5.講 演   講 師:渡邊 昇治氏 経済産業省商務情報政策局情報政策課 課長補佐   テーマ:「今後の地域情報化政策のあり方」  名護には時々来ているのですが、この場所に来たのは1年半ぶりになります。当時はこの建物はありませんでしたが、1年半前の3月、この隣のザ・ブセナテラスホテルで「沖縄情報通信ハブ国際シンポジウム」を開催しまして、経済産業省の広瀬事務次官から、沖縄に対してどういう貢献ができるか、というご提案を含めた講演をしていただきました。  その時にお約束したことの一つは、今コールセンターが沖縄には増えてきましたけれども、もう少しコールセンターにやや付加価値を足したような形で、いわゆるデータセンターを作りたい。そこにコンテンツライブラリーとか、あるいは個人データなどを入れて、少しビジネスができるような形にしたい、というのが一つの約束でした。明日の午後に、ご覧いただける方もあるかと思いますが、現在、総務省と我々経済産業省で協力して、宜野座村に、規模的にはそれほど大きなものではないかもしれませんけれども、サーバーファーム整備事業によるデータセンターを作っているところです。  もう一つは、皆さん行かれたかどうか分かりませんが、モナコとか南フランスのニースとか、ここは非常にきれいな海があって、ほとんどリゾート地域なのですが、その近くに、車で10分ぐらい走ると非常に大きな企業の研究所があります。研究者の方は、研究した後ちょっと疲れると地中海まで食事をしに行くという、非常におしゃれなところがあり、沖縄もそれにかなり似ているものを感じることから、研究をしている人が喜んでどんどん集まるような場所にしましょう。フランスのニースにはソフィア・アンティポリスという大きな研究地区があるのですが、そういう形になるようにしたい、ということをお話いただきました。  これについては、我々は研究所を建てるという予算は持っておりませんので、なるべく色々な研究を沖縄に誘致しようということを考えました。2つ主なものをお話しておきますと、一つはICカードです。  来年の1月頃から沖縄の北部12市町村で、ICカードを配るプロジェクトがあります。是非とも沖縄で実証実験をしていただきたいということで誘致されました。当初は沖縄北部12市町村の方に配ってもらおうと考えていたのですが、なかなか12市町村のほうも忙しいということや、実際に市町村がICカードを配るということは大変だということになりました。1枚でも漏れがあると怒られるとかいろんな問題があります。それで、ない知恵を絞った結果、北部の医師会に協力してもらって配ってもらおうということになりました。いくら健康長寿の島といっても、多分お医者さんにはかかるでしょう。北部医師会のデータベースを借りて配れば、大部分の皆さんにICカードを配ることができるだろうと考えました。それで、将来その12市町村の準備ができれば、そのカードに住民データみたいなものを載せて使えるようになると考えた訳です。このICカードは大体7万枚ぐらい配りますから、多分、北部の住民の7、8割に配られる形になると思いますけれども、今これを進行しております。  それからもう一つは、県立中部病院で電子カルテの実験、県立中部病院とその近隣の診療所との間でカルテの共有化を行うというものですが、これを実施しております。このような事業を、なるべくこの沖縄に誘致していく。さらに言えば、実はこの情報化フェスタもその一つですが、1年半前に、なるべく会議があったら沖縄でやりましょうということをお約束して、ようやく実現することになりました。  さて、これから今後の地域情報化政策の在り方ということで、我々の来年度予算要求を含め、お話をしたいと思っています。今後の話をする前に、これまでの政策の問題点について簡単にお話をして、それに対する解決策は何か、最後に今後の展開というふうにお話していきたいと思います。  最初に、これまでの政策の問題点の一つ目ですが、一つは、これまでの政策というのは、地域指定型の政策が多かったということです。例えばニューメディア・コミュニティとか、テクノポリスとか先進モデルです。聞かれた方も多いと思いますけれども、これらの事業は、どこかの地域をモデル地域に指定して、そこで実験をしますというものでした。そうすると、確かにこの地域の中では情報化の進展に寄与しますが、反面、その地域の個性が出てしまって、ほかの地域との整合性がなくなってしまうとういうことになります。役所側にも問題があるのは、地域を選ぶときに、その提案に対して何か新規性とかオリジナリティとか、そういうのを必ず求めるわけです。そうするとどうしても個性的なものになり、他の人と違うものになって、他の地域とつなげないという不便なものになってしまうというのが、一つの反省点としてあげられます。  もう一つは、同じ地域の中でも色々なシステムが出来上がってしまったということです。例えば、同じ市町村の中に防災情報システム、環境衛生情報システム、産業情報システムなど複数のシステムができあがっています。それぞれ違う専用線をネットワークで組んであり、一番ひどい例になると公民館とか市庁舎に行くと目的別に4台ぐらい端末が置いてあります。何でそうなっているかといいますと、それぞれのシステムを作るときには、中央省庁から少しずつ補助金が出ておりまして、この中央省庁の縦割り構造がそのまま地域にコピーされているような形になっているのです。  ここまで2つ問題点をお話しすると、ほとんど霞が関だけが悪いのではないか、という感じになりますが、そんなことはなくて、ベンダーも悪いのです。ベンダーによる囲い込みというのがあり、ベンダーはいろんなお得意さんに対して自分のシステムを売り込むのですが、少しずつ、うちは他のベンダーとはここが違うというのを売り込ます。ですから、1回契約するとなかなかその変更が難しいということになってしまいます。  こういう囲い込みというのは比較的多く行われていることで、これはベンダーにとってみれば、他のメーカーよりもうちはいいんだと、ここがいいんだという特徴を出すためにやっているという面があります。また、そもそも発注するほうが悪い、発注するほうが少しずつ違うものをお願いしているということにも原因があります。  例えば、病院のシステムを作ろうとすると、ベンダー側は、一応その共通的な汎用的なものを持ってきますが、何とか先生スペシャルとか、何とか大学スペシャルとかいうものがあり、どうしても普通とはちょっと違うものになってしまう、これはよくある話だと思います。  これはもう発注する側も悪いという話でして、そういった発注する側の問題点として顕著なものを2つ挙げておきたいと思います。一つは、下請け構造です。ソフトウェアの開発というのは、誰かに委託するとその人が誰かに委託して、さらに委託して、というそういう形で縦走的な下請け構造で行われていまして、中間マージンが随分あるのです。  例えば、ある中央官庁がある企業にあるシステムを発注したところ、最初の発注は数億円だったのに、最終的には4次下請けのベンダーには3,000万円位で下請けされたのです。その間に3回、4回とピンハネされて、7がけ、7がけ、7がけで、7がけの4乗は何がけかみたいなそういう話だったのです。  これもベンダー側だけの問題ではないのです。ベンダー側はやはり仕事をもらえば、なるべく早くやるために、分割して発注するとか色々な方法をとります。そうやってコストを抑えているわけです。これは、むしろ問題は発注する側が、自分の発注した仕事がどういう体制で開発されているかということを確認していないということです。だから発注者が受注した会社に対して、お宅は下請けでどういう会社を使っているかを管理していないのはけしからんと叱ったところで、お前も管理していないじゃないかと言われたらお終いということです。みんな似たようなものだと。「共同責任は無責任」ということわざが、日本にはないのですがアメリカにはあります。非常によいことわざです。「共同責任は無責任」。私もしょっちゅうそれを使っています。(笑)  それは別にしましても、もう一つは不明瞭な発注。これは要するに我々は少なくとも情報工学を専攻したことがない人間ですから、いわゆるRFP(リクエスト・フォー・プロポーザル)を書けと言われても書けません。アメリカだと、役所もポスドクみたいな人を雇ってつくらせています。我々は発注するときに、コンサルタントを雇ってそういうものを書く費用を認められておりませんから、どうしても発注が不明瞭ということになります。不明瞭な発注をもらって、明確なソフトを作れる人は少ないのです。  ひどいのは、ソフトだけじゃないのです。例えば何とか審議会とか委員会の報告書を作るときも、とりあえず何とか総研に頼んでおけとかいって、シンクタンクに頼みます。1年間ずうっとやって最後に出てきたものを局長か何かに報告すると、何かちょっと違うんだよなとか、何か気に入らないと言われると、それを持って何とか総研に行って、何か気に入らないんだとか言うんです。何か気に入らないと言われても、もともと発注自体が不明瞭なのですから困ります。だんだん偉い人にその報告書を説明していって、最後の3日ぐらいになってガラッと変わることになります。最初の3カ月とか6カ月の時間は何だったのだということが起こるわけです。こういうことが起こらないようにしようということで、明確な発注書を書いて工程管理ができるようにしようというのを、まずは「隗より始めよ」というか、役所からやってみようということで、今経済産業省ではこういうことに取り組もうとしているのです。  さて、解決策ですけれど、今3つ問題点を申し上げました。一つはほかの地域とつながりがない、個性がありすぎてほかの地域とつながらないという問題です。これについてはやっぱり何といっても、インターネットのようなネットワークを使えば強制的につながるわけです。この絵の意味はA市とB町と書いてありますが、それぞれの町なり市が持っているシステムが違っていても、インターネットにつなごうとすれば、つなぐために何らかのコンバータを介すことになりますから、結局インターネット上ではこの2つの市のシステムはつながっているわけです。ということで、こういう形にすればそれぞれの市のシステムをつくり直さなくても、インターネットで対話ができるということになるわけです。  特にその中でも、今、専用線よりは、ぜひ公衆回線インターネットで安いコストでやりたいということを考えています。それを利用したものの一つとして、広域データセンター構想というのがございまして、これは来年度予算の要求にもつながっているのですけれども、複数の市町村がそれぞれ自分でプログラムを作るのではなくて、データセンターにプログラムを共有する形で預けておいて、プログラムを使うときだけダウンロードする。あるいはプログラムをダウンロードするのではなくて、データを預けて、広域データセンターで処理してもらうということをやるということです。  これは色々ないい面があります。最もわかりやすい話からすれば、みんなでプログラムを共有しているからコストが安いということもありますし、データの処理をアウトソースできるのですから、各市町村の2階を全部サーバールームにするとか、常時25度のエアコンをかけるとかそういうことをしなくて済むわけです。こういうものを進めていこうと考えています。  難しいのは、市によっては個人情報保護条例があって、なかなかその市の情報を外に出せませんということがあります。そのような場合、データをアップロードするのは難しいのですが、プログラムをダウンロードして処理する、そういう市町村はそういう選択の仕方があるということです。  この広域データセンター構想に続いて、今度は2つ目の問題点ですけれど、これは霞が関の縦割りが市町村にコピーされているという話です。これについては汎用のシステムをなるべく使うようにする。例えばICカードの例ですけれども、マルチアプリケーション等、複数の機能が載るICカードを作って、これを色々なところで使えるようにしよう、このICカード自体を全国共通にすれば、どこのシステムも、少なくとも見かけ上は統合的に運用されているように見えるし、こういうふうにしていけば、いずれこの横の連携も出てくるということです。  3つ目は、さっきの調達方法の話で、今申し上げたようにネットワークを利用すると、ネットワーク接続性とか拡張性を確認する。それから汎用システムを使っているかどうかを確認する。ハードとソフトがちゃんと分離されているかどうかを確認する。要するにハードとソフトが一体化していると、ハードは古くなったがソフトは取り替えたくないとか、逆にソフトは古くなったけどハードは取り替えたくないというときに変えられませんから、ハードとソフトは分離するということです。それから明瞭な発注仕様書を作るとか、受注体制を確認するといったことをやっていかなければならないということです。  という解決策があるのですが、具体的にどういうことをやっているかといいますと、過去の政策を振り返ってみますと、ニューメディア・コミュニティ構想から始まっております。常に最初に位置づけられており、偉大な政策と言えると思いますが、地域の情報化を進めていくということでやってきました。そういう中で先進的情報通信モデル都市構築事業といいまして、複合的情報システムをいろんな市町村に作っていきましょうという施策を実施しております。これは、霞が関の縦割りのコピーみたいなものじゃなくて、複合的なシステムを市町村の中に作ろうというものです。それから広域連携基盤整備事業といいまして、複数の市町村がネットワークを使って、同じOS、ミドルウェアを使おうと事業を実施しております。実は今日、フィンランドの事例紹介の後に、広域連携基盤整備事業についてご説明する予定でしたが、都合によりましてキャンセルさせていただきました。  それから、これらをまとめるような形といいますか、いよいよICカードが出てきましたので、IT装備都市研究事業として、全国各地でICカードを配るという事業を実施しております。今後の展開ですが、一番大事なのは、ここにありますけれども「IT City構想」を推進していくこととしております。  この構想の中身は2つあります。一つはこのICカードです。せっかく今21地域でやっていますので、これを高度化するということです。もう一つは、さきほど申し上げたような広域データセンターのようなものをつくって、せっかく開発したICカードのシステムを、近隣の市町村にも普及させていくということです。ICカードの高度化と、その高度化されたシステムをデータセンターを使って、近隣の市町村に共有してもらうということをやろうと思っています。  それから、ITリテラシーの向上ということで、これは一般的に住民とか国民のリテラシーのことばかりよく言われますけれども、我々としては役所側のリテラシーの向上を図って行く必要があると考えております。これは予算が必要な話ではありません。  次に、最近ちょっと新聞をにぎわせることが多いのですが「e!プロジェクト」というものが竹中大臣の発案で出ています。東京駅とか成田空港とか人の集まるところで、2005年の最先端のIT先進国家というのはどういうものになるのか、ショーケースを作って見せるというものです。IPV6とかブロードバンドとか、とにかく2005年はこうなるだろうという姿を、人の集まるところでやって見せるという事業であり、このようなメニューが挙がっています。お手元の資料の中には「e!救急車」というものが入っているんですが、最近のプランでは「e!救急車」はなくなりまして、「e!ホスピタル」だけになっています。それから「e!コンプレックス」という高機能複合施設の中に「e!オフィス」とか、「e!ショッピング」という項目が入ってきています。  少々時間が過ぎてしまいましたので、これで終わりたいと思います。  どうもありがとうございました。 (文責:情報化フェスタ実行事務局)