情報弱者とみなされやすい高齢者・障害者・女性等が自力でITを活用するのが、非常に難しい環境になっています。
 2001年1月6日に試行されたIT基本法には、「すべて国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現」が掲げられ、また、「利用の機会等の格差の是正」が明記されました。今後ますます情報化が進むにあたって、すべての国民が障害の有無や生活環境によらず、自分の行動を自己決定し、社会との係わりを失わない自立した生活を確保できるような環境整備が急務です。
 福祉情報化事業では、上記のような状況を踏まえ、生活分野に根付く情報化、加えて、生活を豊かにする情報技術の活用を促進する具体的な事業を次の3つの視点で展開しています。

生活分野における情報化促進の3つの視点
 ●ユーザビリティの高い「機器・システム・コンテンツ開発の促進」
 ●生活を豊かにするITの活用を「サポートできる人材の養成」
 ●利用者・団体間の交流や情報発信を促進する「ユーザーネットワークの構築」


 今年度、実施している事業は、大きく2つの事業であり、3つの視点にそって、各種の成果を出すよう努めています。「表1福祉情報化事業一覧」参照。

福祉情報化の2つの事業
 ●情報バリアフリー事業
  高齢者・障害者等向け情報通信機器等の開発
  (平成12年度補正予算)(平成13年度予算)
 ●福祉サービス活性化事業
  介護・子育て分野における革新的なサービス
  提供に資するIT活用(平成12年度補正予算)


 本号では、これらの中から、下記2件の成果をご紹介します。

個別成果のご紹介
 ●機器・システム・コンテンツ開発の促進
  情報バリアフリー事業から
  「障害者・高齢者等用電子投票システムの開発」
 ●ユーザーネットワークの構築
   福祉サービス活性化事業から
 「子育てサポートシステムの構築」

2.障害者・高齢者等用電子投票システムの開発

 視覚障害者、肢体不自由者、高齢者の方も、自分で投票することができる、電子投票機器及び障害者・高齢者用インターフェイスを開発しました。

 事業実施者 NTTデータ等からなるコンソーシアム

開発した機器 詳細は当協会ホームページ参照

(1)電子投票機
 障害者・高齢者等が用いるインターフェイスが接続可能な端子を装備した卓上型の電子投票機。なお、本投票機には、液晶タッチパネルが装着されており、画面に候補者の名称等を表示する機能を有しています。この投票機のみを用いて投票を行う場合には、液晶パネルに表示される候補者の名前等を指でタッチして選択する仕組みになっています。

(2)障害者・高齢者用インターフェイス
 障害者・高齢者が投票をする場合に上記電子投票機に接続して使用するインターフェイス。今回開発したのは、次のインターフェースです。
 ・肢体不自由者用キーパット及び音声ガイダンス
 ・全盲者用キーパット及び音声ガイダンス
 ・ピンディスプレイ・キーパット

実証実験の概要

(1)全国の施設等での実証実験
 上記により開発したインターフェイスの実用性を実証するため、電子投票機及びインターフェイス(ピンディスプレイ・キーパットを除く)を全国の障害者施設、老人ホーム等40数カ所に持ち込み、のべ1000人以上の被験者に対して模擬投票を実施し、操作性等について検証しました。
 この結果、視覚障害のない高齢者及び障害者にとってタッチパネルは有効な入力手段であるという印象を得ました。また、キーパッドについては大型の方が、操作性が高いと評価されました。

(2)ピンディスプレイ・キーパットの実証実験
 東京において盲ろう者、指点字通訳者、ヘルパー合計20名に集まっていただき、点字キーパットのデモンストレーションと評価を実施しました。
 その結果、数字ボタン部分の文字の浮き上がり状況や、数字5の部分の突起が無いこと、数字ボタンと矢印ボタン、さらにピンディスプレイ間の配置についても工夫が必要である旨の指摘を受けました。
また、ピンディスプレイにカナを表示させた場合、認識に個人差が大きく現れることがわかりました。

考察

 高齢者や障害者が投票し易い電子投票機やインターフェイスの実用性及び有効性について、キーの配置や、ボタン操作性の工夫等、改善すべき点が明らかになりました。また、十分な事前説明の重要性や、インターフェイスによっては投票にかなりの時間を要する場合があることもわかりました。さらに年齢や障害の程度、こうした機器へのアクセス機会の有無により効果に違いが見られました。また、今回対象としていなかった聴覚障害者等他の障害を有する方についても対策が必要であることがわかりました。

3.子育てサポートシステムの構築

 社会全体で子育て・子育ちを考える仕組みについて、当事者が参加しながら既存サービスの活性化や、新しいサービスのインキュベートができるような成長するサイトの構築を目指しています。

 子育て中の人も、子育てに直接かかわっていない人も、ぜひアクセスして、子育て現場の雰囲気を味わってみてください。

わいわい子育てネットワーク http://www.waiwai-wand.com/

内容

(1)先進事例の提供

 「こんなふうに子育て・子育ちがんばっています!」
 社会で子供を育てる仕組み(子育て・子育ち生活支援の仕組みづくり)について、全国の事例を収集し、そのノウハウに関する情報提供を行います。

(2)当事者による子育て情報の提供とネットワークづくり

 「自分はこうしてる!自分ならこうする!」
 網羅的な情報ではなく、下記のような多様な視点から、当事者の声を中心に情報提供するとともに、当事者間の主体的な情報交流ネットワーク構築を支援します。
 母親、父親の視点
 保母、保父の視点
 子育てサービス事業者の視点
 将来的には、子育てサービスにかかわる就業者、子育て中の従業員をかかえる企業の視点なども入れる予定。

(3)子育てサービス情報の提供とガイド

 「こんなサービスあります!」
 「いいサービスはここをチェック!」
 幅広い分野の子育てサービス情報を提供(リンク)します。また、自分に合った情報を適切に取捨選択できる情報ガイド機能をもたせ、サービス利用者側の意識の向上を目指すとともに、各事業者自身がきちんとした情報提供できるような場を設けます。

(4)就業情報の提供(将来的に対応)
 「新しい可能性を見つけよう!」
 子育てしながら復職したい人、子育てサービス事業に従事したい人達、事業を立ち上げたい人、仲間を探している人たち等に向けて、再就職情報、転職情報、スキルアップ情報等を提供します。

(5)子育て、女性支援関係団体へのポータルサービス

 上記それぞれの機能構築の結果として、多くの関連団体等の紹介を見やすい・検索しやすい形で提供します。
 年度末には、このネットワークを使って、子育て分野のIT活用支援として公募で採択した案件の紹介を行い、成果の活用を図る予定です。

           表1 福祉情報化事業(経済産業省受託事業)一覧

 事業名(右の項目)

 事業展開の視点(下の項目)

情報バリアフリー事業

高齢者・障害者等向け情報通信機器等の開発
(平成12年度補正予算)
(平成13年度予算)
福祉サービス活性化事業

介護・子育て分野における革新的なサービス提供に資するIT活用
(平成12年度補正予算)
機器・システム・コンテンツ
開発の促進


日常生活の中で、使いやすい、あるいは役に立つ機器・システム・コンテンツの開発を促進する。

*公募による採択案件は、当協会のホームページにてご紹介しています。
http://www.nmda.or.jp/
●公募による企業・団体等の開発支援
 利用者の特性をきちんと把握した上で、実用に供することを前提とした開発を支援する。
 想定される利用者による実証実験を十分に行い、その後の実用化・商品化につなげる。

●政策的な開発支援・環境整備
・障害者・高齢者等用電子投票システムの開発 *本文にて紹介
・高齢者インターフェースにおけるバーチャルリアリティ技術の活用
・高齢者のIT利用特性データベースの構築

●公募による企業・団体等のIT活用支援
 革新的な介護・子育てサービスを生み出せるようなIT活用を支援する。
 介護・子育てサービスの提供団体(民間事業者、公的機関、NPO、ボランティア団体等)、サービス提供者(訪問看護婦、ヘルパー、シッター、保育士等)とサービスの受益者(利用者、家族等)それぞれの立場から総合的にサービスを考え、ITを活用することで、サービス受益者にとって、よりよいサービス提供の仕組みを構築する。
IT活用をサポートできる
人材の養成


機器・システム・コンテンツの活用方法や情報生活の楽しみ方を教える。
●e-AT活用促進プログラムの提供

 electronic and Information Technology based Assistive Technology
 心身機能の低下した高齢者・障害者等に対して、「支援技術」としてのITの活用をサポートできる人材を養成する。

○今後の課題(現状での事業はなし)

 介護・子育て分野のサービス利用者にとって、ITの利用状況によるサービス活用機会の格差を生まないようなサポート体制と人材育成の仕組みが必要になる。

ユーザーネットワークの構築

生活の中でITを使う当事者、家族、活動団体等への情報提供の仕組みを整備するとともに、各自・各団体による情報発信を活性化し、新しい市場創出につなげる。
●利用者ネットワークの構築

・活動団体のネットワーク化
 高齢者・障害者・女性が主体的に参加し、少子高齢社会に必要な商品・サービスを生み出す社会参加活動のIT活用を支援する。
 http://www.svplaza.com/
・個人のネットワーク化
 高齢者・障害者・女性等が楽しめるサイトを構築し、個人の情報生活向上を促す。
 http://www.melis-net.com/

●子育てサポートシステムの構築

 先進的な子育て事例を全国の人々に知ってもらうための情報発信と、それらの事例をもとにした子育て・子育ちにかかわる意見交換の場を提供。少子高齢社会に適応できる仕組みとして各自が主体的に、かつ、社会全体で子育てを考えるための基盤とする。
 *本文にて紹介


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