災害対応総合情報ネットワークシステム外部仕様検討報告書
第1部 ネットワークシステム外部仕様の検討

     目 次

1. 阪神・淡路大震災における情報の実体と問題点

  1.1 時間経過に応じた情報の変遷

  1.2 インターネットによる情報発信

  1.3 阪神・淡路大震災における問題点の整理

  1.4 災害時にも活躍する情報システムのあり方

2. システムの機能要件

  2.1 行政インターネット

  2.2 システムの分散化とバックアップ機能

  2.3 網型ネットワークの構成

  2.4 意志決定の支援機能

  2.5 情報交換の機能

3. システムにおける技術要件

  3.1 システムの基本概念

  3.2 地図情報システム

  3.3 ネットワークの伝送路

  3.4 インターネットの新規技術

  3.5 多様な手段での情報交換と双方向性

4. 運用における留意点

  4.1 情報ボランティアとは

  4.2 情報交換を行う体制の整備

  4.3 情報ボランティアの活動パターン

  4.4 行政への要望
 

 

1. 阪神・淡路大震災における情報の実体と問題点

1.1 時間経過に応じた情報の変遷

 阪神・淡路大震災における、災害発生時の情報の実態を、時間の経過に従って述べる。また、これらの実態を図にまとめたものを図表1.1.1に示す。

(1) 災害発生直後

 災害発生直後は個人がそれぞれ大きなショックを受けた時期であり、まとまった情報としては何も得られなかった。ただ、大変なことになったという個人の判断で、近くの小学校等へ避難する人、会社へ出社する人とそれぞれ行動した。なかでもご近所の人が住居の下敷きになっている場合に、それを助けるべく行動した人も多く見られ、それによって助かった人命も多数に上る。

 この時点で必要であった情報は、個人の生存に関わる情報である。特に現地の被災者においては、生き延びるためにはどうすべきなのか、あるいは現在の状況はどうなっているのかといった情報が必要とされた。

 また、情報の鮮度については非常に短期であった。例えば2時間前の情報では使い物にならないといった状況のようである。何しろ「今」の情報が必要とされた。

(2) 6時間経過

 被災者個人はそれぞれ避難所や会社等へ向かい、一段落した時期である。この頃になると、消防・警察・自衛隊等による消火活動・人命救助・二次災害防止等の対策が取られている。

 また、緊急医療においても困難な状況の中で活躍が見られた。既往患者、重傷患者への対応や、怪我人(頭を打った人や骨を折った人、ガラスを踏んだ人等が多発)への外科的対応で緊張と繁忙の極地あったようである。

 行政としての情報収集・発信のための努力もこの時期に始められた。しかし、意思決定のための情報不足や行政職員も被災者であったことによる対応者の不足等による機能の低下により、被災地住民や広く一般に対する十分な情報発信は不可能であった。例えば兵庫県の兵庫衛星通信ネットワークは災害時のための機能として完備されていたが、地震発生による冷却装置の機能不全等により、その能力は発揮されなかった。

(3) 2日経過

 外部からの支援がようやく届くようになり、被災者の方々もようやく落ち着きはじめる時期である。この頃になると、生存についての心配はなくなり、生活の確保と継続に向けての要望が大きくなってくる。例えばトイレの問題や、寒さのために風邪や下痢を訴える人が増え始め、医療機関の対応もこちらへシフトしはじめている。

 被災者に必要な物資も、毛布や水といった生存に必要な物資から、おにぎりや缶詰、乾パン等の食料のように、生活に必要な物資へ要求が移っている。

 この頃になると、行政もまとまった対応が取れるようになり、行政に裏打ちされた情報の発信が可能となり始めている。

 また、被災地外からの支援も動き始め、支援を行う側で各種のアイデアが実施されている。例えば神戸市と近接する三木市では、兵庫区を担当して支援物資を送っているが、多数の人々によるおにぎり作成の際にマニュアルを用意し、支援物資によるサービスに均一化を図っている。

(4) 2週間経過

 被災された方々の生活も、安定をし始めた時期である。したがって、必要とされた情報も入浴といった生活向上のための情報であり、必要とされる物資も衛生用品や衣料品といったものに変化している。また、被災地以外の人々も一時のパニック状態から抜け出し、ボランティアとしての活動が活発化してきた時期でもある。

 情報発信に関しても、当初はインターネットやパソコンネットの利用者に限定され、それ以外は口コミや壁新聞といったメディアによっての発信であったが、無料のパソコン(PC)等の設置により、インターネット・パソコンネット等を利用した情報へのアクセスや情報交換が行われている。

(5) 情報発信主体

 ここで特筆すべきは、交換された情報の発信主体である。災害発生直後から、災害の状況や被災者に関する情報は、インターネット等によって発信されていたが、この情報はほとんどが個人の責任においてなされたものであった。そして行政によって裏打ちされた情報が発信されるようになるまでに、約2日間という時間が必要であった。災害発生時に活躍するシステム(制度や運用も含めた)を考える際には、この空白期間をいかにして縮めるかという事ばかりでなく、空白期間の個人の責任による情報発信をいかに活用するかという事が重要な視点となる。


図表1.1.1 阪神・淡路大震災における災害発生時の情報の実態

1.2 インターネットによる情報発信

 阪神・淡路大震災では、情報発信の手段として、インターネット/パソコンネットが用いられた。ここでは、その中でもビジュアルな物について例示する。

(1) 地図による情報発信

 図表1.1.2に、地図を用いた情報発信の例を示す。これは、被災地周辺の白地図(カラー)のデータ上に、位置を示すシンボルとそれに付随する情報を表示している。ここでは、避難所、診療可能な病院、医療品集積場、保健所、救護センター、バス停および海上交通や交通規制、あるいは風呂の情報などが発信されていた。

 初期の頃は、被災地の外部に住むボランティアにより、Macintosh上の地図管理ソフト用のデータとして作成・発信されていた。当初はftpサイトに置かれ、利用者に対して配布されていたが、アクセス手段を持たない利用者に対しては、別のボランティアによりFAX等を用いて渡された。その後、2/20頃には順次HTML化されてWWWにより流通するようになった。

 ここでは、特に情報の収集・整理・作成・配信がすべてボランティアによって行われたことが象徴的である。

避難所の地図


図表1.1.2 地図を用いた情報発信

(2) 航空写真のHTMLによる情報発信

 被災地上空からの航空写真が、国土地理院のWWWホームページによって発信された。この情報は災害発生直後に準備され、1/20には一般公開されている。そして、1/25にはftpとHTMLによってネットワーク上に公開された。この航空写真の例を図表1.1.3に示す。航空写真そのものでは、建物1軒ごとの状況も判読できるのだが、電子化された情報となると残念ながら若干ぼやけてしまう。スキャナ等の精度やネットワーク上で流通可能なファイルサイズ等の制約もあり、若干の精度はいたしかたの無いところであろう。

阪神高速の崩壊(航空写真)


図表1.1.3 航空写真の例


1.3 阪神・淡路大震災における問題点の整理

(1) 情報のシステム

 災害発生に対応するための意思決定機関や判断に必要なデータがすべて県庁のみにあったため、被災による県庁機能の崩壊により、迅速な初動体制の確保のための意思決定が行われなかった。これは、本来災害発生時に動作するはずであった県庁機能の崩壊と同時に、情報のシステムが崩壊したことに由来する部分が大きい。

(2) 情報の活用

 行政から被災者等の住民へ十分な情報を発信するためのしくみがほとんど機能しなかった。また、個人から情報を収集するしくみはほとんど考慮されていない。

1.4 災害時にも活躍する情報システムのあり方

 以下では、県および市町村における、災害時にも活躍する情報システムのあり方について述べる。

(1) 行政の意思決定に必要な情報の収集

 大規模災害の発生時に、災害の状況や被害の規模等を正確に把握し、対策等を的確にとってゆくための意思決定に必要な情報を収集し、関係各機関と共有する機能である。情報源は地震計等の各種センサーや気象情報、警察・消防およびライフライン企業等の関係機関、管轄の各市町村等があげられる。

(2) 行政における意思決定の支援

 収集した情報を意思決定の場で柔軟かつ効率的に表示する機能である。電子データとしての情報ばかりでなく、音声や映像情報、あるいは紙媒体も取り扱う必要がある。また、収集された情報からの被害推定等の機能も含まれる。

(3) 行政・住民等の間での双方向の情報交換

 インターネットやパソコンネット等のネットワーク機能を十分に生かして、双方向での情報交換を実現するための機能である。これは、阪神・淡路大震災の際には、特に被災地住民において情報格差が発生したという問題点が指摘されている。また、行政からの情報や行政への要望が十分にやり取りされたとは言い難い状況であったという反省に基づき、柔軟な情報交換を実現する。

2. システムの機能要件

 以下では、災害時に活躍する情報システムを、県および市町村において実現する際の機能要件について述べる。

2.1 行政インターネット

 県庁、合同庁舎、関係機関、市役所および避難所となるべき公民館、学校等、災害時に活躍するであろう機関を、一般のインターネットのような「フラットでシームレスなネットワーク」で接続する。このネットワーク全体が一体となって機能するシステムを「行政インターネット」として定義する。このネットワークでは、一般のインターネットばかりでなく、パソコンネットや専用のBBS等も取り込むことが可能であり、それぞれのネットの間で情報が柔軟に交換可能であれば、「フラットでシームレスなネットワーク」の要素として機能可能である。

 このような「行政インターネット」の中では、それぞれの機関がフラットに繋がるため、必要に応じて、各機関の間の階層関係や組織としての距離に制約されない情報交換が可能となる。例えば、通常は市→県・県→市という階層関係にそった流れに限定されている情報交換ばかりでなく、市→市という階層関係に囚われない情報交換が可能となる。

 図表1.2.1に、行政インターネットのイメージ図を示す。


図表1.2.1 行政インターネット

2.2 システムの分散化とバックアップ機能

 大規模災害の発生を想定し、一回の災害の発生ではデータが失われないように、システムおよびデータのバックアップを行う。

 例えば、クライアント/サーバのシステム形式を用いることによりデータベースを分散化し、必要に応じてセンターに対してデータを転送するしくみ(ミラーリング等)を構築する。これにより、災害発生時に必要となるデータのバックアップを行う事が可能となる。また、ソフトウェアについても、特に災害発生時の初動体制確保を支援する機能については、バックアップセンターにおいて動作するような仕組みにしておく。

 これにより、システムを構築する際の基本的な考え方として、県庁のシステムやデータが機能不能となった場合にも、初動体制が確保できるような災害体制を確保する事が重要である。

 図表1.2.2にシステムの分散化とバックアップ機能のイメージ図を示す。


図表1.2.2 システムの分散化とバックアップ機能

2.3 網型ネットワークの構成

 情報を伝達する伝送路を多重化することで、網型のネットワークを構成する。これにより災害時に一部の回線に切断が発生した場合でも、動的なルーチングにより情報交換が可能となる。

 また、ネットワークを構成する伝送路を多重化し、複数の伝送手段によって情報伝達を可能とすることも重要である。たとえば、地上系の専用回線と衛星回線の2通りを準備しておき、専用回線が断線等の故障により機能しない場合に自動的に衛星回線に迂回させる。これにより災害耐性に優れたネットワークを構築することができる。

 図表1.2.3に網型ネットワークシステムの構成のイメージ図を示す。


図表1.2.3 網型ネットワークの構成

2.4 意思決定の支援機能

 特に県においては、災害の規模および被害の状況を把握し、それに即した対策を実施する。このために、災害および被害の状況に応じて対策を立案し、職員の招集、関係機関等も含めた情報交換等の実施を迅速に行い、災害に対応するための初動体制を早期に確保することが重要である。災害時に活躍する情報システムには、以下のような機能を保持することが重要である。図表1.2.4に、この機能を図示する。

(1) 地震計からの情報収集

 県内全域に設置した地震計からの地震情報を、専用線・衛星通信等の災害耐性の高い通信手段により県庁へ伝達・集中管理する。この際、微少な地震については除外し、被害の発生する恐れのある規模の地震の情報のみを伝達する。

(2) 被害予測シミュレーション

 収集した地震情報を元に、県内各地の被害状況を予測する。項目としては、家屋被害、ライフライン被害、火災、等があげられる。

(3) 外部機関との情報交換

 災害情報を把握するために気象庁等からの気象情報や警察・消防等からの高所カメラ・ヘリテレによる映像情報を入手するばかりでなく、ライフライン等を含めた外部機関との災害の状況や対策、復旧に関する情報を双方向で交換する。

(4) 地図情報・映像情報による意思決定の支援

 把握した災害の状況は、地図情報や映像情報とリンクして管理され、必要に応じて検索・表示される。地図情報は災害の地点を点・線・面(ポリゴン)のデータとして設定され、属性データとの組み合わせで災害の発生地点およびその状況を管理する。前述した地震の情報や被害の情報も、地図情報の形式で表示することで、状況の把握をビジュアル化できる。映像情報は、災害の状況をビジュアルに表現するために、高所カメラやヘリテレからのものばかりでなく、テレビ映像や8ミリビデオ、デジタルスチルカメラから取得され、災害の状況として管理する。

 これらのビジュアルな情報は、災害対策本部室内の大型ディスプレイに表示され、対策を検討する際の手助けとなる。


図表1.2.4 意思決定の支援機能

2.5 情報交換の機能

 「行政インターネット」によって接続される県庁や市町村、関係機関および住民等の間でシステムと接続するコンピュータを通じて双方向での情報交換を行う。ただしコンピュータを持たない住民との情報交換にも配慮し、災害発生時に住民の避難所や住民との接点となる施設に、市町村等の行政側で端末機等の機器を設置し、情報交換を可能とする。また、外国人や障害者等のいわゆる災害弱者にも考慮した、人にやさしい情報交換のインタフェースを実現することが重要である。

 図表1.2.5に市町村での情報交換システムのイメージ図を示す。


図表1.2.5 市町村での情報交換システム

 災害発生時に関係機関および住民等が必要とする情報は、災害発生からの時間経過によって推移していくが、大きく分けて災害時と復旧時の情報には次のようなものが上げられる。

(1) 災害時(災害発生後72時間以内)

  ・地震規模や余震の情報

  ・建築物・道路・鉄道・ライフライン・空港・港湾等の被害状況についての情報

  ・出火点や延焼状況についての情報

  ・地域住民の安否情報、避難路の状況に関する情報

  ・救援・救護に利用可能な施設・資材・人材に関する情報

  ・必要とされる救援・救出活動の内容やニーズに関する情報

  ・救援・救出活動の進捗状況についての情報

(2) 復旧時(災害発生後72時間以降)

  ・利用可能な施設・物資に関する情報、生活情報、行政サービスに関する情報

  ・地域全体の被害や副次的被害に関する情報

  ・行政の復旧・復興計画についての情報

  ・被災者支援団体・ボランティア情報、安否情報

 これらの情報のすべてを、行政機関の責任において提供するのが理想であるが、前述の通り、阪神・淡路大震災の際には約2日遅れたと言われている。そして、その間の情報は個人の責任の元で行われたものだとも言われている。今後の災害に対応するための情報発信のしくみとしては、すべての情報を行政の責任の下で発信するのではなく、個人の責任の下で行われる情報発信をどのような形でサポートするか、出来るかといった視点も重要である。

 コンピュータシステムによる情報交換の機能を災害発生時に活用するためには、平常時から情報交換が可能となるよう、住民の情報リテラシーを向上しておく必要がある。そのためには、防災訓練の実施による災害時利用の体験を行うばかりでなく、この機能を平常時から開放し、情報の交換を経験しておくことも重要である。

3. システムにおける技術要件

 以下では、災害時に活躍する情報システムを、県および市町村において実現する際の技術要件について述べる。

3.1 システムの基本概念

 本システムを構成する機関には、以下の5種類が上げられる。これらの機関は、災害発生時にそれぞれの機関の特性に応じてシステムを利用する。

(1) 県庁

 災害発生時における県の意志決定の最高機関であり、対策の実施主体でもある。ここでは災害発生時に、その災害の現状を迅速かつ正確に把握し、それを元に対策を決定する。そして、この対策を職員全員に周知徹底し、かつ対策に対応した的確な行動を取る必要がある。

(2) 県民局

 県庁の補完的な立場である。例えば県庁が激しく被災して機能不納となった場合には、県庁で取られるべき対策の内の一部を代行する事になる。

(3) 知事公舎

 災害が夜間等の知事が不在の時間帯に発生した場合の対策として、知事と情報交換を行うための機能が必要となる。リモートやモバイルでの利用形態が考えられる。

(4) 関係機関・県下全市町村

 被災状況や復旧状況を情報として収集し、県庁へ報告する。特に建物の状況等を災害発生直後の一次情報として早期に伝達する事で、概括的ではあるが生の災害状況を把握する事が可能となる。また、特に市町村では、被災した住民の状況等、個別の単位での情報を収集・管理して、よりマクロな災害情報として県庁へ報告する機能を有する。

(5) モデル市町村

 市町村は本来、県が必要とする情報の収集・伝達の機関にとどまらず、住民との接点を持った意思決定機関である。上述の県下全市町村の機能ばかりでなく、このために必要な情報交換機能をも実現した市町村をモデル市町村と位置付ける。このモデル市町村では、エリアとしては狭いが、より地域住民に密着した情報を収集・管理し、きめ細かなサービスを実現するために必要な情報交換の機能を有する。

(6) 公民館・出張所

 災害が発生した場合の住民との接点となる。特に大規模災害が発生した場合には、住人の避難所となることも考えられる。ここでは、住民が情報交換を行う際の末端となる情報端末機能を有する。

 図表1.3.1に、これらの機関が関連するシステムとしてのイメージ図を示す。


図表1.3.1 関連する機関

3.2 地図情報システム

 地域ごとの情報を地図上で表現する事により、ビジュアルで、把握しやすい情報表現が実現できる。情報表現の方法には、以下のようなパターンがある。

  ・行政界単位で区分した色分け

  ・メッシュ単位で区分した色分け

  ・地域ごとの棒グラフ等

  ・点・線・面によるシンボルの張り込み

  ・イメージデータの張り込み

 地図データには、火災発生や構造物の倒壊等、災害が発生してから初めて設定される情報もある。システムとして、行政の出先機関や関係機関が入手したそれらのデータを地図上で表現する機能や運用方式を用意しておくことが重要である。図表1.3.2に、地図情報システムのデータ表現の例を示す。


図表1.3.2 地図情報システム

3.3 ネットワークの伝送路

 情報を伝送するネットワークの伝送路は災害耐性のあるものである必要がある。これには、以下のような種類が挙げられる。それぞれの特徴は以下のとおりである。

(1) 専用線

  ・輻輳しない

  ・災害に比較的強い

  ・ランニングコストが比較的高い

(2) 衛星通信

  ・同報機能が利用可能

  ・災害に比較的強い

(3) 公衆回線(加入線網・ISDN網)

  ・輻輳が発生する

  ・ランニングコストが比較的安い

  ・災害に弱い

(4) 無線(防災行政無線)→専用線

  ・災害に比較的強い

(5) 光空間伝送

  ・輻輳しない

  ・ランニングコストがかからない

  ・悪天候に弱い

 図表1.3.3に各種伝送路のイメージ図を示す。


図表1.3.3 各種伝送路のイメージ

3.4 インターネットの新規技術

 昨今のインターネット技術の進歩には目を見張るものがあり、新しい技術がどんどん実用化されつつある。ここでは、情報伝達の仕組みとして以下の方式を検討した。これらの間には実用化の度合いに差があるため、システム化する際に、どの技術を取り込むかに付いては、その実用化の度合いを十分に把握した上で決定する必要がある。

 図表1.3.4に、新規技術のイメージを示す。

(1) リアルタイムオーディオ

 インターネット上のパケットによって、音声や画像を伝送する技術である。伝送路の混み具合や回線スピードによって情報が欠落する場合もあるが、現在利用されている伝送路であれば、一応実用的なスピードで動作する。

(2) 簡易テレビ会議(CU-SeeMe等)

 パソコンの上等に動画受信用にCCD等のカメラを設置し、それによって取得される画像情報を相手のパソコンに対してリアルタイムで伝送する装置、手法である。これも回線スピード等の制約は受けるが、一応実用的である。

(3) デジタル電子スチルカメラによる静止画像作成

 デジタル電子スチルカメラによって、静止画情報をデジタルデータとして作成し、各種編集ソフトによってそのデータをパソコンへ取り込む。現在では複数の機種がそれぞれの特色を持って発売されており、費用対効果の選択肢によって複数の機種の中から選択する事が可能である。十分に実用的な技術といえる。

(4) インターネットによるパソコン電話

 インターネットの回線を通じて電話をかけるというものである。原理的には音声をパケットに変換してインターネットの回線を通じて伝送し、それを復元する事で原理的には十分可能である。ただし、現在の技術では、今の電話ほどの音質を実現する事は困難であり、今後の実用化が待たれる。


図表1.3.4 新規技術のイメージ

3.5 多様な手段での情報交換と双方向性

 阪神・淡路大震災のあとで、商用パソコン通信の掲示板とインターネットのNetNewsの間で情報を共有する仕組みが考案され、実現されている。このように、複数の手段で同じ情報を共有する事は重要である。多様な手段からの参照、更新を可能とする事でその情報にアクセスできる可能性が広がり、利用者も増える事が期待されるためである。本システムでも、例えば県主導のBBSとインターネットを連動させ、それぞれの掲示板やメールをゲートウェイすることで、情報共有を図る必要がある。

 また、情報の伝達は一方向でなく、双方向である事が重要である。情報が一方向にのみ伝達されるのでは、住民に対するサービスという意味では不十分である。例えば、問合せと返答、要望と回答という形で一対となり双方向でのやり取りが実現する事が望ましい。

4. 運用における留意点

4.1 情報ボランティアとは

 情報ボランティアとは、「災害発生時の救援活動を支援するために、パソコン通信やインターネットなどの情報通信手段を使ってボランティア活動を行う人々」と定義できる。阪神・淡路大震災の際には、NIFTY-Serveの「震災ボランティアフォーラム」や、インターネットのメーリングリスト、NetNews、WWWなどを活用して情報交換を行い、ボランティア間の連絡網としてのネットワークを構成したケースが上げられる。また、通産省や郵政省およびパソコンメーカの協力により、被災地区に対して無償でパソコン約200台が提供されたが、被災住民はそれを使いこなせない場合が多く、パソコンのセッティングや使い方の説明、および代理操作により、商用パソコンネットやインターネットを通じて情報のやり取りを行ったケースもある。

4.2 情報交換を行う体制の整備

 災害発生時に備えて、普段から情報を専門に扱うボランティア集団を組織しておく事が重要である。この組織は、必ずしもボランティアである必要もないが、災害発生時の状況が予測できない時点で義務を背負う、あるいは背負わせるのは困難であり、災害発生時点で可能な人が行えばよいという程度の縛りとしてボランティアと位置付けておく。

 兵庫ニューメディア推進協議会では、行政としての体制整備として「情報団」の創設を提言、これによりきめ細かな情報収集・情報伝達が実現できるとしている。

 また、「インターVネット・ユーザ協議会」では、地震・水害等の災害救援活動を効果的に行う事を目的として、ボランティアと企業、大学、行政機関、マスコミなどが、互いに意見や情報の交換を行うことで、相互に活動や意図を知り、救援活動をコーディネートするための情報通信ネットワークづくりの構想および「情報団」のあり方について、ネットワーク利用者の立場から経験を集約し、提言としてまとめている。この「インターVネット・ユーザー協議会」は、震災支援活動を行った情報ボランティア(VAG、神戸大学情報ボランティア、WNN、NIFTY-Serve震災ボランティアフォーラム、IVN、インタ−Vネット淡路地区ユーザー等)の代表者、行政(兵庫県、郵政省、通産省)の担当者、VCOM運営委員から構成されており、インターネット上のメーリングリストを利用して議論を行っている。

 インターネットやパソコン通信を利用して住民等も含めて情報交換を行う事の利点は、個人の立場での生の情報がすばやく流通することである。ただし、場合によってはデマや流言飛語のような情報が一人歩きする危険性をあわせ持つ(例えば、避難所で生活していないと義援金を受け取ることができない、など)。デマ等の鎮静化のためには行政側から根拠のはっきりした情報が、適切なタイミングで、かつ適切な範囲に対して発信されることが非常に重要である。しかし、ネットの中の情報の流れを行政側が逐一モニターすることは極めて困難である。そこで、住民や情報ボランティア等のネット参加者がデマ情報を入手して疑問を感じたとき、その情報の真偽を問い合わせることのできる「目安箱」のようなメールのあて先を行政側に作っておき、問い合わせの内容に応じて行政側からの正確な情報をただちにインターネットやパソコン

通信にフィードバックする体制を作ることが重要である。この「目安箱」の応対の迅速さ、的確さは、住民と行政との間の信頼関係を構築するための礎となる。

 また、住民が個人の立場で自由に情報を発信する際のもう一つの弊害として、特定の個人や団体に対する誹謗中傷などの情報が流れる場合がある。民間のパソコンネットでは利用者とパソコン通信業者との間に一定の利用規定があるため、このような誹謗中傷に管理者が介入することもできるが、行政側がパソコンネットのホストを運営する際には、表現の自由の問題とも絡むため、取扱には細心の注意が必要である。このため、住民に提供するサービスのうち、どこまでが行政の責任で、どこからが個人の責任であるかを明確にしておくことが必須である。

4.3 情報ボランティアの活動パターン

 情報ボランティアの活動は、以下の4パターンに分類される。

(1) 地域型

 被災現場で活動する情報ボランティアである。この人々は、現地での調査を行い、

その結果を被災地の生の状況として収集する。また、その際に被災された人々の情報ニーズを把握することも行う。そして、収集されたそれらの情報を災害対策本部や各救援機関等へ積極的に提供する。

(2) ネット型

 被災現場の周辺で活動するボランティアではあるが、ネットワークを通じて情報のやりとりを行うことで被災地住民のお世話をするボランティアである。

(3)コーディネート型

 阪神・淡路大震災の際には、ボランティア活動も混乱しており、需要と供給の関係において有効な活用が困難であったと言われている。これは、ボランティアの間での相互の情報交換が困難であったことに起因するため、これらを解消するために地域型情報ボランティアや民間ボランティア団体および社会福祉協議会等の救援団体の間の調整を行う。

(4) 後方支援ネットワーク型

 情報をコンピュータネットワークで取り扱うことのできる形式に加工するためには、収集された情報を整理し、コンピュータへ入力・編集し、また最新の情報へ更新する等の作業が発生する。これらの作業は被災現場の周辺の限られた機器・人材で行う必要はなく、被災現場から離れた地域で作業することが可能である。災害発生時に取り扱われる情報の量は非常に膨大なものとなるため、これらの作業は災害の影響を受けていない遠隔地において作業を行うのが望ましい。

4.4 行政への要望

 阪神・淡路大震災の際に活躍した情報ボランティアからの提言の基本的な方針は、「今回の震災で行われた情報ボランティアの活動を、そのまま今後の情報ボランティアの活動として継承するのではなく、社会全体の情報通信インフラの普及によって、また、行政の防災情報通信システム整備によって実現可能なものにしていく」ことである。

 そのために、行政組織への要望として、住民の誰もがネットワークを活用して情報ボランティアとして活動できるよう、情報通信のためのインフラを整備すること、および平常時から住民の情報リテラシーを向上し、インフラ・システムを効率的に利用できるようにしておくことが重要である。

                                     第1部終わり


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