電子ネットワーク協議会の「倫理綱領に抗議します」会合の議事録(案)
4月4日、「倫理綱領に抗議します」のメンバーの方々と電子ネットワーク協議会および通産省が話し合いの場を持ちました。以下は、その会合の議事録(案)です。
この議事録は、テープをもとにメモをつくり、そのメモを内容ごとに分けて編集したものです。しゃべり言葉は冗長であったり、言葉が足りなかったりしますので、そういう部分は可能なかぎり文意をくみ取る形で書くように努力しています。しかし、ご発言いただいたご本人への確認はとっていませんので、勘違いなどでご発言くださった方の真意と異なっている部分もあるかもしれません。その際はご指摘くださるようお願いいたします。
なお、抗議メンバーの方々のご発言は、●印がついている部分となっています。どなたが発言したかというお名前までは入れていませんが、異なる方の発言はそれぞれ分けてあります。(議事録作成者:山本葉子[19960421])
電子ネットワーク協議会の「倫理綱領に抗議します」会合の議事録(案)
●日 時:1996年4月4日(木)14:00〜16:00
●場 所:(財)ニューメディア開発協会B会議室
●出席者:「抗議します」メンバー
(敬称略) 小倉先生、崎山、近藤、福富、金田、野村、小倉、長沢、今井、吉本
通産省
小林、伊原、井上
電子ネットワーク協議会
国分、山科、月崎、山本
●概 要:
- 「倫理綱領に抗議します」のメンバーより、抗議文(賛同者リスト付)と質問書を受け取った。
- 電子ネットワーク協議会としての考え方を専務理事より説明した。
- 次に、通産省の基本的考え方について通産省より説明があった。
- 「倫理綱領に抗議します」のメンバーとの質疑応答を行った(詳細内容は以下を参照)
- オープンに議論できる場を設置すること、質問書へ回答すること、自主ガイドラインは多くの方々の建設的な意見をいただきながら内容についてバージョンアップしていくことを確認した(時期については未定)
「抗議します」メンバーの抗議のポイント
(1) 自主ガイドラインとは考えられない
(2) 広く意見を受け付ける形で発表されていない
(3) 自主ガイドラインがつくられたプロセスがオープンになっていない
(4) 議論を歓迎する形になっていない
(5) 世間に与える影響力についての自覚がない
(6) 過剰な自主規制につながる恐れがある
(7) インターネットを理解していない
詳細内容
1.電子ネットワーク協議会としての考え方
→「『倫理綱領に抗議します』に対するコメント」をもとに説明
2.通産省としての考え方
→「『倫理綱領に抗議します』についての基本的考え方」をもとに説明
3.「倫理綱領に抗議します」の人たちとの質疑応答
[1]自主ガイドラインの内容について
(1) 自主ガイドラインとは考えられない
- 電子ネットワーク協議会内部で決められた自主ガイドラインであり、電子ネットワーク協議会外の方には参考資料ということで配布したと言うが、非常に疑問である。これは通産省の外郭団体の行政指導ではないか。事実、いま通産省からもらった資料に「自主ガイドラインに対して撤回の意味がない」と、この発表に踏み込んだ判断を通産省がやっているのが大いに問題である。自主ガイドラインとは考えられない。電子ネットワーク協議会が自主的につくったという根拠は薄いのではないか。
- 電子ネットワーク協議会に属している東京インターネットの社長である高橋徹氏および、IIJの吉村伸氏らは、この自主ガイドラインに対してかなり批判的である。高橋氏は、東京インターネット社長および日本インターネット協会事務局長であり、そのような公人としての立場として読売新聞でコメントしている。吉村氏は、Internetworking(アスキー)の記事でそのような考えを公開している。
念のため、こちらとしては次の段階として、電子ネットワーク協議会加盟各社にこのガイドラインに対する見解を聞くという形になる。
→東京インターネットは電子ネットワーク協議会の会員だが、IIJは違う(ENC)
(2) 広く意見を受け付ける形で発表されていない
- 撤回を申し入れている理由は、インターネットのRFCのような形で批判を受けつける形で発表されていないからである。このような形態、仕組みづくりをしない段階で、批判に対して撤回の意味がないと言っているが、撤回の可能性もあるということを含めて議論の場にのせるべきではないかというのが判断である。
- この自主ガイドラインの発表形式が議論を歓迎する形になっていないのは間違いない。また、発表されたものがネットワークユーザーを対象にしていない。それが、なぜネットワークを利用する方へのルール&マナー集となっているのかよくわからない。これはサンプルなのか。
→ユーザーは発表対象にしていない。各ネット運営者が運営上ユーザーに提示するときの参考資料として作成したもの(ENC)
- 参考資料とは何も書いていないが。
→この自主ガイドラインを送付した際に同封した送り状に明確に書いてある(ENC)
- そうはいっても、発表資料にはそのことは何も明確には書かれていない。倫理綱領も案となっているわけでなく、皆さんと議論するためのたたき台です、となっているわけでもない。議論歓迎という趣旨があるなら、なぜもっとみんなで議論するという形で出さなかったのか。
→案と書くことは、自分たちとして意思決定できないことになる。つまり、自分たちとしてはこのような考えを持っているがいろいろな人から意見をもらわないと決まらない話なのです、ということになるが、そうするかどうかではないか。電子ネットワーク協議会としてこのガイドラインをつくり、通産省の判断としてよいとして、このような形で発表した。このような発表について意見を受け付けないことはなく、批判もあびれば賛成も得る。問いかけの形になっていなかったのは、発表の仕方としてうまかったかまずかったかであるが、そうすべきであったかどうかは別の問題である(通産省)
(3) 自主ガイドラインがつくられたプロセスがオープンになっていない
- 電子ネットワーク協議会で、今回の問題を決める方法は?
→業務委員会に著作権と基本問題の分科会がある。その基本問題分科会でコンセンサスを得ながらまとめた(ENC)
- そこで決まったことが、電子ネットワーク協議会の決定という手続きなのか、あるいは、業務委員会の上の委員会で決定されるのか。
→業務委員会は会社に報告していると理解している(ENC)
- ガイドラインがどのように決まったのかのプロセスがブラックボックスである。だから撤回してほしいと申し上げている。オープンになっていないことに、抗議という言葉を使ったことをご理解いただきたい。
- インターネットではリクエストをとったものについて見えるところで協議する場がある。しかし、今回の倫理綱領の件で電子ネットワーク協議会に抗議しても、それがどうなるかまったくわからない。我々の意見によって直すとか、協議する、こういう場でオープンにすると言ってもらえれば何も問題ない。
→基本問題分科会において、皆さんの意見を賛成・反対含めて議論する形をとる(ENC)
(4) 議論を歓迎する形になっていない
- 議論を歓迎するといっているが、我々からは歓迎しているようには見えない。
- 各論については質問書を出している。議論を歓迎するというのなら、出した質問に対してぜひ返答いただきたい。
(5) 世間に与える影響力についての自覚がない
- 発表のとき、通産省と電子ネットワーク協議会は連名になっており、かつ通産省の名前のほうが上にきている。通産省がなぜこのようなものを所轄しているのか疑問であり、通産省という社会的力を持っているところがこういう形で出したものは社会的力を持っているという自覚がない。
→我々にとっては連名の上下はあまり意味がない(通産省)
- 個人が「いいね」ということ通産省が「いい」ということは社会的な意味が違ってくることは十分承知しているか。
→承知している。なお、実質的拘束力を持っていることをお墨付きというのなら、今回はそうではない(通産省)
- 直接許認可権がないところに対してまで通産省はなんらかの影響を及ぼすことがあるということを懸念する。自主ガイドラインでもっとも影響を被るのは誰かという点で、一般のネットワーカーが知らないところで何かが進んでいるのではないかという危惧を持つ。単に発表のやりかたが上手い下手という問題ではなく納得できない。
- どこにも適用される形できつい縛りがあると感じる。
- このガイドラインが出てから、出版で許されていることもできなくなった。ベッコアメ事件が起きたからではなく、ガイドラインが出されたからである。見ていればわかる。
→各事業者の対応が事件が起こった次の日になされるということは経験上ない。ホームページをみんなが変更したことはベッコアメ事件の影響のほうがウェイトが大きいと考えていた(通産省)
- このガイドラインによってある種好ましい方向にいっていると考えているのか。
→企業からの転載願いが多いので、企業などで活用されつつある、出してよかったと考える。効果としてはありがたがられているという点(ENC)
→ホームページが倫理綱領のなんらかの影響によって変わったとしても、それについていいか悪いかの判断や評価は通産省はしない。通産省が気にするのは、ネットワーク事業者が会員規約を整備しているか、被害にあったユーザーへの対応窓口をつくっているか、などである(通産省)
(6) 過剰な自主規制につながる恐れがある
- ポルノや誹謗中傷は民事の問題で刑事不介入であり、そういう問題に対してまで別のガイドラインを設けることは、法的規制以上に締め付けのように感じる。自主ガイドラインは、ネットワーカーやネットワーク事業者に対して目に見えない形の心理的な圧迫になり、過剰な自主規制につながっていくのではないか。
→自主ガイドラインの今後としては、通産省の基本的な考え方をネットワーク上で公開するので、意見をいただきたい。内容を含めてどうするかは電子ネットワーク協議会で議論していくだろう。
ネットワーク上の倫理問題について特別立法で対応しようという考えはある得るかもしれない。もしいまの法体系の刑法で判断されて違法であるとされるものは刑法でとらえ、民事裁判が必要な場合は民法で判断されるべきだろう。いまの時点では特別法についての議論はないしコンセンサスはない。今回のガイドラインでいまの刑法や民法での対応をオーバーライドして、このガイドラインで全部けりをつけようと思っているのではない。刑法や民法は実際に被害が出たあとの対応であり、裁判的対応以前に被害を未然に防ぐという対応も考え方としてある(通産省)
- 倫理問題やポルノの問題は我々自身が常に対応に苦労しているものなのである。自主ガイドラインは一般から見るとお墨付きに見える。市民ネットワーカーやプロバイダに開かれた形をとらずに自主規制が進むのではないかということに抗議する。
(7) インターネットを理解していない
- 事業者とユーザーを分けてとらえているが、今後、ネットワークにつながりっぱなしという状況になると考えられる。そうなると、各ユーザーが自分のコンピュータでいま事業者がやっているようなことができるようになる。事業者だけに話をするというのは時代に合わない。
- いちばん大きいことはインターネットについてご理解いただいていないのではないかという点である。
- たとえば、「この種の検討は、米国においてインターネット技術タスクフォース(IETF)によるネチケットガイドラインが昨年10月に作成されているのみであり」というのは明らかな誤解である。ISOCもIETFも米国の機関ではなく国際組織であり、日本人も入っている。
- ここで出来たRFCという文書と倫理綱領とでは矛盾しあう記述、違う点がある。たとえば、国籍否定ともとれる部分もある。したがって、RFC1855に対して批判的内容でもある。倫理綱領はISOCやIETF、K12などとどのようにフィックスしいくつもりなのか。パソコン通信事業者だけを対象としていると思うが、いまこれだけインターネットとシームレスになっていることを理解していないのではないか。
- ISOCに対してどのようにアプローチするのか。インターネットはユーザーが運営しているのであり、業者が運営しているのではない。
→インターネットについてはあまり議論していない(ENC)
→このガイドラインは現時点では日本国籍のネットワーク事業者とそのユーザーを対象としている(通産省)
- それは無謀。国内と国籍は違う。日本の国内にいるアメリカの事業者もいるし、アメリカにいる日本人が日本にいるアメリカの事業者のユーザーになっていたりもする。このガイドラインは実際にそぐわない。
- ネチケットガイドラインが想定しているネチケットとガイドラインで言っている倫理とは分野が違う。分野が違うのに並べて発表しているのは、単に、アメリカでもやっているんだと言いたかっただけではないのか。
- ネチケットガイドラインと倫理綱領はプロセスが違うのである。ネチケットガイドラインはRFC、つまり意見をくださいと最初から言っているもの。ルールでもマナーでもなく、ネチケットなのである。
- パソコン通信システムしか考えていないからいけない。電子メールは1対1といっても、インターネットではメーリングリストがあったりする。これは公開の場なのか違うのか、また、これはユーザー自身がこれを運営している。あるいは、電子掲示板に暗号をかけてメッセージを送ったらそれはどうなるのか。1対1の通信が電子掲示板で行えてしまう。
- こういう自由度があるのがインターネット。さまざまなことの積み重ねで発展してきているインターネットとパソコン通信をミックスされると困る。
[2]関連質問
(1) 通産省に関して
- 通産省はパソコン通信事業者を所轄しているのか。それは業務の範囲なのか。
→法的な規制でつながっていることが通産省の活動のベースになっているのではない(通産省)
- 通産省は、今回の件に関して行政指導的なことを考えているのか。
→考えていない。ただし、通産省が「こういうことはいいことですね」とひとこと言うことが行政指導だと定義するならそうなってしまうが、一般的に行政指導というのは、許認可権はないが「こういうことをやりなさい」ということである(通産省)
- まさにこれがそうではないのか。
- 今回のようなものはお墨付きに見えるが、お墨付きを出すことはよくあるのか。
→よくある。しかし、今回の件はお墨付きというものではない(通産省)
- 通産省内にこのような倫理問題を扱う委員会はあるのか。
→委員会はない。セクションとしては我々のところで担当する(通産省)
- 我々が通産省に希望や要望を出したら、通産省はどのように対応するのか。
→ガイドラインに対する意見は、このような意見が寄せられたということで電子ネットワーク協議会に伝える。ガイドラインを越えた意見があれば我々が対応する(通産省)
(2) 電子ネットワーク協議会について
- 会員内部にはある程度拘束力、強制力はあるのか
→強制力は何もない。しかし、集まってコンセンサスを得ながら決めたものなので、作業に参加した組織は社内でも基本的には賛成していると理解している。また、会員組織には活動成果を還元するということで配布して、意見があれば事務局にレスポンスできる形になっているので、組織の中ではそれなりに尊重されてしかるべきと考える(ENC)
→一般論では、このような団体に属する会員組織が団体が決めたことに反した場合に、その団体と会員会社の関係で何かあるということは基本的にはない。しかし、通常の場合は決めた段階で、会員会社としての意見を出してもらっているので、そこに出てきている会員会社としては、少なくとも組織としては納得したということになるのが一般的である。組織として東京インターネットがどう考えるかということと、高橋徹氏個人としてのご意見がどうかということは別であろうと考えられる(通産省)
[3]今後の対応についての要望など
(1) 誰でも参加可能なオープンな議論の場を用意してほしい
- 通産省が議論を歓迎するというは肯定的で評価できる。紳士的で誠実な対応である点も評価できる。
- この議論の場を一回限りにせずオープンにしたいという人もいるので、対応をお願いしたい。
- こういう議論をネットワークのユーザーに投げかけてほしい。出版より厳しい法規制がネットワーク内で行われてしまった感じがする。
- 自主規制をプロバイダや事業者にではなく、ユーザーに呼びかけてほしい。直接そのような形でやってもらえればユーザーは反応する。ベッコアメ事件のあと、ある日突然プロバイダで自主規制が始まって、ユーザーはホームページをつくりかえた。大勢の人間はホームページをつくりかえるしかなく、議論も何もなかった。
- 規制の問題についてホームページにでも議論の場をつくってはどうか。書き込みがすべて見えるような。
- なんらかの具体的アクションを見せてほしい。一般のユーザーはまだ自主規制について知らないので、知らせる場をつくってほしい。
→オープンな場で透明性を持ってどのような意見があるかわかるようにしてほしいということと理解したし、通産省の議論を歓迎する方針は変わらない(通産省)
- 道徳や倫理は、なんらかの規制にそぐわないものであるという共通の認識を持った上で、公開で討論する必要がある。
- どういう意図であれ、公的、半公的機関が出したコードは有形無形の拘束力を持つし、個人の内面に関わるので非常に慎重に考えてほしい。
→内面の問題についても含めてオープンに議論すればよいと考える(通産省)
(2) 法的規制との関係について
- ネットワーク事業者としてコモンキャリア的サービスと情報にチェックを入れる情報ゲートキーバー的サービスと両方あってよいというのが吉村伸さんのInternetworkingの議論だが、今回のような倫理綱領の形でくるとコモンキャリア的サービスは否定されてしまっているような感じだ。いま出ているInternetMagazineのプロバイダの一覧にWWWのページのチェックをしたり削除したりするかという欄があるが、かなりのプロバイダがチェックするになっており、倫理綱領の影響ではないか。
- 通信の秘密と検閲の禁止は憲法にある。しかし、ルール&マナー集には猥褻な画像や文章をのせてないけないと書いてあるので、表現や検閲の問題を電気通信事業法にのっとってやっていた事業者が通産省に追認されてルールをつくりだしたということは十分にありえる。その影響力が明らかにある。逆に、これで内容規定をしている限り、コンテントについて事業者は共同責任を負わなければならない、免責されない。ベッコアメ事件では、関係ない人の電子メールまで持っていかれた。それは電気通信事業法違反である。なぜそれを書いてくれないのか。
- 刑法の拡大解釈が行われている現状を遺憾に思っている、それに対抗して、これ以上刑法の判例の積み重ねで判断されては健全なネットワークの発展はないと電子ネットワーク協議会では言っていた。なぜそれを書いてくれないのか。
→それはベッコアメ事件とは別の話(ENC)
- ネットワーク事業者は電気通信事業者であり、電気通信事業法を守るのは義務であるが、自主ガイドラインではその義務を守らなくてよいと読める。
以上
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